39 / 79
【監禁されちゃう覚悟ありで、このまま押し掛け旦那になってもいいんですよ】
妄想の素材をあまり提供しないで頂きたい。嘘です、もっと欲しいのが本音です(青鬼陽・談)
しおりを挟む
結局私は、コレは据え膳では無い方に全てを賭けて、しっかり上下ともに私服を着込み、髪をタオルで拭きながら居間に戻った。
何だかんだで時間がかかり、シャワーを浴びていただけだというのに、三十分くらいは浴室に居たと思う。隅々、とまではいかないがそれなりには丁寧に全身を洗って、そこそこの状況変化には耐え切れるようにした。…… 捨て切れなかったのだ、上げ膳かもしれないという思いを。
「待たせてしまってごめんね、兄さん」
「あがったんですね、丁度良かったです」
そう言って兄さんが振り返る。着ていた上着は脱いでいて、グレーの大きめなパーカーと濃紺のジーンズ姿はいつも以上に少年そのものだ。
スカートを穿いた“オトコの娘”バージョンの彼しか見てこなかったせいか、とても新鮮に感じられる。こうも可愛い人が世の中に居ていいのか?いいや、ダメだろ。他の人間に見せていいものじゃ無い。理性を失い、即犯罪者だ。よくまぁここまでの道中無事に辿り着けたものだ。兄さんは案外、可愛らしい顔をして実は美丈夫なのかもしれない。
私が胸をときめかせながら兄さんに惚れ直していると「お腹空いていませんか?」と、訊かれた。
「空いてるけど…… あれ?」
兄さんにばかり視線を独占されていたせいで今更気が付いた。室内に美味しそうな香りが充満し、部屋に置いてあるテーブルの上には色々な料理が並んでいるではないか。
少しぶっ格好な卵焼き焼き、揚げ過ぎ感のある唐揚げ、ちょっとまだ水っぽそうなほうれん草のお浸し、などなど。定番と言えるお弁当のおかずと、丸く握られたおむすびがずらっと広げられていた。
「どうしたの?コレ」
パッと表情が明るく花開き、嬉しい気持ちがダダ漏れになる。入れ物はいかにもただの保存容器で色気も無いし、仕上がりはどう見ても市販のお弁当を別の容器に移してきた感じじゃ無い。コレはまさか、兄さんの手作りなのでは?
「すみません。お節介かとも思ったんですが、朝は一日の基本ですから何かしっかり食べてもらいたいなと思って。明さんから『兄さん宅にまともな調理用具は無いから、家で作ってから持って行くのが賢明だ』と聞いて、家事の得意な圭君に作り方を教えてもらったんです。弟に訊くとか、ちょっと恥ずかしかったですけど、ね」
わざわざ?マジかー。イケメンかよ。何?もう悶えすぎて死にそうなんだけど。
髪を拭いていたタオルの両端を引っ張り、そのままの格好で天井を仰ぎ見る。愛されてる気がしてならない。勘違いじゃないのでは?コレってもう両想いって事でよくありませんか?と、思考が暴走し始める。
「髪ちゃんと乾かさないと風邪ひいちゃいますよ」
そう言って、兄さんが背伸びをして私の髪を包むタオルに触れると、腕を目一杯伸ばしてゴシゴシと拭き始めた。
ち、近い!ほぼ互いの胸がくっついている。無理に頑張らせてしまっている姿があまりに可愛くって、身長差に感謝したい気持ちに。
「家にドライヤーはありますか?無いなら買って来ますけど」
やたらと買ってる宣言が多いのは、居間に何も無いせいだろう。
「あ、いや、あるよ。大丈夫。乾かしてくるね」
真っ赤になってしまう顔を俯いて隠すと、拭きやすくなったのか、兄さんの手付きが優しくなった。背伸びしていた踵を下ろし、隅々まで水分を取ってくれようとする。このままタオルを握る手を離したら、目の前の兄さんを抱きしめてしまいそうだ。
だがしかし、今はまだ妹達の姿が此処には無いが、いつどこで見張っているかもしれないから抱いてしまわないよう堪えねば。
「タオルでの拭き取りはこのくらいでいいですかね。行ってらっしゃい」と言いながら兄さんはタオルから手を離すと、私の胸をポンッと軽く叩いた。
行ってらっしゃいとかー!夫婦かよっ。
ここが玄関ではなく、スーツ姿でもないし出勤前ですらないというのに、新婚夫婦の朝のやり取りが頭の中で再現されてしまう。私はゴミ袋と仕事用の鞄を持っていて、白いエプロンを着けた兄さんの足元には何でか小さな双子の子供達がしがみつき、『とーたんいってらっちゃい』なんて舌足らずな言葉でお見送りをしてくれる。
『じぶ…… 私も、この子達を送り届けたら出勤しますから、また後で』
『ん?まだ“私”呼びに慣れていなの?これだと今夜もお仕置きしないとだね』
兄さんの耳元に近寄り、子ども達には聞こえない様に小声で言う。
すると兄さんは私のネクタイをギュッと掴んで少し引っ張り、『今夜も、だろう?』と意地の悪い声で——
「陽さん?」
「はい⁉︎」
兄さんの、声変わり前みたいな少し高い声で名前を呼ばれ、慌てて妄想を中断させる。ヤバかった、あのまま兄さんの意地悪な男前ボイスを聴き続けていたら、夢想でしかないと分かっていても本人の前で勃っちゃうところだったよ。
「行かないんですか?」
「…… (イキたいです、兄さんの中に)。い、行ってくるね。すぐ戻るから待っていて」
本音を隠し、洗面所に戻って行く。朝食をいただく前に、お手洗いにも寄らねばならなくなった事は言うまでも——以下略。
何だかんだで時間がかかり、シャワーを浴びていただけだというのに、三十分くらいは浴室に居たと思う。隅々、とまではいかないがそれなりには丁寧に全身を洗って、そこそこの状況変化には耐え切れるようにした。…… 捨て切れなかったのだ、上げ膳かもしれないという思いを。
「待たせてしまってごめんね、兄さん」
「あがったんですね、丁度良かったです」
そう言って兄さんが振り返る。着ていた上着は脱いでいて、グレーの大きめなパーカーと濃紺のジーンズ姿はいつも以上に少年そのものだ。
スカートを穿いた“オトコの娘”バージョンの彼しか見てこなかったせいか、とても新鮮に感じられる。こうも可愛い人が世の中に居ていいのか?いいや、ダメだろ。他の人間に見せていいものじゃ無い。理性を失い、即犯罪者だ。よくまぁここまでの道中無事に辿り着けたものだ。兄さんは案外、可愛らしい顔をして実は美丈夫なのかもしれない。
私が胸をときめかせながら兄さんに惚れ直していると「お腹空いていませんか?」と、訊かれた。
「空いてるけど…… あれ?」
兄さんにばかり視線を独占されていたせいで今更気が付いた。室内に美味しそうな香りが充満し、部屋に置いてあるテーブルの上には色々な料理が並んでいるではないか。
少しぶっ格好な卵焼き焼き、揚げ過ぎ感のある唐揚げ、ちょっとまだ水っぽそうなほうれん草のお浸し、などなど。定番と言えるお弁当のおかずと、丸く握られたおむすびがずらっと広げられていた。
「どうしたの?コレ」
パッと表情が明るく花開き、嬉しい気持ちがダダ漏れになる。入れ物はいかにもただの保存容器で色気も無いし、仕上がりはどう見ても市販のお弁当を別の容器に移してきた感じじゃ無い。コレはまさか、兄さんの手作りなのでは?
「すみません。お節介かとも思ったんですが、朝は一日の基本ですから何かしっかり食べてもらいたいなと思って。明さんから『兄さん宅にまともな調理用具は無いから、家で作ってから持って行くのが賢明だ』と聞いて、家事の得意な圭君に作り方を教えてもらったんです。弟に訊くとか、ちょっと恥ずかしかったですけど、ね」
わざわざ?マジかー。イケメンかよ。何?もう悶えすぎて死にそうなんだけど。
髪を拭いていたタオルの両端を引っ張り、そのままの格好で天井を仰ぎ見る。愛されてる気がしてならない。勘違いじゃないのでは?コレってもう両想いって事でよくありませんか?と、思考が暴走し始める。
「髪ちゃんと乾かさないと風邪ひいちゃいますよ」
そう言って、兄さんが背伸びをして私の髪を包むタオルに触れると、腕を目一杯伸ばしてゴシゴシと拭き始めた。
ち、近い!ほぼ互いの胸がくっついている。無理に頑張らせてしまっている姿があまりに可愛くって、身長差に感謝したい気持ちに。
「家にドライヤーはありますか?無いなら買って来ますけど」
やたらと買ってる宣言が多いのは、居間に何も無いせいだろう。
「あ、いや、あるよ。大丈夫。乾かしてくるね」
真っ赤になってしまう顔を俯いて隠すと、拭きやすくなったのか、兄さんの手付きが優しくなった。背伸びしていた踵を下ろし、隅々まで水分を取ってくれようとする。このままタオルを握る手を離したら、目の前の兄さんを抱きしめてしまいそうだ。
だがしかし、今はまだ妹達の姿が此処には無いが、いつどこで見張っているかもしれないから抱いてしまわないよう堪えねば。
「タオルでの拭き取りはこのくらいでいいですかね。行ってらっしゃい」と言いながら兄さんはタオルから手を離すと、私の胸をポンッと軽く叩いた。
行ってらっしゃいとかー!夫婦かよっ。
ここが玄関ではなく、スーツ姿でもないし出勤前ですらないというのに、新婚夫婦の朝のやり取りが頭の中で再現されてしまう。私はゴミ袋と仕事用の鞄を持っていて、白いエプロンを着けた兄さんの足元には何でか小さな双子の子供達がしがみつき、『とーたんいってらっちゃい』なんて舌足らずな言葉でお見送りをしてくれる。
『じぶ…… 私も、この子達を送り届けたら出勤しますから、また後で』
『ん?まだ“私”呼びに慣れていなの?これだと今夜もお仕置きしないとだね』
兄さんの耳元に近寄り、子ども達には聞こえない様に小声で言う。
すると兄さんは私のネクタイをギュッと掴んで少し引っ張り、『今夜も、だろう?』と意地の悪い声で——
「陽さん?」
「はい⁉︎」
兄さんの、声変わり前みたいな少し高い声で名前を呼ばれ、慌てて妄想を中断させる。ヤバかった、あのまま兄さんの意地悪な男前ボイスを聴き続けていたら、夢想でしかないと分かっていても本人の前で勃っちゃうところだったよ。
「行かないんですか?」
「…… (イキたいです、兄さんの中に)。い、行ってくるね。すぐ戻るから待っていて」
本音を隠し、洗面所に戻って行く。朝食をいただく前に、お手洗いにも寄らねばならなくなった事は言うまでも——以下略。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
OLの花道
さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家
恋愛
久遠時 和歌子(くおんじわかこ)。二十五歳、独身。花(?)のOL。
現在、憧れ上司に片想い中。
それがまた問題で・・・・片想いの相手は、奥様のいらっしゃる上司だったり。
決して実る事の無い恋に悩む和歌子に、ある日転機が訪れる。
片想い中の上司・三輪 庄司(みわしょうじ)に、食事を誘われたのだ。
――相談があるんだ。
一体何の相談!?
罪悪感もさながら、心ウキウキさせて行くと・・・・?
とんでもない事を頼まれて
とんでもない事を引き受けてしまう、和歌子。
さらに年下イケメン部下に好かれてしまって・・・・?
愉快なOLライフストーリー。
仕事も恋も、和歌子、頑張ります!!
◆スペシャルゲスト◆
櫻井グループ御曹司・櫻井王雅
主人公が活躍の小説『コロッケスマイル』はコチラ
https://www.alphapolis.co.jp/novel/465565553/343261959
◆イラスト◆
お馴染み・紗蔵蒼様
当作品が、別サイト開催の『光文社キャラクター大賞』で
優秀作品に選ばれました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
おじさんは予防線にはなりません
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」
それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。
4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。
女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。
「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」
そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。
でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。
さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。
だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。
……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。
羽坂詩乃
24歳、派遣社員
地味で堅実
真面目
一生懸命で応援してあげたくなる感じ
×
池松和佳
38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長
気配り上手でLF部の良心
怒ると怖い
黒ラブ系眼鏡男子
ただし、既婚
×
宗正大河
28歳、アパレル総合商社LF部主任
可愛いのは実は計算?
でももしかして根は真面目?
ミニチュアダックス系男子
選ぶのはもちろん大河?
それとも禁断の恋に手を出すの……?
******
表紙
巴世里様
Twitter@parsley0129
******
毎日20:10更新

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる