66 / 77
【第五章】君は僕の可愛い獣
【第二十八話】難題は来訪者が解決する
しおりを挟む
ハデスと十六夜はキッチンで仲良く一緒に朝食を作り、そのまま作業台の側に椅子を運んで来て食事を済ませた。カットした数種の果物、厚切りベーコン、マッシュポテトをのせたサラダ、手作りジャムを塗った一口サイズのパン、ホットミルクには少しの蜂蜜を垂らして。
笑顔を向けあって初めて作った料理は別段豪華な物ではなかったが、作りたてという事も加算されてどれも美味しく、『今まで食べた料理の中で一番のご馳走だ』とハデスは思った。ただ二人で一緒にご飯を作って食べたというだけなのに、とても特別で、幸せな時間に感じられる。
(無闇に十六夜を寝室に閉じ込めるだけじゃなく、もっと早くこういう時間を作れば良かったかな)
ハデスが少しだけ後悔していると、先に食事を終えた十六夜が手を合わせた。
「ご馳走様でした」
「僕もご馳走様」
十六夜に続き、彼も食器の片付けを始める。全て下げ終えると、益々彼は『これって、本当に夫婦っぽいな』と妄想を膨らませた。
二人きりの家、一緒にこなす家事。ハデスが普段使っている大きめのエプロンを着けて台所に立つ十六夜の姿は幸せそのもので、背後から抱き締めてしまいたくなる。
(そう言えば…… そんなシーンのある本を前に借りた事があったな)
キッチンに立つ夫、そんな彼の隣に居るのは白いエプロンだけを着た妻。最初は仲良く食事の用意をしていたはずなのだが、途中からは夫が妻を背後から美味しく頂くという一切オチの無い内容だった。他にも作業台の上で肌が生クリームと蜂蜜だらけになっている妻を、というパターンもあったかと思う。そういった類の内容の作品は古書店で扱っている本の中でもほんの数%にも満たない物だったので、偶然読んでしまった当初は興味も無くってすぐに忘れていたのに、まさか今このタイミングで思い出すとは…… とハデスが額を手で覆った。
(しかも、『自分もやってみたい』と思うなんてっ)
そんな欲求に呼応するみたいにあらぬ箇所が反応してしまい、ソレを隠すみたいにしてハデスはそっと十六夜に背を向けた。
「この食器、私が洗ってもいいですか?」
断られる覚悟を持って十六夜は訊いたのだが、難儀な状況にあるハデスが「…… た、頼んでもいいかな?」と返事した。彼女の方へ顔を向ける事も出来ず、彼は背を向けたままだ。
「もちろんです!」
彼がどういった状態にあるかをまるで想像も出来ていない十六夜が表情にパァと花を咲かせる。「任せて下さい」と元気に答え、十六夜は意気揚々と袖を捲って食器を洗う準備を始めた。
「あ、でも、やってみて、腕が痛いとかがあったらすぐに言ってね?残りは僕が洗うから」
洗い場に立っている十六夜に背後からそう声を掛け、ハデスが彼女の肩にぽすんと頭を預ける。
(このまま本で読んだみたいに頂いてしまえたらきっと、すごく気持ちいいんだろうなぁ…… )
馬鹿な考えがふと頭に浮かび、慌てたせいで「——ゲホゲホッ!」と盛大にハデスが咳き込んだ。
その事に驚き、「大丈夫ですか⁉︎」と十六夜が振り返ろうとする。だが、ガシッと両腕を彼に掴まれ振り返る事が出来ない。そのせいで身動きが出来ず、顔だけを少し後ろに向けはしたが状況はさっぱりわからないままだ。
「え?ハ、ハデスさん?どうかしましたか?」
「何でもないよ!何でも、ないから。あ、洗うの、頼めるかな」
「…… わ、わかりました」
珍しく慌てている彼の様子が気になる。一体どうしたんだろうか?という疑問を抱えたままだが、どうも答えてくれそうにはないので十六夜は素直にそう返事をした。
スポンジを手に取り、作業に取り掛かろうとする彼女の背を見てハデスがほっと息をつく。だが安堵したのも束の間、一向に治まりそうにない体の変調をどうしたものかと悩みながら彼女の背後に立ったままでいると、玄関の方から騒々しい音と賑やかな女性の声が聞こえ始め、体の状態の問題は難無く解決したのだった。
◇
「——んで?この子が例の子か?」
「例の子か?ハデス」
居間のテーブル周りの席に座っているニケの問いに、リリスが続く。そんな二人を前にして、十六夜が居る手前、一応は紅茶の準備をしているハデスが不機嫌そうな顔をしながらも「…… あぁ」と短く返した。
今日も今日とて、来訪者はハデスの許嫁である三人の女性達だった。玄関から賑やかな声が聞こえてきた時点で『どうせそうだろうな』と正直思ってはいたが、二人きりの時間の邪魔をされて腹立たしい気持ちはどうにも治まらない。
「初めまして、よね。ワタシはアイギナ。こっちの金色の方がニケ、隣に居るのはニケの義妹に当たるリリスよ。ハデスからは『怪我をしている』と聞いていたんだけど…… 見た感じ、案外平気そうね」
素知らぬフリをして、アイギナが十六夜に問い掛ける。許嫁組の三人は揃いも揃って嘘をつき慣れているのか、初対面の演技がとても上手だ。
「あ、はい。ハデスさんが看病してくれている、おかげ、で」
十六夜の方は残念ながらぎこちなく、先程からずっと目が泳いでいる。彼女もちゃんと今のシーンでは初対面である様に装わなければいけないと頭ではわかってはいるのだが、それが出来るか否かは別問題だった。
「腕の調子はどうだ?昨夜は熱が出たりはしなかったか?って、昨日の今日じゃ、たいして変わらんか」
十六夜にそう訊いたのは、許嫁三人に同行していたアイデースである。今日は診療所に通えない者を対象とした往診日だったので、そのついでに立ち寄ったみたいだ。
「あ、えっと、腕はもうホント大丈夫です。昨日よりももっと、痛みだけじゃなく違和感も無いですし。きっとハデスさんがそぃ…… きちんと、みてくれていたので」
途中から顔を真っ赤にし、『添い寝までしてくれて』と言おうとしてしまった言葉を慌てて呑み込み、十六夜は別の言葉を口にした。許嫁達がハデスに恋愛感情を抱いていないと知ってはいても、それを知っている事を匂わせる台詞を言う訳にはいかない。そもそも添い寝がデフォルトになっている事自体に今更照れも感じた。
「そうか。薬が効いている証拠だな。傷が開く心配はもう無いだろうが、念の為あと数日は安静にしておけよ」
「はい。気を付けます」
同族であるという仲間意識があるおかげか、アイデースを相手に話す時は難なく話せている。そのせいか、傍から見ている分には随分と彼に懐いている様にも見えてしまう。そのせいか、ハデスの機嫌はみるみる急降下していった。
「彼女の事はきちんと四六時中見ているのでご心配なく。もう終わりましたよね?さっさと次のお宅に向かったらどうですか?」
「…… あ、あぁ、そうだな」
真っ黒いオーラを滲ませるハデスに少し怯みつつ、アイデースは診察用の道具が入る鞄を手に取った。様子を見に来ただけなのでこれ以上居座る気もないみたいだ。
「んじゃ、お暇するか。お大事にな、十六夜さん」
「はい。お気遣いありがとうございます」
椅子に座ったまま礼を言うと、そんな彼女の頭をアイデースがくしゃっと撫でる。子供をあやすくらいの感覚でおこなった行為だったのだが、火に油だったのか、ハデスは手に持っていたテーポットをガシャンッ!と激しい音を鳴らしながらテーブルに叩きつけた。
「他意はない!癖だ、癖!」
バッと慌てて頭から手を離し、アイデースはハデスに対し、診察鞄を持ったままにも関わらず降参ポーズをしてみせる。そんな彼等の横でリリス達はティーポッドが割れていないか確認していた。
アイデースが別の家へ往診に向かい、一息ついた頃。渋い顔をし続けていたハデスが口を開いた。もちろん、『いつまで居る気だ?お茶も飲み終わったし、そろそろ帰れ。十六夜を休ませたいんだ』と言う為にだ。——だが、彼の幼馴染でもある許嫁達の方が一枚上手だった。
「さて。んじゃ、そろそろ衣装合わせを始めるか」
ニケはそう言うなり、同調しているリリスと共に両サイドからハデスの腕を掴み、ずるずると引き摺って別室に行こうとする。そのせいで彼は「離せ、何をする気だ⁉︎」と困惑するばかりで、三人に『帰れ』と言えぬまま強制的に連行されてしまった。相手は女性だとはいえ、不自然な程に筋骨隆々な二人に掴まれてはなす術もない様だ。
「…… いってらっしゃーい」
やる気の感じられない手を振りながら、アイギナが三人の見送る。そして居間には十六夜とアイギナの二人きりとなった。
「さて、と——」
一度咳払いをし、アイギナが十六夜の方へ居住まいを正してみせた。
「十六夜さん」
いつも通り、茶色い瞳は眠そうなままではあるが、妙に真剣な色を帯びている。そのせいか名前を呼ばれた十六夜も座ったまま自然と背筋を正して「はい」と返した。
「これを受け取って欲しいの」
そう言ってアイギナは小さな袋を一つ、ティーカップなどが並んでいるテーブルの上にスッと差し出した。
「…… これは?」
袋を上からじっと見たが、茶袋に入っていて十六夜には中身がわからない。
「私達の願いは散々話したわよね?賛同してくれるなら、四日後の夜にこれをハデスに飲ませて欲しいの」
「これを、ですか?」
中身が何かもわからない物を飲ませろと言われても、つい訝しげな顔になってしまう。
「危険な物じゃないから安心して。確かな筋から手配した、ただの睡眠薬よ。…… 私達の用意はもうすぐ整うわ」
アイギナは一度言葉を切ると、十六夜の方へ手を差し出してきた。
「ハデスが、欲しくない?この手を取ってくれたら彼を独占出来るわよ」
「独…… 占、出来、る…… 」
悪魔の囁きとは、まさにこれかもしれないと十六夜は思ったのだった。
笑顔を向けあって初めて作った料理は別段豪華な物ではなかったが、作りたてという事も加算されてどれも美味しく、『今まで食べた料理の中で一番のご馳走だ』とハデスは思った。ただ二人で一緒にご飯を作って食べたというだけなのに、とても特別で、幸せな時間に感じられる。
(無闇に十六夜を寝室に閉じ込めるだけじゃなく、もっと早くこういう時間を作れば良かったかな)
ハデスが少しだけ後悔していると、先に食事を終えた十六夜が手を合わせた。
「ご馳走様でした」
「僕もご馳走様」
十六夜に続き、彼も食器の片付けを始める。全て下げ終えると、益々彼は『これって、本当に夫婦っぽいな』と妄想を膨らませた。
二人きりの家、一緒にこなす家事。ハデスが普段使っている大きめのエプロンを着けて台所に立つ十六夜の姿は幸せそのもので、背後から抱き締めてしまいたくなる。
(そう言えば…… そんなシーンのある本を前に借りた事があったな)
キッチンに立つ夫、そんな彼の隣に居るのは白いエプロンだけを着た妻。最初は仲良く食事の用意をしていたはずなのだが、途中からは夫が妻を背後から美味しく頂くという一切オチの無い内容だった。他にも作業台の上で肌が生クリームと蜂蜜だらけになっている妻を、というパターンもあったかと思う。そういった類の内容の作品は古書店で扱っている本の中でもほんの数%にも満たない物だったので、偶然読んでしまった当初は興味も無くってすぐに忘れていたのに、まさか今このタイミングで思い出すとは…… とハデスが額を手で覆った。
(しかも、『自分もやってみたい』と思うなんてっ)
そんな欲求に呼応するみたいにあらぬ箇所が反応してしまい、ソレを隠すみたいにしてハデスはそっと十六夜に背を向けた。
「この食器、私が洗ってもいいですか?」
断られる覚悟を持って十六夜は訊いたのだが、難儀な状況にあるハデスが「…… た、頼んでもいいかな?」と返事した。彼女の方へ顔を向ける事も出来ず、彼は背を向けたままだ。
「もちろんです!」
彼がどういった状態にあるかをまるで想像も出来ていない十六夜が表情にパァと花を咲かせる。「任せて下さい」と元気に答え、十六夜は意気揚々と袖を捲って食器を洗う準備を始めた。
「あ、でも、やってみて、腕が痛いとかがあったらすぐに言ってね?残りは僕が洗うから」
洗い場に立っている十六夜に背後からそう声を掛け、ハデスが彼女の肩にぽすんと頭を預ける。
(このまま本で読んだみたいに頂いてしまえたらきっと、すごく気持ちいいんだろうなぁ…… )
馬鹿な考えがふと頭に浮かび、慌てたせいで「——ゲホゲホッ!」と盛大にハデスが咳き込んだ。
その事に驚き、「大丈夫ですか⁉︎」と十六夜が振り返ろうとする。だが、ガシッと両腕を彼に掴まれ振り返る事が出来ない。そのせいで身動きが出来ず、顔だけを少し後ろに向けはしたが状況はさっぱりわからないままだ。
「え?ハ、ハデスさん?どうかしましたか?」
「何でもないよ!何でも、ないから。あ、洗うの、頼めるかな」
「…… わ、わかりました」
珍しく慌てている彼の様子が気になる。一体どうしたんだろうか?という疑問を抱えたままだが、どうも答えてくれそうにはないので十六夜は素直にそう返事をした。
スポンジを手に取り、作業に取り掛かろうとする彼女の背を見てハデスがほっと息をつく。だが安堵したのも束の間、一向に治まりそうにない体の変調をどうしたものかと悩みながら彼女の背後に立ったままでいると、玄関の方から騒々しい音と賑やかな女性の声が聞こえ始め、体の状態の問題は難無く解決したのだった。
◇
「——んで?この子が例の子か?」
「例の子か?ハデス」
居間のテーブル周りの席に座っているニケの問いに、リリスが続く。そんな二人を前にして、十六夜が居る手前、一応は紅茶の準備をしているハデスが不機嫌そうな顔をしながらも「…… あぁ」と短く返した。
今日も今日とて、来訪者はハデスの許嫁である三人の女性達だった。玄関から賑やかな声が聞こえてきた時点で『どうせそうだろうな』と正直思ってはいたが、二人きりの時間の邪魔をされて腹立たしい気持ちはどうにも治まらない。
「初めまして、よね。ワタシはアイギナ。こっちの金色の方がニケ、隣に居るのはニケの義妹に当たるリリスよ。ハデスからは『怪我をしている』と聞いていたんだけど…… 見た感じ、案外平気そうね」
素知らぬフリをして、アイギナが十六夜に問い掛ける。許嫁組の三人は揃いも揃って嘘をつき慣れているのか、初対面の演技がとても上手だ。
「あ、はい。ハデスさんが看病してくれている、おかげ、で」
十六夜の方は残念ながらぎこちなく、先程からずっと目が泳いでいる。彼女もちゃんと今のシーンでは初対面である様に装わなければいけないと頭ではわかってはいるのだが、それが出来るか否かは別問題だった。
「腕の調子はどうだ?昨夜は熱が出たりはしなかったか?って、昨日の今日じゃ、たいして変わらんか」
十六夜にそう訊いたのは、許嫁三人に同行していたアイデースである。今日は診療所に通えない者を対象とした往診日だったので、そのついでに立ち寄ったみたいだ。
「あ、えっと、腕はもうホント大丈夫です。昨日よりももっと、痛みだけじゃなく違和感も無いですし。きっとハデスさんがそぃ…… きちんと、みてくれていたので」
途中から顔を真っ赤にし、『添い寝までしてくれて』と言おうとしてしまった言葉を慌てて呑み込み、十六夜は別の言葉を口にした。許嫁達がハデスに恋愛感情を抱いていないと知ってはいても、それを知っている事を匂わせる台詞を言う訳にはいかない。そもそも添い寝がデフォルトになっている事自体に今更照れも感じた。
「そうか。薬が効いている証拠だな。傷が開く心配はもう無いだろうが、念の為あと数日は安静にしておけよ」
「はい。気を付けます」
同族であるという仲間意識があるおかげか、アイデースを相手に話す時は難なく話せている。そのせいか、傍から見ている分には随分と彼に懐いている様にも見えてしまう。そのせいか、ハデスの機嫌はみるみる急降下していった。
「彼女の事はきちんと四六時中見ているのでご心配なく。もう終わりましたよね?さっさと次のお宅に向かったらどうですか?」
「…… あ、あぁ、そうだな」
真っ黒いオーラを滲ませるハデスに少し怯みつつ、アイデースは診察用の道具が入る鞄を手に取った。様子を見に来ただけなのでこれ以上居座る気もないみたいだ。
「んじゃ、お暇するか。お大事にな、十六夜さん」
「はい。お気遣いありがとうございます」
椅子に座ったまま礼を言うと、そんな彼女の頭をアイデースがくしゃっと撫でる。子供をあやすくらいの感覚でおこなった行為だったのだが、火に油だったのか、ハデスは手に持っていたテーポットをガシャンッ!と激しい音を鳴らしながらテーブルに叩きつけた。
「他意はない!癖だ、癖!」
バッと慌てて頭から手を離し、アイデースはハデスに対し、診察鞄を持ったままにも関わらず降参ポーズをしてみせる。そんな彼等の横でリリス達はティーポッドが割れていないか確認していた。
アイデースが別の家へ往診に向かい、一息ついた頃。渋い顔をし続けていたハデスが口を開いた。もちろん、『いつまで居る気だ?お茶も飲み終わったし、そろそろ帰れ。十六夜を休ませたいんだ』と言う為にだ。——だが、彼の幼馴染でもある許嫁達の方が一枚上手だった。
「さて。んじゃ、そろそろ衣装合わせを始めるか」
ニケはそう言うなり、同調しているリリスと共に両サイドからハデスの腕を掴み、ずるずると引き摺って別室に行こうとする。そのせいで彼は「離せ、何をする気だ⁉︎」と困惑するばかりで、三人に『帰れ』と言えぬまま強制的に連行されてしまった。相手は女性だとはいえ、不自然な程に筋骨隆々な二人に掴まれてはなす術もない様だ。
「…… いってらっしゃーい」
やる気の感じられない手を振りながら、アイギナが三人の見送る。そして居間には十六夜とアイギナの二人きりとなった。
「さて、と——」
一度咳払いをし、アイギナが十六夜の方へ居住まいを正してみせた。
「十六夜さん」
いつも通り、茶色い瞳は眠そうなままではあるが、妙に真剣な色を帯びている。そのせいか名前を呼ばれた十六夜も座ったまま自然と背筋を正して「はい」と返した。
「これを受け取って欲しいの」
そう言ってアイギナは小さな袋を一つ、ティーカップなどが並んでいるテーブルの上にスッと差し出した。
「…… これは?」
袋を上からじっと見たが、茶袋に入っていて十六夜には中身がわからない。
「私達の願いは散々話したわよね?賛同してくれるなら、四日後の夜にこれをハデスに飲ませて欲しいの」
「これを、ですか?」
中身が何かもわからない物を飲ませろと言われても、つい訝しげな顔になってしまう。
「危険な物じゃないから安心して。確かな筋から手配した、ただの睡眠薬よ。…… 私達の用意はもうすぐ整うわ」
アイギナは一度言葉を切ると、十六夜の方へ手を差し出してきた。
「ハデスが、欲しくない?この手を取ってくれたら彼を独占出来るわよ」
「独…… 占、出来、る…… 」
悪魔の囁きとは、まさにこれかもしれないと十六夜は思ったのだった。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる