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本編

【第三話】存在の告白

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「そもそも、先輩が悪いっすよ。オレにベッドなんか見せるから。さっきからずっとちんこ勃ちっぱなしなんすよね。丈の長めな服と白衣のおかげで今まで誤魔化してきたんすけど、もうかなり痛いんで、いい加減おっ始めましょうか」
 とんでもない単語が戸隠の耳に聞こえた気がするのだが、気のせいだと思いたい!と米の様に抱えられながら心底思う。

「待って待って待って!アレはただのベッドだし!別に私は君にベッドを見せたワケじゃなくってね、休憩用の部屋を見せただけだよ?——な、なのに何で君は興奮気味なのかな⁉︎」

 色々と気になって、横を向いたら瀬田の股間が膨れ上がっているのが目に入った。『そんなんじゃ今こうやって歩くのも大変そうですね!』と心の中で叫びながら、必死に中断させる理由を探す。

「ベッドなんて所詮食事の為か子作りするスペースなんすっから、オレみたいな奴に見せたらアウトっしょ」
「き、君はどんな教育の受けて育ってきたのかな⁉︎」
「あー…… ウチの両親って、めちゃくちゃ仲良いっすよね。そりゃもう毎晩毎晩とベッドでもお盛んで。だけどまぁ母さんにとってセックスは食事なんで、腹が減れば食べたくもなるってもんすよね。…… 減ってなくても、父さんに求められて結局はしてますけど。——てなワケで、オレも今少しづつ空腹になってきたんで、ちゃっちゃとショーツ脱いで、くぱぁってしちゃって下さい」

「空腹なら、外にご飯でも食べに行って下さい!」

 彼の意味不明な言葉を処理出来ないまま、半泣きになりながら叫ぶ戸隠を、ポンッとベッドの上に瀬田が投げる。
「ひっ!」と短い声をこぼしながらも体を猫みたいに回転させ、四つん這いになりながら戸隠はそそくさとベッドの上から降りようとした。人様のお宅のご両親の性事情なんか知りたくも無かったし、頭の中をフル回転させても彼の言動が何一つさっぱり理解出来ない。
「へぇ…… 意外に機敏っすね、先輩。でも、逃しませんけど、ね!」と言って、瀬田は戸隠の腕を掴み、両手首を片手でベッドへ縫いとめる。そして即座に彼女の腰の上に跨ると、完全に逃げられない状態に固定した。

「ぎゃあぁぁぁー!」

 金切り声に近い声を瀬田が無視したまま、戸隠の顔の上でズレている眼鏡のブリッジ部分を指で掴んでスッと外す。

「あ、やっぱ可愛い」

 巫山戯ている気配もなく、冗談っぽい感じもなしにさらっと言われ、「あ、あり…… がとう」と戸隠が照れ臭そうに礼を言った。
「んなダッサイ眼鏡、もう買い替えましょうよ、先輩。何年前のデザインっすか、コレ」
「ちゅ、中学の時に買ったっきり…… そのままだから、古い感じなのは、仕方がないかと」
 その頃に買ったにしてもダサ過ぎるのは、その時一緒に居た祖父が選んだせいだった。
「長年視力変わんねぇとか、それはそれですごいっすね」
 瀬田が少し感心しつつ、戸隠の眼鏡を出来るだけ離れた位置にそっと置く。
「…… レンズはもう合ってないよ。でも新しいのを買いに行くのは、店員さんと何を話していいのか…… わかんなくって」
「店員とも話せないって…… 根っからのコミュ障っすか。可愛いな、おい」
 シトリン色の瞳を見開き、瀬田がボソッと呟いた。

(待て待て待て、可愛いポイントどこ⁉︎)

 不思議に思う戸隠の上で、興奮気味になりながら、軽く口を開けた瀬田が彼女の唇に近づいてきた。呼吸が荒く、『オレだけとしかまともに話せないコミュ障な先輩マジ可愛い!好き!キスしたい!』で彼の頭の中はいっぱいだ。

「だぁぁぁぁめぇぇ!私には、い、許婚がぁぁ!」

 その言葉を聞き、あと数ミリで唇が重なる寸前で瀬田の動きがピタリと止まった。
「なんすか、それ。初耳なんすけど」
「初めて言うからね!そりゃね!」
 ムッとした顔をし、少しだけ瀬田の顔が離れる。だけど、戸隠の視界は全て彼の端正な顔のみに支配されたままだ。
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