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【職場が同じとか、もうコレは有効利用するしかないよね】
お昼というか、もう夕食
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はっと我に返り、陽が時計を確認した時にはもう時間は十六時になっていた。先への期待と興奮と、奏の手が気持ち良過ぎて撫でる行為に没頭し、時間を更に浪費してしまった事を反省した陽だったのだが——肩を落としながらも、まだ奏の手を握ったままでいる。
「…… あの、そろそろ手を」
離してもらえませんか?と続くはずの言葉を、「え、何で?」と言って陽が遮った。
背の高い陽は今、ソファーから立ち上がっており、そんな彼に両の手を握られ続けていてはちょっと流石に腕が怠い。でも正直にそれを言う事も出来ず、奏は周囲にそっと視線をずらした。
「周りの目が気になるのかな?やだな、私達は兄弟だよ?このくらいのスキンシップくらい普通じゃないかな」
「あ、や…… まだ姉弟という訳では。結婚はしていないですし」
「私は長男だから、ずっと兄さんに甘えるって事にすごく憧れていたんだけど…… それでも、だめ?」
ありもしない獣耳をパタンと倒し、しゅんっとする姿にしか見えぬ陽を前にして、奏がくらっとふらつき倒れそうになる。だが幸い手を掴まれたままであったおかげで即座に体勢を立て直し、「それならば甘えて下さい。全力で受け止めます」と、間違った方向に姉気質を全開にして答えてしまった。
「兄さん!」と言い、陽が奏へと抱きつく。
身長差のせいで彼の胸の中に彼女の顔が埋まり、ちょっと呼吸が苦しい。だがしかし、コレも可愛い?義弟が甘えてきているのだからと奏が必死に耐える。
そんな中、陽のアレがちょっとだけ興奮のせいで勃っていた事には、少しだけ互いの間に隙間があったおかげで、奏は気が付かずに済んだのだった。
◇
「さてと、ご飯ご飯」
手を繋いだまま、陽が奏の一歩前を歩く。
「あ、あの…… 手を、流石にもう」
周囲からの好奇を持った視線がチクチクと刺さる気がして、陽の背を見上げながら奏が恐る恐る声をかけた。自分に甘えてくれるのはいいのだが、ちょっと長過ぎやしないだろうか?人前だし、大人同士だしと、気がかりになることばかりなのだが、陽の方は全くそんな事を考えている雰囲気は無い。むしろ自慢気に歩いている様な気さえする。
「手?あぁ、兄さんの手は小さくって柔らかくって気持ちいいね」
振り返り、可愛い笑顔を奏に向けてくる。
この人は本当に二十七歳の青年なんだろうか?年齢を詐称しているのでは?と奏が思っていると、「どこでもいいかい?食事をする場所は」と陽に訊かれ、慌てて「はい」と答えた。
だがしかし、『はい』と言ったはいいが、それと同時に財布の中身が心配なままだった事を思い出す。昨日の集まりでは結局定期券のみで移動出来てしまったし、外での食事も、ちょっとした買い物すらもしなかった。ここ最近は飲み物を買う程度にしか財布を開いてはいなかったので、札が何枚残っているのかも思い出せない。立場的には社長秘書とはいえ実質彼が社長みたいな立場の人が選ぶ店となると、ディナータイムではなくても高いのでは?自分が年上なのだしここは出すべきですよね。途中で銀行に立ち寄ることは出来るだろうか?——と、頭の中でぐるぐる考えてしまい、周囲を全く見る余裕が無くなっていく。
(困った!せめてカード払いが出来ます様に!それすら財布に無いかもですけど!)
「さ、着いたよー。ここで食べようか」
「…… え」
二人が着いた先が普通に社員食堂だった事で、奏はちょっと拍子抜けしてしまったのだった。
「…… あの、そろそろ手を」
離してもらえませんか?と続くはずの言葉を、「え、何で?」と言って陽が遮った。
背の高い陽は今、ソファーから立ち上がっており、そんな彼に両の手を握られ続けていてはちょっと流石に腕が怠い。でも正直にそれを言う事も出来ず、奏は周囲にそっと視線をずらした。
「周りの目が気になるのかな?やだな、私達は兄弟だよ?このくらいのスキンシップくらい普通じゃないかな」
「あ、や…… まだ姉弟という訳では。結婚はしていないですし」
「私は長男だから、ずっと兄さんに甘えるって事にすごく憧れていたんだけど…… それでも、だめ?」
ありもしない獣耳をパタンと倒し、しゅんっとする姿にしか見えぬ陽を前にして、奏がくらっとふらつき倒れそうになる。だが幸い手を掴まれたままであったおかげで即座に体勢を立て直し、「それならば甘えて下さい。全力で受け止めます」と、間違った方向に姉気質を全開にして答えてしまった。
「兄さん!」と言い、陽が奏へと抱きつく。
身長差のせいで彼の胸の中に彼女の顔が埋まり、ちょっと呼吸が苦しい。だがしかし、コレも可愛い?義弟が甘えてきているのだからと奏が必死に耐える。
そんな中、陽のアレがちょっとだけ興奮のせいで勃っていた事には、少しだけ互いの間に隙間があったおかげで、奏は気が付かずに済んだのだった。
◇
「さてと、ご飯ご飯」
手を繋いだまま、陽が奏の一歩前を歩く。
「あ、あの…… 手を、流石にもう」
周囲からの好奇を持った視線がチクチクと刺さる気がして、陽の背を見上げながら奏が恐る恐る声をかけた。自分に甘えてくれるのはいいのだが、ちょっと長過ぎやしないだろうか?人前だし、大人同士だしと、気がかりになることばかりなのだが、陽の方は全くそんな事を考えている雰囲気は無い。むしろ自慢気に歩いている様な気さえする。
「手?あぁ、兄さんの手は小さくって柔らかくって気持ちいいね」
振り返り、可愛い笑顔を奏に向けてくる。
この人は本当に二十七歳の青年なんだろうか?年齢を詐称しているのでは?と奏が思っていると、「どこでもいいかい?食事をする場所は」と陽に訊かれ、慌てて「はい」と答えた。
だがしかし、『はい』と言ったはいいが、それと同時に財布の中身が心配なままだった事を思い出す。昨日の集まりでは結局定期券のみで移動出来てしまったし、外での食事も、ちょっとした買い物すらもしなかった。ここ最近は飲み物を買う程度にしか財布を開いてはいなかったので、札が何枚残っているのかも思い出せない。立場的には社長秘書とはいえ実質彼が社長みたいな立場の人が選ぶ店となると、ディナータイムではなくても高いのでは?自分が年上なのだしここは出すべきですよね。途中で銀行に立ち寄ることは出来るだろうか?——と、頭の中でぐるぐる考えてしまい、周囲を全く見る余裕が無くなっていく。
(困った!せめてカード払いが出来ます様に!それすら財布に無いかもですけど!)
「さ、着いたよー。ここで食べようか」
「…… え」
二人が着いた先が普通に社員食堂だった事で、奏はちょっと拍子抜けしてしまったのだった。
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