義弟が私を“オトコの娘”だと言う

月咲やまな

文字の大きさ
上 下
2 / 79
【出逢いの季節に変なのが義弟になるっぽい】

これは尋問でも面接でもありません

しおりを挟む
「改めまして、ご挨拶を。圭の姉、椿原かなでです。どうか自分のことは実の姉だと思って貰えれば幸いです」
 綺麗な姿勢で軽く頭を下げ、奏が挨拶をする。
「はい。よろしくお願いします」
 緊張しつつも、青鬼がはっきりとした口調で答えた。
「敬語はやめても良いですよ、義理とはいえ姉妹になるのですから」
 穏やかに笑うこともなく真顔でそう言われても、『わかった。では遠慮なく』とは返せない。
「姉ちゃんも敬語やん。まずは姉ちゃんが止め無いと、明だって無理だよ」
 椿原が呆れながらため息をつく。
「自分は無理だけど、きっと彼女なら出来ますよ。だって圭君の彼女さんなのだから」

 (なんだその意味不明な信頼は)

 青鬼と椿原は同時に同じ事を思ったが、すごく真面目な顔で言われたので、冗談じゃないなと察して口にはしなかった。
「——さぁ」と、奏に真剣な目で促す様に言われ、青鬼がうっと喉を詰まらせる。奏的には気を遣っての行為なのだが、強要でしかな無い上に真顔で言われては脅迫しているようにしか見えない。
「姉ちゃん…… ちょ——」
 椿原が助け舟を出そうとしたのが、彼が言い終える前に「わかった」と青鬼が頷いた。
「姉になる人に敬語も失礼だしな」

(…… 凛々しい子ですね、素敵です)

 表情を一切変えぬまま奏はそう感じつつ、大きな満足感を持って、青鬼に対し頷きで返した。
「早速訊きたい事があるのですが、構いませんか?」
「あぁ、何でも聞いてほしい」
 キリッとした眼差しでそう言う青鬼を見て、『うん。凛々しい』と再度思いながら奏が鞄の中からファイルを一冊取り出し、一枚の紙に目を通し始める。
「圭君からたまに聞いてきた貴女の情報を一通り書き出してみたのですが」
「いや、待って。何してんの、姉ちゃん」
 たまにしか話していないはずなのに、記憶していたうえに書面化されていた事で、椿原が即座にツッコミを入れたが、弟の発言などサラッと無視して奏が話を続ける。
「青い鬼と書いて青鬼、で間違いないんですよね」
「はい。あ、いえ…… あぁ」
 珍しい苗字だから訊かれたのだろうか?と青鬼は思い、黙ったまま次の言葉を待つ。
「…… ふむ。わかりました。じゃあ次です。最終学歴は専門学校卒業だとありますが、間違い無いですか?」
「あぁ。その通りだ」

(…… これ、何の面接だ?あれ?私は結婚の報告をしに来たはず。ご両親にお会いする前に、まずは軽く、お姉さんに挨拶をという予定だったはずだが——)

 そう思うもやっぱり言えない。相手は義理の姉になる人なので、余計に。
「いや、あのね、姉ちゃん何始めてるの?」
 弟がツッコミを入れても、奏はマイペースを貫き続ける。
「青鬼家といえば調香師で有名なご家庭ですよね?ならば専門学校をわざわざ出る必要など無かったのでは?」
「あ、それはボクも気になる」
 訊きにくい内容というわけでも無いが、奏が訊くまで気にもしていなかった。だが知りたい気持ちは理解でき、椿原が姉弟揃って青鬼に『何で?』という眼差しを向ける。可愛らしい顔立ちの圭と、美少年にしか見えない奏に揃って見詰められ、青鬼は口元を引き結びながらぷるぷると震えだした。

(何なんだ、この凶悪な姉弟コンビは!)

 可愛いな、おい。と言いたい気持ちをぐっと堪え、無理矢理真顔になって青鬼が質問に答える決意をした。
「幼少期から調香の技術は色々学んではきたが、我が家独特の技法だったり、我流ばかりなので、このままではまずいなと思って。この先他者と共に仕事をする事を考えると、専門用語の知識や共有の技法を知っておかないとお互いにやり辛いと考えたんだ」
「なるほど。しっかりと将来をお考えなのですね。とても良い事だと思います」
 プリントを片手に、終始こんな口調なせいで、やはりどう見ても面接を受けているようにしか見えない。だが、奏はそんな事お構いなしといった感じで、今さっき聞いた話を紙に書き足し始めた。
「そ、そこまでする?」
 呆れ声で椿原が訊くと、「忘れたら失礼じゃないですか。可愛い弟の奥さんになる人ですよ?それに…… 」まで言い、言葉を一度切る。
 ふいっと軽く青鬼と椿原から視線を逸らすと、少し頬を桜色に染めながら「…… 妹が、欲しかったんで、嬉しくって。この先何も失礼の無いように、と」とこぼした。

(クーデレ?うちの姉ちゃんって、クーデレだったん?知らんよ、こんな姉ちゃん)

 七歳年上の姉は、今まで学校だ仕事だと家に居る事が極端に少なかったので、実のところそれ程交流なく過ごしてきた為、奏の知らぬ一面を見て椿原がギョッとしている。デレたショタっぽくも見えて姉なのに可愛い。可愛いのだが、実姉相手なのでどう反応して良いのかでも困った。仲が悪いわけでは無いのだが、正直姉の正体を掴みきれていないせいだろう。
「ありがとう。私も姉はいなかったから、奏さんのような美少——…… 、お綺麗な方と家族関係になれるのかと思うと、とても嬉しく思う」
 間違って『美少年』と言いそうになり、青鬼は慌てて途中で言い直したが、奏は気にもしていない様だ。
「ありがとう。褒め上手なのですね」
 褒められて余程嬉しかったのか、奏の頬が緩み、口元にだけ笑みが生まれる。やっと見せた穏やかな笑顔があまりに素敵で、青鬼の胸がきゅんっと高鳴った。

「…… ところで、圭君。二人のその服装は“双子コーデ”というやつですか?というか、随分と今日は可愛らしい格好ですね」
「今更?」と答えた後で、はっと椿原が我に返る。

(やっば!姉ちゃん、ボクが“オトコの娘”だって知らないじゃん!)

 ——青鬼と結婚をしようと模索している椿原圭は、女装が好きな“オトコの娘”である。
 昔は姉よりも可愛過ぎる自分の容姿がコンプレックスでしかなかったのだが、初めての女装で『ボクって可愛い!』と目覚めてしまい、またそれをありのまま受け入れてくれた青鬼の存在があった為、今年で二十二歳となった今でも、彼は“オトコの娘”を続けていた。
 今日は青鬼の兄とも会わねばならぬ為、シンプルなデザインにパンツスタイルで来たのでといった感じでは無いが、女性物の服である事には変わりない。なので奏が不思議に思うのも当然だ。家で顔を合わせる時はもう寝る前のラフな格好だったりしたので、『ウチの弟は随分と髪が長いですね。今の流行りなのでしょうか』くらいに思うことはあっても、まさか彼が“オトコの娘”であるとは夢にも思っていなかった。
「え、あ、っと…… 」
 動揺する椿原だったが、青鬼は「あぁ。圭が選んでくれたんだ。シンプルだがお洒落だろう?」と答え、凛々しい笑顔を彼らに向ける。
 ちょっとだけ奏は黙ったが、「同意します。ウチの弟は世界一可愛いです」と頷き答えたが、結局弟が“オトコの娘”であるとは気が付いていない。そんな言葉が世の中にあるという事すら奏は知らないのだが、すっかりオタク気質になっている椿原達がその事を察するのはもう少し後の事だった。


 誕生日、血液型、好きな物、などなど——色々な事を根掘り葉掘り訊かれ、全てに対し真面目に答えるてくれる青鬼に対し、奏の中でぐんぐん彼女の好感度が上がっていく。
 可愛い弟だけでなく、こんな素直で美人の女性が義妹になるのかと思うとワクワクが止まらない。『誕生日には何を贈ろうか』『一緒に買い物でもと誘うのは迷惑ですかね』などと様々な願望が頭に浮かんでくるが、やっぱり表情がほとんど変化しないまま黙々と紙に走り書きしをし続けているものだから、青鬼の方はまだ面接を受けている様な気分のままだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎
恋愛
晶は高校3年生。小柄で見た目が地味な晶の義理の弟は、長身で西洋風の顔立ちのイケメンだった。身内の欲目か弟は晶に近づく男に厳しい。過保護で小言の多い弟を『シスコン』だと呆れながらも、すっかり大人のように成長してしまった弟の、子供っぽい執着に『ブラコン』の晶はホッとするのだった――― ※2016.6.29本編完結済。後日談も掲載しております。 ※2017.6.10おまけ追加に伴いR15指定とします。なお★指定回はなろう版と一部内容が異なります。 ※2018.4.26前日譚姉視点『おとうとが私にかまい過ぎる』及び番外編『お兄ちゃんは過保護』をこちらに纏めました。 ※2018.5.6非掲載としていた番外編『仮初めの恋人』をこちらに追加しました。

処理中です...