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【出逢いの季節に変なのが義弟になるっぽい】
本音では「また今度」よりも「今夜また逢いたい」
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妹からの手痛いツッコミを受けた顔を少しさすりつつ、その後も一時間程、四人はホテルのホビーでそのまま色々な話をした。
始まりがグダグダだった割にはきちんと結婚の報告をし、親に会う前に互いの兄弟姉妹に会っておきたかった事などもちゃんと改めて伝え、和気藹々と話が進んでしまった為、待ち合わせの場所でしかなかったはずの場所でそのまま話し続けてしまったのだ。
「——わ、つい話し込んじゃったね。どこか別の場所を変えませんか?喉も乾いたでしょう?」
腕時計で時間を確認した陽が、三人に声をかける。奏も自分の腕時計を見て、残念そうに肩を落とした。
「すみません。私この後また職場に戻らないといけないので」
「え、そうなの?姉ちゃん相変わらずだねぇ、仕事人間過ぎるって」
「ごめんなさい。でも、いいところまで進んでるから気になって」
奏は製薬会社で研究職についているため、進行度合い的に仕事が気になって仕方がない様だ。最初の青鬼に対する質問攻めも、職業病だったのかもしれない。
「そうかぁ残念だな。あわよくばこの流れで私のウチへ連れ帰ろうと思っていたのに」
「そうだったんですか、何だかすみません」
すまなそうに頭を下げる奏に対し、椿原が「待って、今の謝るとこじゃない」とツッコミを入れる。『お持ち帰りしたかった』と言われた事に気が付いていない姉の判断能力の低さに、弟は色々と心配になってきた。
「私は少し兄さんと話してから帰ろうと思うんだが、時間は大丈夫か?」
「ん?あぁ、私も職場に戻ろうかと思ったんだけど…… まぁ、平気だよ」
「兄さんも仕事が?」
「いいや、仕事は…… 探せばアホみたいにまだまだあるけど、まぁそこを気にしていたら休みなんか取れないからね。だから大丈夫だよ、妹と話す時間くらいは作るから」
(良かった。これで色々訊ける)
兄の了解を取れて青鬼がほっと息をつく。
椿原的にはこの後、彼女と二人でお茶でもと思っていたのでちょっとがっかりした。だが、青鬼が色々兄を問い詰めたり、釘を刺しておいたりしたいのだろうなと察し、わがままになる様な事は言わなかった。
「じゃあ私はこれで失礼します」
「ボクも帰るね。姉ちゃん、駅まで一緒にいい?」
こっちも青鬼への印象だとかを訊きたいなと思い、そう提案する。
「もちろんですよ。そうしましょうか」
「私が送ってあげられたら良かったんだけど、それだと行き先が職場じゃなくなっちゃうだろうから、今はやめておくね」
「え?あ、はい。お気遣いありがとうございます」
咄嗟に返答をしたはいいが、奏は陽の言葉の意味をいまいち理解はしていなかった。
ソファーから立ち上がり、別れの挨拶もそこそのに「では失礼します」と青鬼達へ椿原達が礼をする。
「また明日ね、兄さん」
「…… (姉なんですけどねぇ)では、失礼します」
結局あまり『兄じゃない、姉だ』とは言えないままだった奏に対し、隣を歩く青鬼が呆れ顔を向ける。
「姉ちゃん、もっとハッキリ『違う』って言っていいと思うよ?」
(まぁ、ボクもいちいちつっこんでたら話が進まないから、途中からはほとんど放置だったけど)
「それは無理です。今後先の事を考えると、波風を立てるような真似は…… 」
「義理とはいえ家族になるんだから余計に、じゃない?」
弟の発言を聞き、「…… はぁ」と大袈裟なくらいのため息をつき、奏が額を手で押さえた。
(陽さんは、直属ではないとはいえ自分の職場の上役ですよ?言える訳がないじゃないですか。あれ…… もしかして圭君はは気が付いていない、とか?)
——青鬼明の兄、青鬼陽。
彼は、椿原奏の勤め先である湯川製薬の代表取締役の第一秘書である。代表取締役である湯川大和は全くと言っていい程会社へは顔を出さずに全く別の事をしている為、今では全て秘書である陽が指揮しているので、実質社長と変わらない。だが、あくまで秘書なので彼は出来るだけ表舞台には顔を出さない様にしているから椿原が気付かないのも無理はないのかもしれないのだが…… 妹さんからは聞いてないのかな?と奏は不思議に思った。
実質社長的立場の人に、元々積極的なタイプでもなく、しかも生粋の仕事人間である奏が強気になどなれるはずがないのであった。
始まりがグダグダだった割にはきちんと結婚の報告をし、親に会う前に互いの兄弟姉妹に会っておきたかった事などもちゃんと改めて伝え、和気藹々と話が進んでしまった為、待ち合わせの場所でしかなかったはずの場所でそのまま話し続けてしまったのだ。
「——わ、つい話し込んじゃったね。どこか別の場所を変えませんか?喉も乾いたでしょう?」
腕時計で時間を確認した陽が、三人に声をかける。奏も自分の腕時計を見て、残念そうに肩を落とした。
「すみません。私この後また職場に戻らないといけないので」
「え、そうなの?姉ちゃん相変わらずだねぇ、仕事人間過ぎるって」
「ごめんなさい。でも、いいところまで進んでるから気になって」
奏は製薬会社で研究職についているため、進行度合い的に仕事が気になって仕方がない様だ。最初の青鬼に対する質問攻めも、職業病だったのかもしれない。
「そうかぁ残念だな。あわよくばこの流れで私のウチへ連れ帰ろうと思っていたのに」
「そうだったんですか、何だかすみません」
すまなそうに頭を下げる奏に対し、椿原が「待って、今の謝るとこじゃない」とツッコミを入れる。『お持ち帰りしたかった』と言われた事に気が付いていない姉の判断能力の低さに、弟は色々と心配になってきた。
「私は少し兄さんと話してから帰ろうと思うんだが、時間は大丈夫か?」
「ん?あぁ、私も職場に戻ろうかと思ったんだけど…… まぁ、平気だよ」
「兄さんも仕事が?」
「いいや、仕事は…… 探せばアホみたいにまだまだあるけど、まぁそこを気にしていたら休みなんか取れないからね。だから大丈夫だよ、妹と話す時間くらいは作るから」
(良かった。これで色々訊ける)
兄の了解を取れて青鬼がほっと息をつく。
椿原的にはこの後、彼女と二人でお茶でもと思っていたのでちょっとがっかりした。だが、青鬼が色々兄を問い詰めたり、釘を刺しておいたりしたいのだろうなと察し、わがままになる様な事は言わなかった。
「じゃあ私はこれで失礼します」
「ボクも帰るね。姉ちゃん、駅まで一緒にいい?」
こっちも青鬼への印象だとかを訊きたいなと思い、そう提案する。
「もちろんですよ。そうしましょうか」
「私が送ってあげられたら良かったんだけど、それだと行き先が職場じゃなくなっちゃうだろうから、今はやめておくね」
「え?あ、はい。お気遣いありがとうございます」
咄嗟に返答をしたはいいが、奏は陽の言葉の意味をいまいち理解はしていなかった。
ソファーから立ち上がり、別れの挨拶もそこそのに「では失礼します」と青鬼達へ椿原達が礼をする。
「また明日ね、兄さん」
「…… (姉なんですけどねぇ)では、失礼します」
結局あまり『兄じゃない、姉だ』とは言えないままだった奏に対し、隣を歩く青鬼が呆れ顔を向ける。
「姉ちゃん、もっとハッキリ『違う』って言っていいと思うよ?」
(まぁ、ボクもいちいちつっこんでたら話が進まないから、途中からはほとんど放置だったけど)
「それは無理です。今後先の事を考えると、波風を立てるような真似は…… 」
「義理とはいえ家族になるんだから余計に、じゃない?」
弟の発言を聞き、「…… はぁ」と大袈裟なくらいのため息をつき、奏が額を手で押さえた。
(陽さんは、直属ではないとはいえ自分の職場の上役ですよ?言える訳がないじゃないですか。あれ…… もしかして圭君はは気が付いていない、とか?)
——青鬼明の兄、青鬼陽。
彼は、椿原奏の勤め先である湯川製薬の代表取締役の第一秘書である。代表取締役である湯川大和は全くと言っていい程会社へは顔を出さずに全く別の事をしている為、今では全て秘書である陽が指揮しているので、実質社長と変わらない。だが、あくまで秘書なので彼は出来るだけ表舞台には顔を出さない様にしているから椿原が気付かないのも無理はないのかもしれないのだが…… 妹さんからは聞いてないのかな?と奏は不思議に思った。
実質社長的立場の人に、元々積極的なタイプでもなく、しかも生粋の仕事人間である奏が強気になどなれるはずがないのであった。
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