義弟が私を“オトコの娘”だと言う

月咲やまな

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【幕間の物語(短話詰め合わせ)・その二】

ドラックストア(寺島・談)

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 仕事帰り。たまたま通りがかったドラックストアに立ち寄りたいと青鬼に頼まれ、二人で店内に入る事になった。キョロキョロと周囲を見渡し、青鬼が奥へと進む。俺はただ黙って先を行く奴の後ろをついて行った。

 ガーゼや絆創膏などが並ぶ棚の前まで来た辺りで青鬼が立ち止まり、包帯を手に取ってサイズの吟味をし始める。
 怪我でもしたんだろうか?
 不思議に思い俺は「どこか痛いのか?湿布も持ってこようか?」と青鬼に声をかけた。
「いや、私はどこも痛くないよ。たださ、奏さんに手錠とか足枷をそのまましたら痛いと思って。包帯を巻けば、暴れても怪我をさせないで済むかなーってね」
「…… お前とのセックスには、手錠とか足枷が必須なのか?」
 正直かなりドン引きしつつも、何か俺の受け取りミスがあるのかもしれないと思い、一応訊いてみた。
「え、だって逃げるでしょ?何度頭の中でシュミレートしても、何故か毎度そうなるんだよね」
「そりゃ大の男が手錠と足枷持って目の前に居たら、誰だって逃げるわ」
 そっか!と、やっと今その事に気が付いたみたいな顔をされ、『こいつはこんなにアホだったのか?』と思った事は、そっと胸の奥にしまっておく事にした。

「似合うと思うんだけどなぁ。兄さんと、包帯とか手錠とか足枷とかって」
 まだ未会計の包帯を手に持ち、ギュッと握り締めながら青鬼がうっとりとした表情をして目を蕩かせる。奴の背後に、椿原研究員が裸に白衣一枚の格好で包帯プラス手錠をされている姿が想像出来てしまい、俺は慌てて首を横に振って幻覚を打ち消した。
「逃げられなくって困っているところを、ギュッて、グジュって、ずぶってしたいなぁ」
 青鬼の端正な顔が高揚する様子は同性でもちょっとグッとくるものがあって悔しくなりつつ、変態発言にはどうしたって引いてしまう。コイツは兄貴になる予定の相手にどんだけ邪な感情を抱いているんだかと思うと、椿原さんには合掌を贈りたい気持ちに。努力が服を着て歩いているみたいな青鬼が相手では、いつかガチで椿原さんは喰われる気がしてならない。

 ゴメン、俺じゃコイツを制御出来無いので犠牲になってくれな。仕事を円滑にする為にも、会社のためにも。

「青鬼さぁ…… 攻める気満々っぽいけど、んな油断ばっかしてるとお前がケツ掘られるぞ?」
 俺の言葉がいき過ぎていたのかなんなのか、目を見開き、青鬼が俺の顔をガン見してくる。
 あれ、何故だろうか…… 俺の脳内に、手錠をされたまま『手錠程度でボクを止められるとでも?油断大敵ですよ。今夜はたっぷり下で可愛く鳴いて下さいね』と言いながら、青鬼のケツをガンガンに攻めまくる椿原さんの凛々しい姿が想像出来てしまった。

「——に、兄さんになら、掘られてもいい!」

 そう言って、青鬼が真っ赤な顔を、包帯を持ったままの手に埋めて肩を震わせる。どうやらほぼ似たような事を考えてしまっていたようだ。
 毒されてきてる…… 年単位でコイツの側に居るせいか、発想が似通ってきているみたいだ。だからって俺まで同性に惚れたりはしないが、まぁあんだけ顔が整ってりゃ抱けそうだよなくらいには理解出来てしまう。アレで実は女性でしたとかあったら、コイツのライバルにでもなって取りあったりとかくらいあり得なくもないかな程度には、まぁ対象内かもしてない。
 でもまぁ、青鬼の執着心には勝てる気がしないので、ホント椿原さんが男で良かったわ。こっちが掘られる可能性が万が一でもある相手と付き合うとか怖いだけだしな。


 三種類の、太さの違う包帯を複数個持ち、青鬼がレジへと向かう。その途中通りがかった棚の中でたまたま目に入った浣腸剤を悪戯感覚で手に取り、俺は意地悪な笑みを浮かべながらソレを青鬼の荷物の上にポンッとのせた。
「これも必要では?どっちになっても良いように準備は大事だろ?」
 コレには流石にコイツでも引くだろう。掘られてもいい男などきっと少数だろうし。妄想上ではいくらどっちでもいいと言えても、本心では抱く気満々な気配しか無いコイツなら余計にだ。

 なのに青鬼は——
「そうだな、ありがと。でもどうやって使うんだろうな。あ、一応内服タイプの薬とかも買っておくか。そうだな、潤滑ゼリーとかゴムとかも必要なんだったけか」
 …… とか言いながら、レジ方向からUターンして、避妊具コーナーを目指し始めやがった。

 すんません、椿原さん!
 俺着けちゃいけない火をつけたみたいっす!妄想程度で済んでいたかもしれなかったモノに、油注いだかも!現実味を帯びさせる行動しちまった!

「い、いや、待て待て待て!まだ口説いてもいないんだろ?早過ぎだろ、コレはただの冗談だって!」
 慌てて青鬼の肩を掴んで止め、自分で置いた浣腸剤を回収し、棚に戻す。
 だが奴は、きょとんとした子犬みたいに可愛い顔をこっちへ向け、何で?と言いたげ首を傾げた。
「事前の準備は何事にも必要じゃないか?いつ兄さんの体を堕とせるかもわからないんだし。もう告白に近い事も言ってもらえているし。後はもう、明ちゃん達が入籍してしまえばこっちのモノだと思うしさ」

 いつの間に⁉︎え、『近い』って言い回しって事は、『好き』とかハッキリ言ったわけじゃ無いって事だろうから、それまた何か勘違いしてんじゃね?青鬼が言葉の受け取りミスをしている気がしてならないんだが…… な、何をこんなやつに言っちゃったんっすか、椿原さーん!

 ——結局。俺には青鬼の暴走を止める事は出来ず。奴の妄想が現実味を帯びていくのを見守る事となったのであった。
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