義弟が私を“オトコの娘”だと言う

月咲やまな

文字の大きさ
上 下
10 / 79
【職場が同じとか、もうコレは有効利用するしかないよね】

あまりに凄い遅刻だと、もう待っていないで欲しい気持ちでいっぱいだ

しおりを挟む
 社員証をかざし、複数のセキュリティーを通過して奏が早足にロビーを目指す。途中で更衣室に立ち寄って私物の入る鞄を回収したので、後少しで到着出来るという頃にはもう時間は午後の三時半となっていた。

(まずいまずいまずい——)

 同じ単語ばかりが奏の頭を駆け巡る。
 大好きな仕事の出来る職場なのにクビになったらどうしよう?最悪の場合、弟達の結婚にまで影響するのでは?そうなったら自分はどうしたらいいのだ。 気持ちはやたらと焦るのに、『廊下は走っちゃいけません』が骨の髄まで染み込んでいるせいで走るまでは出来ない。
 陽とは結局連絡先の交換をしていなかったのでメールなどでごめんなさいも出来なければ、今彼がどこにいるのかも不明だ。せめてお昼からずっとロビーで待ったままではありませんようにと思った後で、休憩時間が終わればそもそも仕事に戻っているのではないだろうかという当然の流れに気が付いた。
 ならもう行く必要も無いのかな、と考えたが、もうロビーは目の前だ。

(ひとまずは待っていない事を確認して、自分だけでもご飯を食べに——)

 …… 居た。

 三階分が吹き抜けになっている見通しのいいロビーの端にあるちょっとした休憩スペースで、そこに並ぶソファーの一角に座り、長い脚を組み、タブレットを見ながら陽は大人しく奏の事を待っていた。
 いつからそこに居るのかは不明だが、待ち続けて苛立った様子も無く、忠犬のような雰囲気を漂わせながら座る陽を見て、五体投地をしながら陽に対して謝罪をする自分の姿が奏の頭をよぎる。

(謝れば許してくれるだろうか。お詫びになんでもするから、クビだけは許して欲しいっ)

 ただでさえ表情の乏しい奏の顔が強張り、青白くなっていく。せめて一秒でも早く謝罪を、と奏が歩くスピードを上げる。すると、その靴音に気が付いた陽が顔をあげ、彼女へと向かって嬉しそうに微笑んだ。

ねえさん!お仕事、お疲れ様」

 眩しい笑顔に気後れし、謝罪を言おうと開けた口が声を失った。怒っている感じは無く、長い時間待ち続けていた様子も雰囲気からは感じ取れない。だがしかし、問題を放置するのが好きではい奏は、勇気を振り絞って、陽にいつから此処で待っていたのかをきちんと訊く事を決めた。
 ぐっと拳を握り、奏が意を決して口を開く。
「お待たせ、しましたか?」
「いいや、私も今来たところだよ」

(…… あれ?青鬼さんも、時間を忘れて仕事をしていたのかな?)

 都合の良い意味で奏が言葉を受け止める。
ねえさんがセキュリティーを通過した通知が着てから、職場を出て来たからね」
「あ、そうだったんですか。それで」
 流石、実質社長的存在。本来ならそんな行為を秘書とはいえやって良いのかどうかはこの際隅に置いておいて、確実に時間を無駄にはしない方法だ。
「監視カメラでねえさんの様子を見ていたけど、お仕事が忙しそうだったからね。私はいつでも動けるようにしてあったから、各所での入・退出の通知を受け取れる様にしておいたんだ」

(あ、そうか、立場的にその手があったんですね!)

「そうだったんですか。良かったです、無駄に待たせずに済んで」
「…… 」
 流石にこの行動は『何をしているんだ、やり過ぎだ、気持ち悪い』と非難されると思っていた陽だったのだが、予想外な反応を奏がした為、黙ってしまった。
「待たせてしまっていたらどうしようかと思っていたんで、むしろ良かったです」
「うん、そうだよね。私もそう思うんだ」
 ツッコミ不在な為、ニコニコと笑う陽に向かい奏がちょっとだけ安堵の表情を返す。今ここに彼らの弟妹が居たならば『ストーカーみたいだからソレはやめろ!』と指摘していたところだろう。
 陽はといえば、『言質取った!好きに兄さんの行動をこの先も監視していていいんだね!』と、心の中で小躍りしていたのであった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎
恋愛
晶は高校3年生。小柄で見た目が地味な晶の義理の弟は、長身で西洋風の顔立ちのイケメンだった。身内の欲目か弟は晶に近づく男に厳しい。過保護で小言の多い弟を『シスコン』だと呆れながらも、すっかり大人のように成長してしまった弟の、子供っぽい執着に『ブラコン』の晶はホッとするのだった――― ※2016.6.29本編完結済。後日談も掲載しております。 ※2017.6.10おまけ追加に伴いR15指定とします。なお★指定回はなろう版と一部内容が異なります。 ※2018.4.26前日譚姉視点『おとうとが私にかまい過ぎる』及び番外編『お兄ちゃんは過保護』をこちらに纏めました。 ※2018.5.6非掲載としていた番外編『仮初めの恋人』をこちらに追加しました。

処理中です...