義弟が私を“オトコの娘”だと言う

月咲やまな

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【出逢いの季節に変なのが義弟になるっぽい】

素敵な?お兄さん

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 待ち合わせしていた時間よりも三十分ほど早く到着した奏だったが、青鬼を質問攻めにしているうちにその三十分はあっという間に過ぎ去り、今チラリと見えた腕時計は十四時を指していた。
 青鬼が『そろそろウチの兄さんも来るな』と考えていると、丁度いいタイミングで、椿原姉弟の背後に背の高い青年の姿が見えた。

 スラッとした青鬼とよく似た引き締まったスタイルの青年は、上品なデザインをしたグレーのスーツに身を包み、ニコニコと笑いながら妹の方へ向かい手を振っている。上半分のみに縁のあるタイプの眼鏡をかけ、端正な顔立ちは凛々しさのある青鬼とそっくりだが、優しい雰囲気も兼ね備えていた。
 歩く靴音はすっかり絨毯に吸収されており、椿原達は彼が近づいて来ている事にまだ気が付いていない。

 喉が渇いたから飲み物でも頼もうかなと奏が考えていると、不意に目の前に男性が床に片膝をついて座ったもんだから、彼女は驚いて全身をビクッと震わせた。
 まさか到着と同時に、兄が奏の前で騎士かの如く跪くとは予想もしていなかった青鬼の顔色が、名の通りの色に変わる。
「に、兄さん?」と、『何をしてるんだお前は』と思いながら、青鬼が兄に声をかけた。
 だが彼は妹の方へ顔を向ける事なく、そっと奏の手を取り、きゅっと両手で包む様に握った。

「私達のお見合いの為に呼んでくれたのなら、そうと言ってくれればよかったのに」

「違う、兄さん。今日はサプライズで用意した貴方の見合いとかじゃない。これはただの、兄弟間の顔合わせだ。だからその手は離してあげてくれ」
 青鬼がソファーから立ち上がり、兄の肩を掴んで引き離そうとする。だが、彼はその手を離さないままだ。
「おや残念。でもまぁ、それはそれで、出逢いとしてはぐっとくるね」
 うん、と兄は頷き、握る手に力を込める。奏の柔らかな小さい手を、彼は意地でも離す気は無いみたいだ。

「綺麗なお兄さんですね。お逢いできて光栄です。青鬼明の兄、青鬼ようといいます、以後兄妹共々よろしくお願いします」

 無駄にキラキラとした笑顔を振りまきながら自己紹介をそのままの姿勢で始めたが、発言がちょっと間違っている。
「兄さん待って。奏さんは圭の、“お姉さん”だ」
 事前に姉がいると教えてあったはずなのに、兄が発言を間違えているので青鬼は慌てて指摘した。だがしかし、今までずっと奏に釘付けだった陽がやっと妹の方を向いたと思ったら「こんな愛らしい人が女性なわけがないだろうが」と、心底嫌そうな顔で彼は返した。

 奏は膝丈くらいまであるスカートを穿いており、上に着るブラウスは女性らしいデザインだ。生地は淡いピンク色をしてるので、格好だけ見れば完全に女性である。ショートヘアに凛とした少年の様な顔立ちなので『彼は兄だ』と勘違いしてしまう気持ちは正直とても深く理解出来るが、『よくわからん事言ってないで、出来れば格好で判断してから発言して欲しかった!』と心の中で叫び、青鬼が顔を手で覆って俯いた。

「…… お褒めいただき光栄です。ですが、明さんの指摘通り、私は圭の姉であり、兄ではありませんよ?」
 手を取られたままであるせいでかなり動揺しているが、それをそっと心の奥に隠しつつ、淡々と訂正を入れる。だがしかし『そんなわけないよね』と目で訴えられ、奏の眉間に少しだけシワが入った。
 陽が無遠慮に視線を上から下にやり、また奏の顔に視線を戻す。一応は性別を格好から判断するつもりはあったみたいだ。
 じっとしばらく自分なりに考え、奏の容姿や顔立ち、声などを反芻し、何が正しいのか答えを探す。少しの間の後、『あ!わかった』と言いたげな顔をしてニコリと微笑んだかと思ったら、彼は——

「あ、お兄さんは“オトコの娘”か。なるほど」

 勝手にそう納得して、奏の手をさすさすと指先でだけで撫でた。
「違う兄さん、そちらはそうじゃない。それは隣だ」

(久しぶりに会ったが、話が通じ無さ過ぎる!)

 兄の失礼度合いの酷さのせいで、奏への申し訳なさから青鬼が頭を抱える。だがしかし、椿原の方はといえば、陽に対して『面白いお兄さんだな』と思っていたのだった。
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