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【第五章】君は僕の可愛い獣
【第二十ニ話】睡眠薬②(十六夜・談)
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ハデスさんから受け取った薬を飲み、三十分くらいが経過した。
じわりと効いてきた薬の副作用なのかなんなのか、不思議と酷く眠い。こんなの、寝るくなる成分がちょっと薬に混じっているとかそういうレベルの眠気じゃない。こうも眠いと睡眠薬や睡眠導入剤の類がハデスさんから渡された複数の薬の中に混じっていたのではと疑いたくなる。治療院でアイデースさんが私に処方すると言っていた薬の中にはそういった物はもう無かったはずだから、この過度な眠気は多分ハデスさんが意図したものだろう。
(でも、何故?)
こんな物を使わなくたってもう傷の痛みなんかほとんど無いのだから普通に眠れるのに。それなのに、こうまでして私を眠らせておきたい理由がわからない。何か知られると不都合な事がこれからあるんだろうか?もしかしたら、この後また許嫁達がこの家に戻って来るから他人の看病は面倒だし、ここはひとまず眠らせて放置しておこうかって事なんだろうか?
「…… っ」
そうに違いないと確信出来る情報なんか何も無い上に根拠一つ提示出来ないんだからこんなのただの想像でしかないっていうのに、段々腹が立ってきた。私達の間には何も無いんだ。こんなの身勝手な感情だってわかってはいても、浮気でもされたみたいな気分になってくる。
(こんなの…… 逆ギレもいいところだ)
「横になった方がいいんじゃ?」
気遣うみたいな声を掛けられたが、今までみたいに素直にその言葉や声色をそのままの印象で受け止められない。『早く寝てしまえ』と言われているみたいに頭ん中で言葉の意味を勝手に変換してしまう。
「平気です」
意地を張ってみたけれど目を開けているのも辛くなってきた。腰掛けているベッドにこのまま倒れ込み、布団の中に潜り込みたい衝動は強くなる一方だ。
「眠った方が傷の治りも早くなるよ。休養は大事だから、ね?」
椅子に座って本を読んでいたハデスさんが傍まで来て、私がベッドで横になって眠れるようにと介助をし出す。絶対に眠りたくないって思うのに、彼の温かくって大きな手が体に触れると、否応なしに安心してしまって抵抗する気持ちが薄れてきた。
枕に頭を乗せ、掛布を体にかけられて肩まで覆われる。布からふわりと香るラベンダーの匂いが私を更に眠りの世界へと追い立てた。
「大丈夫。ちゃんと夕飯の時間には起こすから、今はゆっくりおやすみ」
そう言って、微笑みながら優しく頭を撫でる仕草なんか完全に恋人や愛妻に対する行動そのものだ。これを今までも許嫁達にもやっていたのだろなと思うと私の中で苛立ちが再浮上し、『素直に寝てなんかやるもんか』という拗ねた考えが頭の中を占有する。そんな思いから私は、自身の体に神力を施して解毒を試みる事にした。治療に関する神力の使い方はそもそも得意ではないし、根本的問題で睡眠系は“毒”とはまたちょっと違うかもしれないが、“毒”と“薬”はそもそも紙一重の存在だ。なのできっと薬の効果を弱めるくらいは出来るだろう。こんな事に力を使った経験が一度もないから上手くいく保証もないが、何もしないよりは早めに目が覚めるくらいは可能だと…… 思いたい。
(傷が完全に治ったらちゃんと出ていくから。それまでの間くらいは——ちょっとでも、私だけを見ていて欲しい)
邪念で頭ん中をいっぱいにしながら解毒に集中する為にも瞼を閉じる。呼吸も整えつつ神力を体に巡らせる事に意識を集中していると、ハデスさんが「…… 眠った、かな?」と呟く声が聞こえた。どうやら意識は保てているみたいだが、体の方はもう眠ってしまったのか全く動かせない。この部屋から出させない為に『いいえ、まだ起きていますよ』と嫌味ったらしい声で言ってやりたいのに、口だけですら自分の意思では動かせそうにはなかった。
頬をツンッとつつかれたが、反応を返せない。一度も経験がないので断言は出来ないが、感覚的には金縛りにでもあっているみたいな感じだ。体だけが完全に眠っていて意識だけはあるという何とも厄介な状況になってしまった。早く、早くと気持ちは焦るけど、得意じゃないせいで神力を上手く扱えない。
「君が、元々この村の住人だったら良かったのに…… 」
悔しそうなハデスさんの声が聞こえ、頬を優しく撫でられた。その撫で方に愛情を感じ取ってしまい、つい泣きそうになってくる。
「そうしたら、もっと早くに君に触れて——」までは聞こえたのに、段々と声が小さくなって続きが聞き取れなかった。と同時に、急に少しだけ肌寒くなった。瞼を開けられないので確信は持てないが、多分掛布をハデスさんが取り払ったのだろう。
(交換でも必要だったんだろうか?)
そう思って首を傾げたい気分になっていると、ズシッとした重さを体に感じた。どうも腰の辺りに何かが乗ったような気がする。それと共に、上に着ている服の前ボタンを一個づつゆっくりと外していく感覚が布越しに伝わってきた。
(でもどうして?)
今着ている服は寝衣程ではないまでも、寝にくいだろうからと着替えが必要になる類の服でもない。そもそもベッドで休む前に着替えた方がよかったのなら、その程度の余裕ならあったはずだ。
疑問を抱えている間に鼻歌が聴こえてきて、もうほとんどのボタンが外れてしまった。室温と彼の体温を肌に感じる。『ハデスさんは一体何がしたいの?』と考えていると、ぬるっと熱い塊が急に口の中に割り込んできた。湿った何かが口の中で動き回る。歯に触れ、歯茎をかすめ、その塊は次第に私の舌へと絡みついてきた。時折、熱い吐息と同時に聞こえる鼻にかかった男性の甘い声が耳に届く。
「あぁ、美味しい…… 」
耳の外輪を指先でなぞられ、無意識に体がビクッと跳ねた。でもまだ自由に動かす事は出来ないままだ。意識しか回復していない状態では埒が明かない。一刻も早くどうにかせねばと神力を全身に施そうとするも、キスとしか思えない行為が止まないせいで全然解毒は進まない。
「十六夜、十六夜——」
彼が呼吸をしようとするたびに、ハデスさんが何度も私の名前を呼んでいる。熱のこもった声は恋人の名でも呼ぶみたいな色を帯びている気がしてならない。『許嫁がいるのに、何だってそんな声で私を呼ぶのだろうか?』そう思った途端、胸の奥がチリッと痛んだ。
「あはは。もうココ勃ってるんだ?キスだけで気持ちよくなっちゃったのかな」
そう言ったと同時にブラジャーの前ホックが外され、右胸の先端を軽く弾かれる。今まで胸を覆っていたブラからこぼれ出た無駄に大きな胸が揺れ、尖り部分がねっとりとした物に包まれた。左胸は大きな手に掴まれてむぎゅむぎゅっと何度もいたぶられている。
彼の言う通りだ。胸が気持ちよくってしょうがない。誰かにこんな事をされるのは初めてなのに、妙にしっくりくるのは何故なんだろうか。
「もっと胸を弄っていたいんだけど、今は時間がなぁ」の声と共に、左胸から手が離れていく。
「…… あれ?」
穿いているズボンの脚の間に彼の手が触れて、グチュッと小さな音が私の耳にまで届いた。
「もうこんなに濡れてるんだね。今日はいつもよりも反応がいい気がするけど…… そんなに気持ち良かったの?」
そんな事を訊かれても、体の自由はないままだから問い掛けには答えられない。でもハデスさんも返事を期待しているわけではないと思う。
ふふっと笑いながら彼の手が動き、ズボンの前がゆるめられて下着と一緒に脱がされてしまった。
前側を開かれた長袖のシャツと、飾りと化したブラジャーだけの姿にさせられる。私のあられもない姿を見たからなのか、ごくっと唾を呑み込む音が聞こえた。
「本当に綺麗だね。いつも見惚れちゃうけど、今はとにかく時間が無いから——っと」
彼が口にした『いつも』という言葉が耳に残る。そんな言葉は、着替えをサポートしてくれたくらいでは出てこない言い回しでは?と思っている私の体をぐるんっと回し、ハデスさんは私の体をうつ伏せにさせた。
「あれ?愛液を太ももにまで垂らしちゃって…… お漏らししちゃったみたいに見えるよ?ふふっ」
お尻を撫でられ、『うぐっ』と口から出てもおかしくないくらい変な感覚が体に走った。なのに自由にならないこの体は死体みたいに無防備なままで、頭の中だけが煮詰まっていく。
卑猥な水音と共に何かが体内に入ってきた。細くて長く、器用にナカを撫でながら奥へ奥へとスムーズに入り込んでくる。痛みなどは微塵もなく、ただただゾクッとした快楽だけが脳髄を駆け抜けた。初めてなのに何故?どうして?なんて疑問は一瞬で溶け崩れ、快楽に塗りつぶされていく。
「まだナカは柔いままだね。朝までしていたからかな、精液も残っていたりして」
楽しそうに弾む声が耳の中を抜けていって、意味を理解する余裕もない。神力を体に巡らせる余裕もないせいで体は薬で眠ったままだ。シーツにしがみ付き、大きな声をあげて快楽を少しでも他に散らしてしまいたいのにそれが出来ないせいか、指淫から与えられる歓楽から逃げられずに劣情ばかりが高まっていく。ダラダラ流れ出る愛液のせいで水音が次第に大きくなり、指の動きを意図せず助けてしまっていると、一本だった指の数が順々に増えていき、最終的には三本にまで増えていった。彼の長い指は子宮口まで届き、入口を指の先で優しく撫でてくる。そのせいで愛液がしとどに溢れるのが止まらないのか、ベッドのシーツの方まで濡れ溢れていった。
「コレならもう、余裕で挿入りそうだな」
背後からゴソゴソと音が聞こえる。パサッと何かが落ちる音もしたので、きっとハデスさんが服を脱いで床に投げ捨てたのだろう。
「…… 沢山ナカにあげるから、ちゃんと僕の子供を孕むんだよ?」
言うが早いか、ずんっ!と重量のある硬いモノが私の体の内部を貫いた。濡れに濡れているせいで彼の無遠慮な動きを助け、もう最奥にまで何かが到達していて子宮口を容赦無く突き上げている。肌同士がぶつかるバチュンッという音と愛液のぐちゅりとした音とが部屋に響いた。
「し、子宮…… もうおりてきちゃってるね。指でナカを弄られたの、そんなに良かったのかい?…… イヤラシイね、十六夜の体は」
耳元でハデスさんが吐息混じりに囁いた。
(何故?どうして、気持ちいいの?)
こんなのは初めての経験なのにちっとも痛みが無い。何から何まで気持ちよくってしょうがなく、喜悦が心を支配する。今までずっと欠けていた自分のパーツがやっと全て揃ったみたいな感覚が心地よく、彼の緩急をつけた抽挿のせいで頭の中が嬌声でいっぱいだ。
(気持ちいい、いいっもっと奥を、んんんーっ!ソコ、ソコきもちぃ——)
相変わらず動かない体は何一つとして言葉を口から出せていないのに、ハデスさんは私のナカの反応を的確に捉えて穿ってくる。
知識では知っていたが、交尾がこんなにも激しくって気持ちいい行為だなんて思ってもいなかった。子供を作るだけの行為として終わらせるのが嫌になる程だ。もっともっとと渇望するがこちらからは何も返せない事がもどかしくなってきた。
「す、すごいな…… 君のナカ、うねって、狭くって、ぎゅーって僕のを掴んでちっとも離してくれないや」
あぁ、彼の言う通りだ。離したくない、もっと欲しい、もっと突いて、ずっとずっとナカに居てくれたって構わないと必死に願ってしまう。
ハデスさんの激しい交尾により、背中に彼の汗がぼたぼたと落ちて私の肌を滑っていく。たったそれだけの事さえも淫楽に繋がり、私のナカで何かが弾け飛んだ。
「——んあ!ちょ、待って!んぅっ!」
辛そうな彼の声が聞こえ、腹の奥にじわりと熱いモノがたっぷりと注がれた気がする。ソレと同時にぎゅうぎゅうと彼の屹立を食い締めている淫道が何度も何度も震えた。
「寝バックは…… ホントやばいな。こ、こんな早くイク気は無かったのに」
彼が汗ばんだ髪をかき上げるような気配を感じるが、相変わらず私の体は動かないままだ。
子宮のナカいっぱいに精液を注がれてしまった。今は繁殖期ではないが、ヒトの状態なので妊娠してもおかしくはない。こんな事をするなんて、やっぱりハデスさんは私を自分の番にしたいみたいだ。そうじゃなきゃこんな行為を私にするはずがない。
「…… 夕方まで、まだ時間があるからもっとしようね、十六夜」
理性の感じられない色の声と共に、ハデスさんが抽挿を再開する。淫猥な吐息をつきながら腰を必死に動かすせいで、せっかく注いだ精液が奥から溢れ出てしまう。ちょっと勿体無いけど、狭隘な蜜道を好き勝手にされるのが嬉しくって堪らない。…… でも、この人は私だけのものじゃないんだ。
(勝手に私を番にしたくせに、その他大勢の一人でしかないのか)
そう思った瞬間、私の中で法悦以外の仄暗い何かが、じわりと心の中に消せない染みを作った気がした。
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(でも、何故?)
こんな物を使わなくたってもう傷の痛みなんかほとんど無いのだから普通に眠れるのに。それなのに、こうまでして私を眠らせておきたい理由がわからない。何か知られると不都合な事がこれからあるんだろうか?もしかしたら、この後また許嫁達がこの家に戻って来るから他人の看病は面倒だし、ここはひとまず眠らせて放置しておこうかって事なんだろうか?
「…… っ」
そうに違いないと確信出来る情報なんか何も無い上に根拠一つ提示出来ないんだからこんなのただの想像でしかないっていうのに、段々腹が立ってきた。私達の間には何も無いんだ。こんなの身勝手な感情だってわかってはいても、浮気でもされたみたいな気分になってくる。
(こんなの…… 逆ギレもいいところだ)
「横になった方がいいんじゃ?」
気遣うみたいな声を掛けられたが、今までみたいに素直にその言葉や声色をそのままの印象で受け止められない。『早く寝てしまえ』と言われているみたいに頭ん中で言葉の意味を勝手に変換してしまう。
「平気です」
意地を張ってみたけれど目を開けているのも辛くなってきた。腰掛けているベッドにこのまま倒れ込み、布団の中に潜り込みたい衝動は強くなる一方だ。
「眠った方が傷の治りも早くなるよ。休養は大事だから、ね?」
椅子に座って本を読んでいたハデスさんが傍まで来て、私がベッドで横になって眠れるようにと介助をし出す。絶対に眠りたくないって思うのに、彼の温かくって大きな手が体に触れると、否応なしに安心してしまって抵抗する気持ちが薄れてきた。
枕に頭を乗せ、掛布を体にかけられて肩まで覆われる。布からふわりと香るラベンダーの匂いが私を更に眠りの世界へと追い立てた。
「大丈夫。ちゃんと夕飯の時間には起こすから、今はゆっくりおやすみ」
そう言って、微笑みながら優しく頭を撫でる仕草なんか完全に恋人や愛妻に対する行動そのものだ。これを今までも許嫁達にもやっていたのだろなと思うと私の中で苛立ちが再浮上し、『素直に寝てなんかやるもんか』という拗ねた考えが頭の中を占有する。そんな思いから私は、自身の体に神力を施して解毒を試みる事にした。治療に関する神力の使い方はそもそも得意ではないし、根本的問題で睡眠系は“毒”とはまたちょっと違うかもしれないが、“毒”と“薬”はそもそも紙一重の存在だ。なのできっと薬の効果を弱めるくらいは出来るだろう。こんな事に力を使った経験が一度もないから上手くいく保証もないが、何もしないよりは早めに目が覚めるくらいは可能だと…… 思いたい。
(傷が完全に治ったらちゃんと出ていくから。それまでの間くらいは——ちょっとでも、私だけを見ていて欲しい)
邪念で頭ん中をいっぱいにしながら解毒に集中する為にも瞼を閉じる。呼吸も整えつつ神力を体に巡らせる事に意識を集中していると、ハデスさんが「…… 眠った、かな?」と呟く声が聞こえた。どうやら意識は保てているみたいだが、体の方はもう眠ってしまったのか全く動かせない。この部屋から出させない為に『いいえ、まだ起きていますよ』と嫌味ったらしい声で言ってやりたいのに、口だけですら自分の意思では動かせそうにはなかった。
頬をツンッとつつかれたが、反応を返せない。一度も経験がないので断言は出来ないが、感覚的には金縛りにでもあっているみたいな感じだ。体だけが完全に眠っていて意識だけはあるという何とも厄介な状況になってしまった。早く、早くと気持ちは焦るけど、得意じゃないせいで神力を上手く扱えない。
「君が、元々この村の住人だったら良かったのに…… 」
悔しそうなハデスさんの声が聞こえ、頬を優しく撫でられた。その撫で方に愛情を感じ取ってしまい、つい泣きそうになってくる。
「そうしたら、もっと早くに君に触れて——」までは聞こえたのに、段々と声が小さくなって続きが聞き取れなかった。と同時に、急に少しだけ肌寒くなった。瞼を開けられないので確信は持てないが、多分掛布をハデスさんが取り払ったのだろう。
(交換でも必要だったんだろうか?)
そう思って首を傾げたい気分になっていると、ズシッとした重さを体に感じた。どうも腰の辺りに何かが乗ったような気がする。それと共に、上に着ている服の前ボタンを一個づつゆっくりと外していく感覚が布越しに伝わってきた。
(でもどうして?)
今着ている服は寝衣程ではないまでも、寝にくいだろうからと着替えが必要になる類の服でもない。そもそもベッドで休む前に着替えた方がよかったのなら、その程度の余裕ならあったはずだ。
疑問を抱えている間に鼻歌が聴こえてきて、もうほとんどのボタンが外れてしまった。室温と彼の体温を肌に感じる。『ハデスさんは一体何がしたいの?』と考えていると、ぬるっと熱い塊が急に口の中に割り込んできた。湿った何かが口の中で動き回る。歯に触れ、歯茎をかすめ、その塊は次第に私の舌へと絡みついてきた。時折、熱い吐息と同時に聞こえる鼻にかかった男性の甘い声が耳に届く。
「あぁ、美味しい…… 」
耳の外輪を指先でなぞられ、無意識に体がビクッと跳ねた。でもまだ自由に動かす事は出来ないままだ。意識しか回復していない状態では埒が明かない。一刻も早くどうにかせねばと神力を全身に施そうとするも、キスとしか思えない行為が止まないせいで全然解毒は進まない。
「十六夜、十六夜——」
彼が呼吸をしようとするたびに、ハデスさんが何度も私の名前を呼んでいる。熱のこもった声は恋人の名でも呼ぶみたいな色を帯びている気がしてならない。『許嫁がいるのに、何だってそんな声で私を呼ぶのだろうか?』そう思った途端、胸の奥がチリッと痛んだ。
「あはは。もうココ勃ってるんだ?キスだけで気持ちよくなっちゃったのかな」
そう言ったと同時にブラジャーの前ホックが外され、右胸の先端を軽く弾かれる。今まで胸を覆っていたブラからこぼれ出た無駄に大きな胸が揺れ、尖り部分がねっとりとした物に包まれた。左胸は大きな手に掴まれてむぎゅむぎゅっと何度もいたぶられている。
彼の言う通りだ。胸が気持ちよくってしょうがない。誰かにこんな事をされるのは初めてなのに、妙にしっくりくるのは何故なんだろうか。
「もっと胸を弄っていたいんだけど、今は時間がなぁ」の声と共に、左胸から手が離れていく。
「…… あれ?」
穿いているズボンの脚の間に彼の手が触れて、グチュッと小さな音が私の耳にまで届いた。
「もうこんなに濡れてるんだね。今日はいつもよりも反応がいい気がするけど…… そんなに気持ち良かったの?」
そんな事を訊かれても、体の自由はないままだから問い掛けには答えられない。でもハデスさんも返事を期待しているわけではないと思う。
ふふっと笑いながら彼の手が動き、ズボンの前がゆるめられて下着と一緒に脱がされてしまった。
前側を開かれた長袖のシャツと、飾りと化したブラジャーだけの姿にさせられる。私のあられもない姿を見たからなのか、ごくっと唾を呑み込む音が聞こえた。
「本当に綺麗だね。いつも見惚れちゃうけど、今はとにかく時間が無いから——っと」
彼が口にした『いつも』という言葉が耳に残る。そんな言葉は、着替えをサポートしてくれたくらいでは出てこない言い回しでは?と思っている私の体をぐるんっと回し、ハデスさんは私の体をうつ伏せにさせた。
「あれ?愛液を太ももにまで垂らしちゃって…… お漏らししちゃったみたいに見えるよ?ふふっ」
お尻を撫でられ、『うぐっ』と口から出てもおかしくないくらい変な感覚が体に走った。なのに自由にならないこの体は死体みたいに無防備なままで、頭の中だけが煮詰まっていく。
卑猥な水音と共に何かが体内に入ってきた。細くて長く、器用にナカを撫でながら奥へ奥へとスムーズに入り込んでくる。痛みなどは微塵もなく、ただただゾクッとした快楽だけが脳髄を駆け抜けた。初めてなのに何故?どうして?なんて疑問は一瞬で溶け崩れ、快楽に塗りつぶされていく。
「まだナカは柔いままだね。朝までしていたからかな、精液も残っていたりして」
楽しそうに弾む声が耳の中を抜けていって、意味を理解する余裕もない。神力を体に巡らせる余裕もないせいで体は薬で眠ったままだ。シーツにしがみ付き、大きな声をあげて快楽を少しでも他に散らしてしまいたいのにそれが出来ないせいか、指淫から与えられる歓楽から逃げられずに劣情ばかりが高まっていく。ダラダラ流れ出る愛液のせいで水音が次第に大きくなり、指の動きを意図せず助けてしまっていると、一本だった指の数が順々に増えていき、最終的には三本にまで増えていった。彼の長い指は子宮口まで届き、入口を指の先で優しく撫でてくる。そのせいで愛液がしとどに溢れるのが止まらないのか、ベッドのシーツの方まで濡れ溢れていった。
「コレならもう、余裕で挿入りそうだな」
背後からゴソゴソと音が聞こえる。パサッと何かが落ちる音もしたので、きっとハデスさんが服を脱いで床に投げ捨てたのだろう。
「…… 沢山ナカにあげるから、ちゃんと僕の子供を孕むんだよ?」
言うが早いか、ずんっ!と重量のある硬いモノが私の体の内部を貫いた。濡れに濡れているせいで彼の無遠慮な動きを助け、もう最奥にまで何かが到達していて子宮口を容赦無く突き上げている。肌同士がぶつかるバチュンッという音と愛液のぐちゅりとした音とが部屋に響いた。
「し、子宮…… もうおりてきちゃってるね。指でナカを弄られたの、そんなに良かったのかい?…… イヤラシイね、十六夜の体は」
耳元でハデスさんが吐息混じりに囁いた。
(何故?どうして、気持ちいいの?)
こんなのは初めての経験なのにちっとも痛みが無い。何から何まで気持ちよくってしょうがなく、喜悦が心を支配する。今までずっと欠けていた自分のパーツがやっと全て揃ったみたいな感覚が心地よく、彼の緩急をつけた抽挿のせいで頭の中が嬌声でいっぱいだ。
(気持ちいい、いいっもっと奥を、んんんーっ!ソコ、ソコきもちぃ——)
相変わらず動かない体は何一つとして言葉を口から出せていないのに、ハデスさんは私のナカの反応を的確に捉えて穿ってくる。
知識では知っていたが、交尾がこんなにも激しくって気持ちいい行為だなんて思ってもいなかった。子供を作るだけの行為として終わらせるのが嫌になる程だ。もっともっとと渇望するがこちらからは何も返せない事がもどかしくなってきた。
「す、すごいな…… 君のナカ、うねって、狭くって、ぎゅーって僕のを掴んでちっとも離してくれないや」
あぁ、彼の言う通りだ。離したくない、もっと欲しい、もっと突いて、ずっとずっとナカに居てくれたって構わないと必死に願ってしまう。
ハデスさんの激しい交尾により、背中に彼の汗がぼたぼたと落ちて私の肌を滑っていく。たったそれだけの事さえも淫楽に繋がり、私のナカで何かが弾け飛んだ。
「——んあ!ちょ、待って!んぅっ!」
辛そうな彼の声が聞こえ、腹の奥にじわりと熱いモノがたっぷりと注がれた気がする。ソレと同時にぎゅうぎゅうと彼の屹立を食い締めている淫道が何度も何度も震えた。
「寝バックは…… ホントやばいな。こ、こんな早くイク気は無かったのに」
彼が汗ばんだ髪をかき上げるような気配を感じるが、相変わらず私の体は動かないままだ。
子宮のナカいっぱいに精液を注がれてしまった。今は繁殖期ではないが、ヒトの状態なので妊娠してもおかしくはない。こんな事をするなんて、やっぱりハデスさんは私を自分の番にしたいみたいだ。そうじゃなきゃこんな行為を私にするはずがない。
「…… 夕方まで、まだ時間があるからもっとしようね、十六夜」
理性の感じられない色の声と共に、ハデスさんが抽挿を再開する。淫猥な吐息をつきながら腰を必死に動かすせいで、せっかく注いだ精液が奥から溢れ出てしまう。ちょっと勿体無いけど、狭隘な蜜道を好き勝手にされるのが嬉しくって堪らない。…… でも、この人は私だけのものじゃないんだ。
(勝手に私を番にしたくせに、その他大勢の一人でしかないのか)
そう思った瞬間、私の中で法悦以外の仄暗い何かが、じわりと心の中に消せない染みを作った気がした。
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