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【ホテルという言葉の奥に潜む罠】
答え合わせ①
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本日も無事に仕事を終えた奏が、鞄を肩にかけてロビーへと向かう。その先には当然、陽がタブレットを見ながら立っており事前に彼女を待っていたのだが、もう奏は驚かなかった。毎日バラバラな時間に仕事を終えるのに、それでもほぼ毎回、約束をせずとも遭遇し続けていれば誰だって慣れてしまい、そう思う様になるだろう。
「お疲れ様です。今からそちらもお帰りですか?」
「お疲れ様、兄さん。そっちもお仕事が終わったところだよね。一緒に駅までどうかな。私的には、兄さんの家まででもいいけど」
「じゃあ、駅までなら」
内心では残念だなと思いながらも、陽は笑顔だけで『よかった。じゃあそれで』と返す。奏の住んでいる場所が実家でなければもっと強く出て、宅飲みでも誘ってその後は——くらい企み、当然即実行するのだが、それが出来ないのが残念だ。だが、そこまで考えて陽が軽く首を振った。ゆっくり慎重的にいけと、寺島に釘を刺されたばかりではないか、と思い出したからだ。
でも…… 奏を前にしてはどうしたって気分が高揚し、心が躍る。どうしたって、色々な薬品の香りが残る髪に触れてみたくなるし、白くて細いうなじには噛みつきたい衝動が胸の奥で燻ってしまう。どうしてここまで惹かれるのか。もしいつか本人に訊かれる機会があったとしても、一目惚れってやつだったんだろなとしか答えられそうにない。猫のように大きな瞳や少年っぽさのあるキリッとした目元に見詰められては、奏に射抜かれぬ者などきっといないだろう。
…… 自分だけでは無いのだろうな、兄に惚れているのは。
そう思うだけで腹の奥にドス黒い感情がぐつぐつと湧き出す。だが「どうかしましたか?」と、奏に顔を見上げられた瞬間、その気持ちはスッと鳴りを潜めた。
「手とか、繋いでもいい?」
「え…… 。『手とか』ですか?…… 『とか』?『とか』って…… 」
どぎまぎと答え、奏の顔が強張る。あまり良い反応では無いのに、陽は自分の行動で普段は無表情な兄の顔が変化しているというだけで、ちょっと嬉しくなった。
「兄弟なんだし、手を繋ぐくらい普通でしょ?」
「でもそれは子ども同士ならって話ですよね」
「ほら、私達はちょっとスタートが遅かったから仕方ないでしょう?それか漫画みたいに、子どもの体に戻っちゃう薬とか、お兄さんが作ってくれたっていいんだよ。そうしたら一緒に手を繋いで公園でも行って、暗くなるまで走り回って遊ぶっていうのも、楽しそうだね」
手を差し出し、ニコニコと笑いながら陽がそんな冗談を言った。
すぐにその手を取る事はせず、奏がクスッと笑う。そして「走るのは、子どもの頃から苦手だったので、自分は砂場でお城作りとかを希望してもいいですか?」と答えた。
「もちろん。じゃあ、バケツとかスコップとか、全てゼロから揃えないとね」
ふふっと笑い合い、空気が和む。その隙を突いて陽は奏の手を勝手に掴むと、ロビーの中を一歩先に歩き始めた。
「よ、陽さん⁉︎ああ、あの——」
「いいじゃないですか、誰も見てなんかいませんよ」
軽く振り返り、陽はそう言ったがロビーには警備員のお兄さんが立っている。『でも、あの!』と言葉には出ずとも動揺しながら警備員さんの方へ奏が顔をやると、ニッコリと微笑まれてしまった。
そのせいで、恥ずかしくって奏の顔が一気に赤くなる。でも表情が相変わらず固いままだったので、警備員さんがその顔を見てちょっと吹き出してしまったのだった。
「お疲れ様です。今からそちらもお帰りですか?」
「お疲れ様、兄さん。そっちもお仕事が終わったところだよね。一緒に駅までどうかな。私的には、兄さんの家まででもいいけど」
「じゃあ、駅までなら」
内心では残念だなと思いながらも、陽は笑顔だけで『よかった。じゃあそれで』と返す。奏の住んでいる場所が実家でなければもっと強く出て、宅飲みでも誘ってその後は——くらい企み、当然即実行するのだが、それが出来ないのが残念だ。だが、そこまで考えて陽が軽く首を振った。ゆっくり慎重的にいけと、寺島に釘を刺されたばかりではないか、と思い出したからだ。
でも…… 奏を前にしてはどうしたって気分が高揚し、心が躍る。どうしたって、色々な薬品の香りが残る髪に触れてみたくなるし、白くて細いうなじには噛みつきたい衝動が胸の奥で燻ってしまう。どうしてここまで惹かれるのか。もしいつか本人に訊かれる機会があったとしても、一目惚れってやつだったんだろなとしか答えられそうにない。猫のように大きな瞳や少年っぽさのあるキリッとした目元に見詰められては、奏に射抜かれぬ者などきっといないだろう。
…… 自分だけでは無いのだろうな、兄に惚れているのは。
そう思うだけで腹の奥にドス黒い感情がぐつぐつと湧き出す。だが「どうかしましたか?」と、奏に顔を見上げられた瞬間、その気持ちはスッと鳴りを潜めた。
「手とか、繋いでもいい?」
「え…… 。『手とか』ですか?…… 『とか』?『とか』って…… 」
どぎまぎと答え、奏の顔が強張る。あまり良い反応では無いのに、陽は自分の行動で普段は無表情な兄の顔が変化しているというだけで、ちょっと嬉しくなった。
「兄弟なんだし、手を繋ぐくらい普通でしょ?」
「でもそれは子ども同士ならって話ですよね」
「ほら、私達はちょっとスタートが遅かったから仕方ないでしょう?それか漫画みたいに、子どもの体に戻っちゃう薬とか、お兄さんが作ってくれたっていいんだよ。そうしたら一緒に手を繋いで公園でも行って、暗くなるまで走り回って遊ぶっていうのも、楽しそうだね」
手を差し出し、ニコニコと笑いながら陽がそんな冗談を言った。
すぐにその手を取る事はせず、奏がクスッと笑う。そして「走るのは、子どもの頃から苦手だったので、自分は砂場でお城作りとかを希望してもいいですか?」と答えた。
「もちろん。じゃあ、バケツとかスコップとか、全てゼロから揃えないとね」
ふふっと笑い合い、空気が和む。その隙を突いて陽は奏の手を勝手に掴むと、ロビーの中を一歩先に歩き始めた。
「よ、陽さん⁉︎ああ、あの——」
「いいじゃないですか、誰も見てなんかいませんよ」
軽く振り返り、陽はそう言ったがロビーには警備員のお兄さんが立っている。『でも、あの!』と言葉には出ずとも動揺しながら警備員さんの方へ奏が顔をやると、ニッコリと微笑まれてしまった。
そのせいで、恥ずかしくって奏の顔が一気に赤くなる。でも表情が相変わらず固いままだったので、警備員さんがその顔を見てちょっと吹き出してしまったのだった。
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