3 / 79
【出逢いの季節に変なのが義弟になるっぽい】
素敵な?お兄さん
しおりを挟む
待ち合わせしていた時間よりも三十分ほど早く到着した奏だったが、青鬼を質問攻めにしているうちにその三十分はあっという間に過ぎ去り、今チラリと見えた腕時計は十四時を指していた。
青鬼が『そろそろウチの兄さんも来るな』と考えていると、丁度いいタイミングで、椿原姉弟の背後に背の高い青年の姿が見えた。
スラッとした青鬼とよく似た引き締まったスタイルの青年は、上品なデザインをしたグレーのスーツに身を包み、ニコニコと笑いながら妹の方へ向かい手を振っている。上半分のみに縁のあるタイプの眼鏡をかけ、端正な顔立ちは凛々しさのある青鬼とそっくりだが、優しい雰囲気も兼ね備えていた。
歩く靴音はすっかり絨毯に吸収されており、椿原達は彼が近づいて来ている事にまだ気が付いていない。
喉が渇いたから飲み物でも頼もうかなと奏が考えていると、不意に目の前に男性が床に片膝をついて座ったもんだから、彼女は驚いて全身をビクッと震わせた。
まさか到着と同時に、兄が奏の前で騎士かの如く跪くとは予想もしていなかった青鬼の顔色が、名の通りの色に変わる。
「に、兄さん?」と、『何をしてるんだお前は』と思いながら、青鬼が兄に声をかけた。
だが彼は妹の方へ顔を向ける事なく、そっと奏の手を取り、きゅっと両手で包む様に握った。
「私達のお見合いの為に呼んでくれたのなら、そうと言ってくれればよかったのに」
「違う、兄さん。今日はサプライズで用意した貴方の見合いとかじゃない。これはただの、兄弟間の顔合わせだ。だからその手は離してあげてくれ」
青鬼がソファーから立ち上がり、兄の肩を掴んで引き離そうとする。だが、彼はその手を離さないままだ。
「おや残念。でもまぁ、それはそれで、出逢いとしてはぐっとくるね」
うん、と兄は頷き、握る手に力を込める。奏の柔らかな小さい手を、彼は意地でも離す気は無いみたいだ。
「綺麗なお兄さんですね。お逢いできて光栄です。青鬼明の兄、青鬼陽といいます、以後兄妹共々よろしくお願いします」
無駄にキラキラとした笑顔を振りまきながら自己紹介をそのままの姿勢で始めたが、発言がちょっと間違っている。
「兄さん待って。奏さんは圭の、“お姉さん”だ」
事前に姉がいると教えてあったはずなのに、兄が発言を間違えているので青鬼は慌てて指摘した。だがしかし、今までずっと奏に釘付けだった陽がやっと妹の方を向いたと思ったら「こんな愛らしい人が女性なわけがないだろうが」と、心底嫌そうな顔で彼は返した。
奏は膝丈くらいまであるスカートを穿いており、上に着るブラウスは女性らしいデザインだ。生地は淡いピンク色をしてるので、格好だけ見れば完全に女性である。ショートヘアに凛とした少年の様な顔立ちなので『彼は兄だ』と勘違いしてしまう気持ちは正直とても深く理解出来るが、『よくわからん事言ってないで、出来れば格好で判断してから発言して欲しかった!』と心の中で叫び、青鬼が顔を手で覆って俯いた。
「…… お褒めいただき光栄です。ですが、明さんの指摘通り、私は圭の姉であり、兄ではありませんよ?」
手を取られたままであるせいでかなり動揺しているが、それをそっと心の奥に隠しつつ、淡々と訂正を入れる。だがしかし『そんなわけないよね』と目で訴えられ、奏の眉間に少しだけシワが入った。
陽が無遠慮に視線を上から下にやり、また奏の顔に視線を戻す。一応は性別を格好から判断するつもりはあったみたいだ。
じっとしばらく自分なりに考え、奏の容姿や顔立ち、声などを反芻し、何が正しいのか答えを探す。少しの間の後、『あ!わかった』と言いたげな顔をしてニコリと微笑んだかと思ったら、彼は——
「あ、お兄さんは“オトコの娘”か。なるほど」
勝手にそう納得して、奏の手をさすさすと指先でだけで撫でた。
「違う兄さん、そちらはそうじゃない。それは隣だ」
(久しぶりに会ったが、話が通じ無さ過ぎる!)
兄の失礼度合いの酷さのせいで、奏への申し訳なさから青鬼が頭を抱える。だがしかし、椿原の方はといえば、陽に対して『面白いお兄さんだな』と思っていたのだった。
青鬼が『そろそろウチの兄さんも来るな』と考えていると、丁度いいタイミングで、椿原姉弟の背後に背の高い青年の姿が見えた。
スラッとした青鬼とよく似た引き締まったスタイルの青年は、上品なデザインをしたグレーのスーツに身を包み、ニコニコと笑いながら妹の方へ向かい手を振っている。上半分のみに縁のあるタイプの眼鏡をかけ、端正な顔立ちは凛々しさのある青鬼とそっくりだが、優しい雰囲気も兼ね備えていた。
歩く靴音はすっかり絨毯に吸収されており、椿原達は彼が近づいて来ている事にまだ気が付いていない。
喉が渇いたから飲み物でも頼もうかなと奏が考えていると、不意に目の前に男性が床に片膝をついて座ったもんだから、彼女は驚いて全身をビクッと震わせた。
まさか到着と同時に、兄が奏の前で騎士かの如く跪くとは予想もしていなかった青鬼の顔色が、名の通りの色に変わる。
「に、兄さん?」と、『何をしてるんだお前は』と思いながら、青鬼が兄に声をかけた。
だが彼は妹の方へ顔を向ける事なく、そっと奏の手を取り、きゅっと両手で包む様に握った。
「私達のお見合いの為に呼んでくれたのなら、そうと言ってくれればよかったのに」
「違う、兄さん。今日はサプライズで用意した貴方の見合いとかじゃない。これはただの、兄弟間の顔合わせだ。だからその手は離してあげてくれ」
青鬼がソファーから立ち上がり、兄の肩を掴んで引き離そうとする。だが、彼はその手を離さないままだ。
「おや残念。でもまぁ、それはそれで、出逢いとしてはぐっとくるね」
うん、と兄は頷き、握る手に力を込める。奏の柔らかな小さい手を、彼は意地でも離す気は無いみたいだ。
「綺麗なお兄さんですね。お逢いできて光栄です。青鬼明の兄、青鬼陽といいます、以後兄妹共々よろしくお願いします」
無駄にキラキラとした笑顔を振りまきながら自己紹介をそのままの姿勢で始めたが、発言がちょっと間違っている。
「兄さん待って。奏さんは圭の、“お姉さん”だ」
事前に姉がいると教えてあったはずなのに、兄が発言を間違えているので青鬼は慌てて指摘した。だがしかし、今までずっと奏に釘付けだった陽がやっと妹の方を向いたと思ったら「こんな愛らしい人が女性なわけがないだろうが」と、心底嫌そうな顔で彼は返した。
奏は膝丈くらいまであるスカートを穿いており、上に着るブラウスは女性らしいデザインだ。生地は淡いピンク色をしてるので、格好だけ見れば完全に女性である。ショートヘアに凛とした少年の様な顔立ちなので『彼は兄だ』と勘違いしてしまう気持ちは正直とても深く理解出来るが、『よくわからん事言ってないで、出来れば格好で判断してから発言して欲しかった!』と心の中で叫び、青鬼が顔を手で覆って俯いた。
「…… お褒めいただき光栄です。ですが、明さんの指摘通り、私は圭の姉であり、兄ではありませんよ?」
手を取られたままであるせいでかなり動揺しているが、それをそっと心の奥に隠しつつ、淡々と訂正を入れる。だがしかし『そんなわけないよね』と目で訴えられ、奏の眉間に少しだけシワが入った。
陽が無遠慮に視線を上から下にやり、また奏の顔に視線を戻す。一応は性別を格好から判断するつもりはあったみたいだ。
じっとしばらく自分なりに考え、奏の容姿や顔立ち、声などを反芻し、何が正しいのか答えを探す。少しの間の後、『あ!わかった』と言いたげな顔をしてニコリと微笑んだかと思ったら、彼は——
「あ、お兄さんは“オトコの娘”か。なるほど」
勝手にそう納得して、奏の手をさすさすと指先でだけで撫でた。
「違う兄さん、そちらはそうじゃない。それは隣だ」
(久しぶりに会ったが、話が通じ無さ過ぎる!)
兄の失礼度合いの酷さのせいで、奏への申し訳なさから青鬼が頭を抱える。だがしかし、椿原の方はといえば、陽に対して『面白いお兄さんだな』と思っていたのだった。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

俺のねーちゃんは人見知りがはげしい
ねがえり太郎
恋愛
晶は高校3年生。小柄で見た目が地味な晶の義理の弟は、長身で西洋風の顔立ちのイケメンだった。身内の欲目か弟は晶に近づく男に厳しい。過保護で小言の多い弟を『シスコン』だと呆れながらも、すっかり大人のように成長してしまった弟の、子供っぽい執着に『ブラコン』の晶はホッとするのだった―――
※2016.6.29本編完結済。後日談も掲載しております。
※2017.6.10おまけ追加に伴いR15指定とします。なお★指定回はなろう版と一部内容が異なります。
※2018.4.26前日譚姉視点『おとうとが私にかまい過ぎる』及び番外編『お兄ちゃんは過保護』をこちらに纏めました。
※2018.5.6非掲載としていた番外編『仮初めの恋人』をこちらに追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる