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【出逢いの季節に変なのが義弟になるっぽい】
これは尋問でも面接でもありません
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「改めまして、ご挨拶を。圭の姉、椿原奏です。どうか自分のことは実の姉だと思って貰えれば幸いです」
綺麗な姿勢で軽く頭を下げ、奏が挨拶をする。
「はい。よろしくお願いします」
緊張しつつも、青鬼がはっきりとした口調で答えた。
「敬語はやめても良いですよ、義理とはいえ姉妹になるのですから」
穏やかに笑うこともなく真顔でそう言われても、『わかった。では遠慮なく』とは返せない。
「姉ちゃんも敬語やん。まずは姉ちゃんが止め無いと、明だって無理だよ」
椿原が呆れながらため息をつく。
「自分は無理だけど、きっと彼女なら出来ますよ。だって圭君の彼女さんなのだから」
(なんだその意味不明な信頼は)
青鬼と椿原は同時に同じ事を思ったが、すごく真面目な顔で言われたので、冗談じゃないなと察して口にはしなかった。
「——さぁ」と、奏に真剣な目で促す様に言われ、青鬼がうっと喉を詰まらせる。奏的には気を遣っての行為なのだが、強要でしかな無い上に真顔で言われては脅迫しているようにしか見えない。
「姉ちゃん…… ちょ——」
椿原が助け舟を出そうとしたのが、彼が言い終える前に「わかった」と青鬼が頷いた。
「姉になる人に敬語も失礼だしな」
(…… 凛々しい子ですね、素敵です)
表情を一切変えぬまま奏はそう感じつつ、大きな満足感を持って、青鬼に対し頷きで返した。
「早速訊きたい事があるのですが、構いませんか?」
「あぁ、何でも聞いてほしい」
キリッとした眼差しでそう言う青鬼を見て、『うん。凛々しい』と再度思いながら奏が鞄の中からファイルを一冊取り出し、一枚の紙に目を通し始める。
「圭君からたまに聞いてきた貴女の情報を一通り書き出してみたのですが」
「いや、待って。何してんの、姉ちゃん」
たまにしか話していないはずなのに、記憶していたうえに書面化されていた事で、椿原が即座にツッコミを入れたが、弟の発言などサラッと無視して奏が話を続ける。
「青い鬼と書いて青鬼、で間違いないんですよね」
「はい。あ、いえ…… あぁ」
珍しい苗字だから訊かれたのだろうか?と青鬼は思い、黙ったまま次の言葉を待つ。
「…… ふむ。わかりました。じゃあ次です。最終学歴は専門学校卒業だとありますが、間違い無いですか?」
「あぁ。その通りだ」
(…… これ、何の面接だ?あれ?私は結婚の報告をしに来たはず。ご両親にお会いする前に、まずは軽く、お姉さんに挨拶をという予定だったはずだが——)
そう思うもやっぱり言えない。相手は義理の姉になる人なので、余計に。
「いや、あのね、姉ちゃん何始めてるの?」
弟がツッコミを入れても、奏はマイペースを貫き続ける。
「青鬼家といえば調香師で有名なご家庭ですよね?ならば専門学校をわざわざ出る必要など無かったのでは?」
「あ、それはボクも気になる」
訊きにくい内容というわけでも無いが、奏が訊くまで気にもしていなかった。だが知りたい気持ちは理解でき、椿原が姉弟揃って青鬼に『何で?』という眼差しを向ける。可愛らしい顔立ちの圭と、美少年にしか見えない奏に揃って見詰められ、青鬼は口元を引き結びながらぷるぷると震えだした。
(何なんだ、この凶悪な姉弟コンビは!)
可愛いな、おい。と言いたい気持ちをぐっと堪え、無理矢理真顔になって青鬼が質問に答える決意をした。
「幼少期から調香の技術は色々学んではきたが、我が家独特の技法だったり、我流ばかりなので、このままではまずいなと思って。この先他者と共に仕事をする事を考えると、専門用語の知識や共有の技法を知っておかないとお互いにやり辛いと考えたんだ」
「なるほど。しっかりと将来をお考えなのですね。とても良い事だと思います」
プリントを片手に、終始こんな口調なせいで、やはりどう見ても面接を受けているようにしか見えない。だが、奏はそんな事お構いなしといった感じで、今さっき聞いた話を紙に書き足し始めた。
「そ、そこまでする?」
呆れ声で椿原が訊くと、「忘れたら失礼じゃないですか。可愛い弟の奥さんになる人ですよ?それに…… 」まで言い、言葉を一度切る。
ふいっと軽く青鬼と椿原から視線を逸らすと、少し頬を桜色に染めながら「…… 妹が、欲しかったんで、嬉しくって。この先何も失礼の無いように、と」とこぼした。
(クーデレ?うちの姉ちゃんって、クーデレだったん?知らんよ、こんな姉ちゃん)
七歳年上の姉は、今まで学校だ仕事だと家に居る事が極端に少なかったので、実のところそれ程交流なく過ごしてきた為、奏の知らぬ一面を見て椿原がギョッとしている。デレたショタっぽくも見えて姉なのに可愛い。可愛いのだが、実姉相手なのでどう反応して良いのかでも困った。仲が悪いわけでは無いのだが、正直姉の正体を掴みきれていないせいだろう。
「ありがとう。私も姉はいなかったから、奏さんのような美少——…… 、お綺麗な方と家族関係になれるのかと思うと、とても嬉しく思う」
間違って『美少年』と言いそうになり、青鬼は慌てて途中で言い直したが、奏は気にもしていない様だ。
「ありがとう。褒め上手なのですね」
褒められて余程嬉しかったのか、奏の頬が緩み、口元にだけ笑みが生まれる。やっと見せた穏やかな笑顔があまりに素敵で、青鬼の胸がきゅんっと高鳴った。
「…… ところで、圭君。二人のその服装は“双子コーデ”というやつですか?というか、随分と今日は可愛らしい格好ですね」
「今更?」と答えた後で、はっと椿原が我に返る。
(やっば!姉ちゃん、ボクが“オトコの娘”だって知らないじゃん!)
——青鬼と結婚をしようと模索している椿原圭は、女装が好きな“オトコの娘”である。
昔は姉よりも可愛過ぎる自分の容姿がコンプレックスでしかなかったのだが、初めての女装で『ボクって可愛い!』と目覚めてしまい、またそれをありのまま受け入れてくれた青鬼の存在があった為、今年で二十二歳となった今でも、彼は“オトコの娘”を続けていた。
今日は青鬼の兄とも会わねばならぬ為、シンプルなデザインにパンツスタイルで来たのでいかにもといった感じでは無いが、女性物の服である事には変わりない。なので奏が不思議に思うのも当然だ。家で顔を合わせる時はもう寝る前のラフな格好だったりしたので、『ウチの弟は随分と髪が長いですね。今の流行りなのでしょうか』くらいに思うことはあっても、まさか彼が“オトコの娘”であるとは夢にも思っていなかった。
「え、あ、っと…… 」
動揺する椿原だったが、青鬼は「あぁ。圭が選んでくれたんだ。シンプルだがお洒落だろう?」と答え、凛々しい笑顔を彼らに向ける。
ちょっとだけ奏は黙ったが、「同意します。ウチの弟は世界一可愛いです」と頷き答えたが、結局弟が“オトコの娘”であるとは気が付いていない。そんな言葉が世の中にあるという事すら奏は知らないのだが、すっかりオタク気質になっている椿原達がその事を察するのはもう少し後の事だった。
誕生日、血液型、好きな物、などなど——色々な事を根掘り葉掘り訊かれ、全てに対し真面目に答えるてくれる青鬼に対し、奏の中でぐんぐん彼女の好感度が上がっていく。
可愛い弟だけでなく、こんな素直で美人の女性が義妹になるのかと思うとワクワクが止まらない。『誕生日には何を贈ろうか』『一緒に買い物でもと誘うのは迷惑ですかね』などと様々な願望が頭に浮かんでくるが、やっぱり表情がほとんど変化しないまま黙々と紙に走り書きしをし続けているものだから、青鬼の方はまだ面接を受けている様な気分のままだった。
綺麗な姿勢で軽く頭を下げ、奏が挨拶をする。
「はい。よろしくお願いします」
緊張しつつも、青鬼がはっきりとした口調で答えた。
「敬語はやめても良いですよ、義理とはいえ姉妹になるのですから」
穏やかに笑うこともなく真顔でそう言われても、『わかった。では遠慮なく』とは返せない。
「姉ちゃんも敬語やん。まずは姉ちゃんが止め無いと、明だって無理だよ」
椿原が呆れながらため息をつく。
「自分は無理だけど、きっと彼女なら出来ますよ。だって圭君の彼女さんなのだから」
(なんだその意味不明な信頼は)
青鬼と椿原は同時に同じ事を思ったが、すごく真面目な顔で言われたので、冗談じゃないなと察して口にはしなかった。
「——さぁ」と、奏に真剣な目で促す様に言われ、青鬼がうっと喉を詰まらせる。奏的には気を遣っての行為なのだが、強要でしかな無い上に真顔で言われては脅迫しているようにしか見えない。
「姉ちゃん…… ちょ——」
椿原が助け舟を出そうとしたのが、彼が言い終える前に「わかった」と青鬼が頷いた。
「姉になる人に敬語も失礼だしな」
(…… 凛々しい子ですね、素敵です)
表情を一切変えぬまま奏はそう感じつつ、大きな満足感を持って、青鬼に対し頷きで返した。
「早速訊きたい事があるのですが、構いませんか?」
「あぁ、何でも聞いてほしい」
キリッとした眼差しでそう言う青鬼を見て、『うん。凛々しい』と再度思いながら奏が鞄の中からファイルを一冊取り出し、一枚の紙に目を通し始める。
「圭君からたまに聞いてきた貴女の情報を一通り書き出してみたのですが」
「いや、待って。何してんの、姉ちゃん」
たまにしか話していないはずなのに、記憶していたうえに書面化されていた事で、椿原が即座にツッコミを入れたが、弟の発言などサラッと無視して奏が話を続ける。
「青い鬼と書いて青鬼、で間違いないんですよね」
「はい。あ、いえ…… あぁ」
珍しい苗字だから訊かれたのだろうか?と青鬼は思い、黙ったまま次の言葉を待つ。
「…… ふむ。わかりました。じゃあ次です。最終学歴は専門学校卒業だとありますが、間違い無いですか?」
「あぁ。その通りだ」
(…… これ、何の面接だ?あれ?私は結婚の報告をしに来たはず。ご両親にお会いする前に、まずは軽く、お姉さんに挨拶をという予定だったはずだが——)
そう思うもやっぱり言えない。相手は義理の姉になる人なので、余計に。
「いや、あのね、姉ちゃん何始めてるの?」
弟がツッコミを入れても、奏はマイペースを貫き続ける。
「青鬼家といえば調香師で有名なご家庭ですよね?ならば専門学校をわざわざ出る必要など無かったのでは?」
「あ、それはボクも気になる」
訊きにくい内容というわけでも無いが、奏が訊くまで気にもしていなかった。だが知りたい気持ちは理解でき、椿原が姉弟揃って青鬼に『何で?』という眼差しを向ける。可愛らしい顔立ちの圭と、美少年にしか見えない奏に揃って見詰められ、青鬼は口元を引き結びながらぷるぷると震えだした。
(何なんだ、この凶悪な姉弟コンビは!)
可愛いな、おい。と言いたい気持ちをぐっと堪え、無理矢理真顔になって青鬼が質問に答える決意をした。
「幼少期から調香の技術は色々学んではきたが、我が家独特の技法だったり、我流ばかりなので、このままではまずいなと思って。この先他者と共に仕事をする事を考えると、専門用語の知識や共有の技法を知っておかないとお互いにやり辛いと考えたんだ」
「なるほど。しっかりと将来をお考えなのですね。とても良い事だと思います」
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「そ、そこまでする?」
呆れ声で椿原が訊くと、「忘れたら失礼じゃないですか。可愛い弟の奥さんになる人ですよ?それに…… 」まで言い、言葉を一度切る。
ふいっと軽く青鬼と椿原から視線を逸らすと、少し頬を桜色に染めながら「…… 妹が、欲しかったんで、嬉しくって。この先何も失礼の無いように、と」とこぼした。
(クーデレ?うちの姉ちゃんって、クーデレだったん?知らんよ、こんな姉ちゃん)
七歳年上の姉は、今まで学校だ仕事だと家に居る事が極端に少なかったので、実のところそれ程交流なく過ごしてきた為、奏の知らぬ一面を見て椿原がギョッとしている。デレたショタっぽくも見えて姉なのに可愛い。可愛いのだが、実姉相手なのでどう反応して良いのかでも困った。仲が悪いわけでは無いのだが、正直姉の正体を掴みきれていないせいだろう。
「ありがとう。私も姉はいなかったから、奏さんのような美少——…… 、お綺麗な方と家族関係になれるのかと思うと、とても嬉しく思う」
間違って『美少年』と言いそうになり、青鬼は慌てて途中で言い直したが、奏は気にもしていない様だ。
「ありがとう。褒め上手なのですね」
褒められて余程嬉しかったのか、奏の頬が緩み、口元にだけ笑みが生まれる。やっと見せた穏やかな笑顔があまりに素敵で、青鬼の胸がきゅんっと高鳴った。
「…… ところで、圭君。二人のその服装は“双子コーデ”というやつですか?というか、随分と今日は可愛らしい格好ですね」
「今更?」と答えた後で、はっと椿原が我に返る。
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——青鬼と結婚をしようと模索している椿原圭は、女装が好きな“オトコの娘”である。
昔は姉よりも可愛過ぎる自分の容姿がコンプレックスでしかなかったのだが、初めての女装で『ボクって可愛い!』と目覚めてしまい、またそれをありのまま受け入れてくれた青鬼の存在があった為、今年で二十二歳となった今でも、彼は“オトコの娘”を続けていた。
今日は青鬼の兄とも会わねばならぬ為、シンプルなデザインにパンツスタイルで来たのでいかにもといった感じでは無いが、女性物の服である事には変わりない。なので奏が不思議に思うのも当然だ。家で顔を合わせる時はもう寝る前のラフな格好だったりしたので、『ウチの弟は随分と髪が長いですね。今の流行りなのでしょうか』くらいに思うことはあっても、まさか彼が“オトコの娘”であるとは夢にも思っていなかった。
「え、あ、っと…… 」
動揺する椿原だったが、青鬼は「あぁ。圭が選んでくれたんだ。シンプルだがお洒落だろう?」と答え、凛々しい笑顔を彼らに向ける。
ちょっとだけ奏は黙ったが、「同意します。ウチの弟は世界一可愛いです」と頷き答えたが、結局弟が“オトコの娘”であるとは気が付いていない。そんな言葉が世の中にあるという事すら奏は知らないのだが、すっかりオタク気質になっている椿原達がその事を察するのはもう少し後の事だった。
誕生日、血液型、好きな物、などなど——色々な事を根掘り葉掘り訊かれ、全てに対し真面目に答えるてくれる青鬼に対し、奏の中でぐんぐん彼女の好感度が上がっていく。
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