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第2話(望月美百合・談)
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給湯器の修理も終わり、休憩を挟みつつ日頃溜め込んでいた家事やらに手を出しているうちに、もう夜になってしまった。平日もちゃんとやっているつもりでいても、仕事もある日はどうしたって無意識のまま手抜きになっているのだなと、今回もまた思った。『普段からちゃんとやっておかねば』と何度も思うが実行には移せていない。
時計で時間を確認してパソコンを起動させる。のど飴を口の中に放り込み、事前準備を済ませたのを合図として咳払いをし、私は早速マイクに向かって「——今晩は」と話し始めた。生粋の東洋系女性でありながら百八十センチ超えという高身長なのに、職業はモデルやスポーツ選手といった高身長を活かせる職などではなく中小企業の事務員として働く私は——
今は副業でVtuber・“ミユ”をやっている。
本気で取り組んでいる方々には大変失礼な話だろうが、自ら進んで始めたものではない。身長くらいしか現状に不満も無いから強い変身願望もなく、ただ双子の弟に『イラストレーターに転身したいから、実績作るの手伝って』と頼まれて始めたものだ。なのでアバターは弟の真幸が作ったものである。真幸は根からの某有名ボーカロイドのファンだからか、『“ミユ”は容姿も名前も彼女に似ている』とたまに批判されつつも、何度目かの改良を重ねながらデビューして半年が経った。事務所には所属せず、個人でやっているVtuberで登録者数が二千人前後なら、まぁ悪くないのでは?と私的には思っている。……業界事情を知らないのでそう思えているだけかもだけど。
真幸はゲーム業界勤めだが、私が普段やっているゲームなんてせいぜい無料のパズルゲームくらいなものなので配信内容はもっぱらただの雑談だ。多趣味ですらない二十八歳の独身女が語る内容なんて薄っぺらいものだろうに、今日もありがたい事に二十人程度の方々が入れ替わり立ち替わりつつ聴きに来てくれている。ひとえにこの容姿のおかげだろう。
(あ、開始当初にやらかした私の凡ミスも要因、かも?)
緻密なキャラ設定を組み上げて見事に演じきっているVtuberが多いであろう中、私はのっけから大失態をやらかした。役者や声優志望でもなければ過去に演技の経験すらもあるわけじゃない。お遊戯会レベルでは逆に不自然だろうと素で喋っている流れで、うっかり『中の人』の存在を晒してしまったのだ。当然すぐに離れて行った人達も多かった。だけど『隠す気の無い潔さが返って良い』と受け止めてくれる優しい人達もいてくれ、そんなファン達との雑談は今では私にとっても大切な時間となった。
「——じゃあ、そろそろ皆さんからの質問に二、三お答えしていこうかな」
コメント通知を見て、その中から無難な問いかけや他の人が興味を引いたもの質問を拾って答えていく。普段はそれこそ『今日は美味しいもの食べた?』とかそんなレベルのものばかりなのだが、今日は『好きなタイプは?お付き合いしている人はいるの?』なんて、“ミユ”では答え難い問い掛けをされてしまった。しかも重課金勢としてファン達の中でも有名な“バケツゴハン”さんからだった。
「……“ミユ”は生まれて半年の若造ですよ?『コウサイ何それ、美味しいの?』って感じです」
だが流れはもう言う方に傾いていて、『聞きたい!』『えー今更。中の人、教えてー!』などとコメントが流れてくる。普段はほんわかとした優しいコメントばかりの面々が、何故かテンション高めで喰いついてくるとか何があった?って感じだ。
「交際相手は、本当にいないですよー。“ミユ”と同じでガチめの高身長なんで、誰も……あっ」
また“中の人”の情報を晒してしまった。
だけどコメント欄ではそれを喜んでくれている。内心『良いのか?これで』とは思いつつも、まぁこの失態を『可愛い』と受け止めてくれているだけマシなんだろうか。
額に手を当ててため息をつきつつ、『高身長?スタイル良さそう!』『何着ても似合いそうですね!』というコメントに対して、「ありがとぉ。でもねぇ、全然着られる服売ってなくって、新しい服探しに行くだけで憂鬱なんだよぉ」と返していく。
「あ、新しい服と言えば“オトウサン”がいつものところで新しいイラスト投稿してるから、『いいね!』押してくれたらテンション上がって、“ミユ”の新作コスチューム作ってくれるかもですよ。既に冬仕様も用意してくれているけど、いいねの数次第では、もしかしたら季節イベントに対応した衣装とかも期待出来るかもね。あ、初見さんには『“オトウサン”って誰?』って感じでしょうから、概要欄から飛んで行ってみてねー」
此処での“オトウサン”は真幸の事を指している。“ミユ”をデザインした生みの親であり、私の弟でもある事から捩ってつけた名だ。所詮は此処でしか通用しない呼び方だけど結構話題に出しても通じるくらいには浸透してくれている。
『宣伝も大事だけど、好みのタイプは?ねぇねぇ?』
緩く流せたつもりでいたのだが、“バケツゴハン”さんにまた訊かれてしまった。ぽんぽんと投げ銭をしながらとなると、流石にこれをスルーするのは難しそうだ。
「んー……。好み、かぁ。無難だけど優しい人かなぁ。後は気が合うとか、最低限の家事を難無く出来る人?体調不良で倒れている時に起こされて、『ご飯まだ?』とか訊かれたくないしね。あとは私の身長を気にしなくって、何よりもちゃんと中身を好きになってくれる人がいいよねぇ」
言い始めると色々欲が出てくる。んだけどそんな人が現実には居るはずがないからもう言いたい放題って感じだ。
『ちょっと愛情が重たいタイプとかは?』
「んー。別に嫌いじゃないよ。そういう行動って、心から好きでいてくれているからって事だもんね?漫画みたいに監禁とかは勘弁して欲しいけど、恋人を傷付けない範囲でなら許容範囲かも?まぁ、実際の交際経験が無いからそう思えるだけかもだけどねぇ」
『駄目だよ!そんなこと言ったら。ガチ恋勢がアップ始めちゃうよ!?』
「ん、“林檎飴”さん心配してくれてありがとー。まぁ所詮はこの場のノリと思い付きに近い話なんで、軽く受け止めてもらえればと。——じゃあ次の質問にいきましょうか」
そんな話を私は軽い気持ちでした。だけどこの言葉を、『公式から自分の行動を容認してもらえた』と受け止める人が居るだなんて、夢にも思わずに。
時計で時間を確認してパソコンを起動させる。のど飴を口の中に放り込み、事前準備を済ませたのを合図として咳払いをし、私は早速マイクに向かって「——今晩は」と話し始めた。生粋の東洋系女性でありながら百八十センチ超えという高身長なのに、職業はモデルやスポーツ選手といった高身長を活かせる職などではなく中小企業の事務員として働く私は——
今は副業でVtuber・“ミユ”をやっている。
本気で取り組んでいる方々には大変失礼な話だろうが、自ら進んで始めたものではない。身長くらいしか現状に不満も無いから強い変身願望もなく、ただ双子の弟に『イラストレーターに転身したいから、実績作るの手伝って』と頼まれて始めたものだ。なのでアバターは弟の真幸が作ったものである。真幸は根からの某有名ボーカロイドのファンだからか、『“ミユ”は容姿も名前も彼女に似ている』とたまに批判されつつも、何度目かの改良を重ねながらデビューして半年が経った。事務所には所属せず、個人でやっているVtuberで登録者数が二千人前後なら、まぁ悪くないのでは?と私的には思っている。……業界事情を知らないのでそう思えているだけかもだけど。
真幸はゲーム業界勤めだが、私が普段やっているゲームなんてせいぜい無料のパズルゲームくらいなものなので配信内容はもっぱらただの雑談だ。多趣味ですらない二十八歳の独身女が語る内容なんて薄っぺらいものだろうに、今日もありがたい事に二十人程度の方々が入れ替わり立ち替わりつつ聴きに来てくれている。ひとえにこの容姿のおかげだろう。
(あ、開始当初にやらかした私の凡ミスも要因、かも?)
緻密なキャラ設定を組み上げて見事に演じきっているVtuberが多いであろう中、私はのっけから大失態をやらかした。役者や声優志望でもなければ過去に演技の経験すらもあるわけじゃない。お遊戯会レベルでは逆に不自然だろうと素で喋っている流れで、うっかり『中の人』の存在を晒してしまったのだ。当然すぐに離れて行った人達も多かった。だけど『隠す気の無い潔さが返って良い』と受け止めてくれる優しい人達もいてくれ、そんなファン達との雑談は今では私にとっても大切な時間となった。
「——じゃあ、そろそろ皆さんからの質問に二、三お答えしていこうかな」
コメント通知を見て、その中から無難な問いかけや他の人が興味を引いたもの質問を拾って答えていく。普段はそれこそ『今日は美味しいもの食べた?』とかそんなレベルのものばかりなのだが、今日は『好きなタイプは?お付き合いしている人はいるの?』なんて、“ミユ”では答え難い問い掛けをされてしまった。しかも重課金勢としてファン達の中でも有名な“バケツゴハン”さんからだった。
「……“ミユ”は生まれて半年の若造ですよ?『コウサイ何それ、美味しいの?』って感じです」
だが流れはもう言う方に傾いていて、『聞きたい!』『えー今更。中の人、教えてー!』などとコメントが流れてくる。普段はほんわかとした優しいコメントばかりの面々が、何故かテンション高めで喰いついてくるとか何があった?って感じだ。
「交際相手は、本当にいないですよー。“ミユ”と同じでガチめの高身長なんで、誰も……あっ」
また“中の人”の情報を晒してしまった。
だけどコメント欄ではそれを喜んでくれている。内心『良いのか?これで』とは思いつつも、まぁこの失態を『可愛い』と受け止めてくれているだけマシなんだろうか。
額に手を当ててため息をつきつつ、『高身長?スタイル良さそう!』『何着ても似合いそうですね!』というコメントに対して、「ありがとぉ。でもねぇ、全然着られる服売ってなくって、新しい服探しに行くだけで憂鬱なんだよぉ」と返していく。
「あ、新しい服と言えば“オトウサン”がいつものところで新しいイラスト投稿してるから、『いいね!』押してくれたらテンション上がって、“ミユ”の新作コスチューム作ってくれるかもですよ。既に冬仕様も用意してくれているけど、いいねの数次第では、もしかしたら季節イベントに対応した衣装とかも期待出来るかもね。あ、初見さんには『“オトウサン”って誰?』って感じでしょうから、概要欄から飛んで行ってみてねー」
此処での“オトウサン”は真幸の事を指している。“ミユ”をデザインした生みの親であり、私の弟でもある事から捩ってつけた名だ。所詮は此処でしか通用しない呼び方だけど結構話題に出しても通じるくらいには浸透してくれている。
『宣伝も大事だけど、好みのタイプは?ねぇねぇ?』
緩く流せたつもりでいたのだが、“バケツゴハン”さんにまた訊かれてしまった。ぽんぽんと投げ銭をしながらとなると、流石にこれをスルーするのは難しそうだ。
「んー……。好み、かぁ。無難だけど優しい人かなぁ。後は気が合うとか、最低限の家事を難無く出来る人?体調不良で倒れている時に起こされて、『ご飯まだ?』とか訊かれたくないしね。あとは私の身長を気にしなくって、何よりもちゃんと中身を好きになってくれる人がいいよねぇ」
言い始めると色々欲が出てくる。んだけどそんな人が現実には居るはずがないからもう言いたい放題って感じだ。
『ちょっと愛情が重たいタイプとかは?』
「んー。別に嫌いじゃないよ。そういう行動って、心から好きでいてくれているからって事だもんね?漫画みたいに監禁とかは勘弁して欲しいけど、恋人を傷付けない範囲でなら許容範囲かも?まぁ、実際の交際経験が無いからそう思えるだけかもだけどねぇ」
『駄目だよ!そんなこと言ったら。ガチ恋勢がアップ始めちゃうよ!?』
「ん、“林檎飴”さん心配してくれてありがとー。まぁ所詮はこの場のノリと思い付きに近い話なんで、軽く受け止めてもらえればと。——じゃあ次の質問にいきましょうか」
そんな話を私は軽い気持ちでした。だけどこの言葉を、『公式から自分の行動を容認してもらえた』と受け止める人が居るだなんて、夢にも思わずに。
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