義弟が私を“オトコの娘”だと言う

月咲やまな

文字の大きさ
上 下
1 / 79
【出逢いの季節に変なのが義弟になるっぽい】

ボクと私は主人公ではありません

しおりを挟む
 四月のとある日曜日。市内にあるホテルのロビーに、青鬼明あおきめい椿原圭つばきはらけいが緊張した面持ちで寄り添い、ソファーに座っている。
「…… 吐きそうだ」と青鬼が言いながら浮かない顔で俯くと、椿原が優しい笑みを浮かべながら彼女の肩にコツンと頭をのせた。
「大丈夫だよ、少なくともウチの姉さんは怖い人じゃないから」
「だ、だが…… 」
 黒くて長いストレートの髪を揺らし、シンプルながらも大人可愛い女性を思わせるようなデザインをした服を二人揃って着ており、揃いの格好をするくらい仲の良い同性の友人が寄り添っている様にしか見えない。だが、彼等は正真正銘男女のカップルだ。
「そもそもこんな格好でよかったのか?スーツを着てきた方が良かったんじゃ」
「ちゃんとした挨拶じゃなくって、ただの紹介でしかないから、普段着で平気だって、もう…… 明は心配性だなぁ」
「不安にもなる!だ、だって、結婚の報告だぞ?初対面で、いの一番にするには重くないか?もっとこう、何度か会って、その後に結婚すると伝えるとかじゃダメなのか?」
 青鬼の瞳が不安で揺れる。だが、無理もないだろう。結婚を前提とした対面なのだ、もし実際に自分と会ってみて『こんな人は弟に相応しくない』と反対されたらどうしようか?などと色々考えてしまう。深く思い悩み、マイナス思考に囚われるタイプでは無い青鬼だが、結婚という言葉の重いさは予想よりも大きかったみたいだ。

「お待たせしました」

 不意に女性の声が聞こえ、青鬼が反射的にその場で立ち上がる。直立不動なその姿勢はまるで軍隊の教官を前にした訓練生のようだった。
「姉ちゃん、早かったね」
「は、はじめまして。圭さんとお付き合いさせて頂いている、青鬼明と申します。今日はお忙しい中お越しいただきありがとうございます」
 捲したてるように、青鬼が挨拶をする。
 そんな彼女に驚いた椿原が宥めるように青鬼の服の裾を軽く引っ張った。
「め、明?待って、ちょっと落ち着こう」と椿原が声をかける。
 すると青鬼は、はっとした顔をして顔を真っ赤にしながら椿原の方へゆっくり振り返った。

(…… す、すまん。焦り過ぎた)
(大丈夫だよ。君は本当に可愛いねぇ)

 視線だけでそんなやりとりをしていると、真顔をしたままである椿原の姉が口を開いた。
「…… 座っても?」
「もちろんです」
 冷静な声で言われたものだから青鬼がさらに焦ったが、すかさず椿原が立ち上がり、姉の方へ移動し始めた。
「ボクは姉ちゃんの隣に座るね。この後合流する、明のお兄さんの隣に座ってなんかもらったら、姉ちゃん内臓吐き出しそうだから」
 表情を変えぬまま「自分は妖怪か?」と椿原の姉が短く答えると、青鬼の顔から少し緊張がとけた。

(纏う空気感がツンッとしているのは、もしかしてお姉さんも緊張しているのでは?)

 そう思うと、ちょっと親近感も湧いてくる。先程から明るく振る舞っている圭も、もしかして?と思いながら対面にある席に移動する間、椿原の様子を伺っていると、彼も少し手が震えている事に気が付き、青鬼は『自分だけではないのだ』と、ほっと息をついた。

 三種三様に緊張しながら、二人掛けのソファーにそれぞれが座る。椿原の隣には彼の姉が、青鬼はその対面に置かれた席に一人で座り、背筋を正した。

「改めまして、ご挨拶を。圭の姉、椿原かなでです。どうかこの先、自分のことは実の姉だと思って貰えれば幸いです」

 さらさらのショートヘアーを揺らしながら、奏が頭を下げる。とても小柄で細身の為、いつもは女性みたいで可愛いなと思う椿原が、彼女の隣に居ると大きく見える。キリリとした瞳をした奏はこの三人の中で最年長なのだが、一番体が小さいからなのか、もっとも若く感じられた。

(圭のお姉さんなのに、少年みたいな人だな)

 それが、この物語の主人公となる奏に対し、青鬼が抱いた第一印象だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

OLの花道

さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家
恋愛
久遠時 和歌子(くおんじわかこ)。二十五歳、独身。花(?)のOL。 現在、憧れ上司に片想い中。 それがまた問題で・・・・片想いの相手は、奥様のいらっしゃる上司だったり。 決して実る事の無い恋に悩む和歌子に、ある日転機が訪れる。 片想い中の上司・三輪 庄司(みわしょうじ)に、食事を誘われたのだ。 ――相談があるんだ。 一体何の相談!? 罪悪感もさながら、心ウキウキさせて行くと・・・・? とんでもない事を頼まれて とんでもない事を引き受けてしまう、和歌子。 さらに年下イケメン部下に好かれてしまって・・・・? 愉快なOLライフストーリー。 仕事も恋も、和歌子、頑張ります!! ◆スペシャルゲスト◆ 櫻井グループ御曹司・櫻井王雅 主人公が活躍の小説『コロッケスマイル』はコチラ https://www.alphapolis.co.jp/novel/465565553/343261959 ◆イラスト◆ お馴染み・紗蔵蒼様 当作品が、別サイト開催の『光文社キャラクター大賞』で 優秀作品に選ばれました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

おじさんは予防線にはなりません

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」 それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。 4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。 女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。 「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」 そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。 でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。 さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。 だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。 ……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。 羽坂詩乃 24歳、派遣社員 地味で堅実 真面目 一生懸命で応援してあげたくなる感じ × 池松和佳 38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長 気配り上手でLF部の良心 怒ると怖い 黒ラブ系眼鏡男子 ただし、既婚 × 宗正大河 28歳、アパレル総合商社LF部主任 可愛いのは実は計算? でももしかして根は真面目? ミニチュアダックス系男子 選ぶのはもちろん大河? それとも禁断の恋に手を出すの……? ****** 表紙 巴世里様 Twitter@parsley0129 ****** 毎日20:10更新

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた

ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。 普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。 ※課長の脳内は変態です。 なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。

処理中です...