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【出逢いの季節に変なのが義弟になるっぽい】
ボクと私は主人公ではありません
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四月のとある日曜日。市内にあるホテルのロビーに、青鬼明と椿原圭が緊張した面持ちで寄り添い、ソファーに座っている。
「…… 吐きそうだ」と青鬼が言いながら浮かない顔で俯くと、椿原が優しい笑みを浮かべながら彼女の肩にコツンと頭をのせた。
「大丈夫だよ、少なくともウチの姉さんは怖い人じゃないから」
「だ、だが…… 」
黒くて長いストレートの髪を揺らし、シンプルながらも大人可愛い女性を思わせるようなデザインをした服を二人揃って着ており、揃いの格好をするくらい仲の良い同性の友人が寄り添っている様にしか見えない。だが、彼等は正真正銘男女のカップルだ。
「そもそもこんな格好でよかったのか?スーツを着てきた方が良かったんじゃ」
「ちゃんとした挨拶じゃなくって、ただの紹介でしかないから、普段着で平気だって、もう…… 明は心配性だなぁ」
「不安にもなる!だ、だって、結婚の報告だぞ?初対面で、いの一番にするには重くないか?もっとこう、何度か会って、その後に結婚すると伝えるとかじゃダメなのか?」
青鬼の瞳が不安で揺れる。だが、無理もないだろう。結婚を前提とした対面なのだ、もし実際に自分と会ってみて『こんな人は弟に相応しくない』と反対されたらどうしようか?などと色々考えてしまう。深く思い悩み、マイナス思考に囚われるタイプでは無い青鬼だが、結婚という言葉の重いさは予想よりも大きかったみたいだ。
「お待たせしました」
不意に女性の声が聞こえ、青鬼が反射的にその場で立ち上がる。直立不動なその姿勢はまるで軍隊の教官を前にした訓練生のようだった。
「姉ちゃん、早かったね」
「は、はじめまして。圭さんとお付き合いさせて頂いている、青鬼明と申します。今日はお忙しい中お越しいただきありがとうございます」
捲したてるように、青鬼が挨拶をする。
そんな彼女に驚いた椿原が宥めるように青鬼の服の裾を軽く引っ張った。
「め、明?待って、ちょっと落ち着こう」と椿原が声をかける。
すると青鬼は、はっとした顔をして顔を真っ赤にしながら椿原の方へゆっくり振り返った。
(…… す、すまん。焦り過ぎた)
(大丈夫だよ。君は本当に可愛いねぇ)
視線だけでそんなやりとりをしていると、真顔をしたままである椿原の姉が口を開いた。
「…… 座っても?」
「もちろんです」
冷静な声で言われたものだから青鬼がさらに焦ったが、すかさず椿原が立ち上がり、姉の方へ移動し始めた。
「ボクは姉ちゃんの隣に座るね。この後合流する、明のお兄さんの隣に座ってなんかもらったら、姉ちゃん内臓吐き出しそうだから」
表情を変えぬまま「自分は妖怪か?」と椿原の姉が短く答えると、青鬼の顔から少し緊張がとけた。
(纏う空気感がツンッとしているのは、もしかしてお姉さんも緊張しているのでは?)
そう思うと、ちょっと親近感も湧いてくる。先程から明るく振る舞っている圭も、もしかして?と思いながら対面にある席に移動する間、椿原の様子を伺っていると、彼も少し手が震えている事に気が付き、青鬼は『自分だけではないのだ』と、ほっと息をついた。
三種三様に緊張しながら、二人掛けのソファーにそれぞれが座る。椿原の隣には彼の姉が、青鬼はその対面に置かれた席に一人で座り、背筋を正した。
「改めまして、ご挨拶を。圭の姉、椿原奏です。どうかこの先、自分のことは実の姉だと思って貰えれば幸いです」
さらさらのショートヘアーを揺らしながら、奏が頭を下げる。とても小柄で細身の為、いつもは女性みたいで可愛いなと思う椿原が、彼女の隣に居ると大きく見える。キリリとした瞳をした奏はこの三人の中で最年長なのだが、一番体が小さいからなのか、もっとも若く感じられた。
(圭のお姉さんなのに、少年みたいな人だな)
それが、この物語の主人公となる奏に対し、青鬼が抱いた第一印象だった。
「…… 吐きそうだ」と青鬼が言いながら浮かない顔で俯くと、椿原が優しい笑みを浮かべながら彼女の肩にコツンと頭をのせた。
「大丈夫だよ、少なくともウチの姉さんは怖い人じゃないから」
「だ、だが…… 」
黒くて長いストレートの髪を揺らし、シンプルながらも大人可愛い女性を思わせるようなデザインをした服を二人揃って着ており、揃いの格好をするくらい仲の良い同性の友人が寄り添っている様にしか見えない。だが、彼等は正真正銘男女のカップルだ。
「そもそもこんな格好でよかったのか?スーツを着てきた方が良かったんじゃ」
「ちゃんとした挨拶じゃなくって、ただの紹介でしかないから、普段着で平気だって、もう…… 明は心配性だなぁ」
「不安にもなる!だ、だって、結婚の報告だぞ?初対面で、いの一番にするには重くないか?もっとこう、何度か会って、その後に結婚すると伝えるとかじゃダメなのか?」
青鬼の瞳が不安で揺れる。だが、無理もないだろう。結婚を前提とした対面なのだ、もし実際に自分と会ってみて『こんな人は弟に相応しくない』と反対されたらどうしようか?などと色々考えてしまう。深く思い悩み、マイナス思考に囚われるタイプでは無い青鬼だが、結婚という言葉の重いさは予想よりも大きかったみたいだ。
「お待たせしました」
不意に女性の声が聞こえ、青鬼が反射的にその場で立ち上がる。直立不動なその姿勢はまるで軍隊の教官を前にした訓練生のようだった。
「姉ちゃん、早かったね」
「は、はじめまして。圭さんとお付き合いさせて頂いている、青鬼明と申します。今日はお忙しい中お越しいただきありがとうございます」
捲したてるように、青鬼が挨拶をする。
そんな彼女に驚いた椿原が宥めるように青鬼の服の裾を軽く引っ張った。
「め、明?待って、ちょっと落ち着こう」と椿原が声をかける。
すると青鬼は、はっとした顔をして顔を真っ赤にしながら椿原の方へゆっくり振り返った。
(…… す、すまん。焦り過ぎた)
(大丈夫だよ。君は本当に可愛いねぇ)
視線だけでそんなやりとりをしていると、真顔をしたままである椿原の姉が口を開いた。
「…… 座っても?」
「もちろんです」
冷静な声で言われたものだから青鬼がさらに焦ったが、すかさず椿原が立ち上がり、姉の方へ移動し始めた。
「ボクは姉ちゃんの隣に座るね。この後合流する、明のお兄さんの隣に座ってなんかもらったら、姉ちゃん内臓吐き出しそうだから」
表情を変えぬまま「自分は妖怪か?」と椿原の姉が短く答えると、青鬼の顔から少し緊張がとけた。
(纏う空気感がツンッとしているのは、もしかしてお姉さんも緊張しているのでは?)
そう思うと、ちょっと親近感も湧いてくる。先程から明るく振る舞っている圭も、もしかして?と思いながら対面にある席に移動する間、椿原の様子を伺っていると、彼も少し手が震えている事に気が付き、青鬼は『自分だけではないのだ』と、ほっと息をついた。
三種三様に緊張しながら、二人掛けのソファーにそれぞれが座る。椿原の隣には彼の姉が、青鬼はその対面に置かれた席に一人で座り、背筋を正した。
「改めまして、ご挨拶を。圭の姉、椿原奏です。どうかこの先、自分のことは実の姉だと思って貰えれば幸いです」
さらさらのショートヘアーを揺らしながら、奏が頭を下げる。とても小柄で細身の為、いつもは女性みたいで可愛いなと思う椿原が、彼女の隣に居ると大きく見える。キリリとした瞳をした奏はこの三人の中で最年長なのだが、一番体が小さいからなのか、もっとも若く感じられた。
(圭のお姉さんなのに、少年みたいな人だな)
それが、この物語の主人公となる奏に対し、青鬼が抱いた第一印象だった。
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