恋も知らぬ番に愛を注ぐ

月咲やまな

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【第四章】いやらしいのは隣のキミ一人

【第八話】二人の初めて②(十六夜・談)

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「安心して、十六夜さん。貴女が大事な人だって言う“ハデス様”って奴の事は忘れて、ボクだけのモノになって欲しいだなんて言わないから」
 着ている服を上に引っ張って腹を露出させ、首や肩、胸の膨らみを順々に甘噛みしながら、ハデス君が呟くみたいな声で言った。こんな行為を求めてきているくらいだ、てっきり『“ハデス様”の事は忘れて』と言われるのかと思っていたのだが、彼は別段あのお方の存在を気にしていないみたいだ。

「だって、ソイツはもう、こうやって十六夜さんには触れられないんでしょう?なら、断然有利なのはボクの方だもんね。そんな相手には嫉妬心すら湧かないよ」

 大きく口を開け、勝ち誇ったみたいにニタリと笑ったハデス君は、その流れで私の胸の先を口内に含んだ。着ている服が彼の唾液で濡れ、シミがじわりと広がる。そんな状態のまま彼は胸を吸い、過度な刺激のせいでツンッと膨らんだ乳嘴を容赦無く攻めた。

「あぁ!だ、ダメですっ。そんな…… ひゃっん、んぐっ!——ひっ」

 服のボタンをゆっくりと外していき、脱がしやすくなったと踏んだ途端、彼は胸からゆっくり口を離して私の着衣を脱がし始めた。とは言っても、ブラウスと七部丈のスキニーだけを。そのせいで今は上下の下着と靴下だけという何とも微妙な格好に。彼の唾液で濡れたブラジャーもいっそ外して欲しいと一瞬思ったが、それはそれで恥ずかしくって、すぐにその考えは打ち捨てた。
「…… 綺麗。写真に撮って残しておきたいくらいだよ」
「イヤ…… お願い、それはやめて」
 涙目になりながら懇願すると、その涙をハデス君が舐め取っていく。
「こんなに綺麗なのに?勿体無いなぁ。別にボクは『抵抗したらネットにばら撒くよ』とか、その写真を使って脅して『十六夜さんの体を玩具みたいに四六時中犯させて』とか、お願いするつもりは無いよ?」

 スラスラとそんな言葉が出てくるなんて、本当にする気はなくとも、内心したいと思った事はあるって事なんじゃ?

 自分の中にあった“ハデス君”のイメージがガラガラと音を立てて崩れていく。いつまでも彼を年下の子供だと思っていた自分の警戒心の無さに呆れ返った。習慣化してしまっていたせいだとはいえ、毎週末彼と一緒のベッドで寝ていてよく無事だったな、とも。だけど『ボクが大人になるまでは』と我慢していたのかなと思った時、不覚にも意地らしい子だも考えてしまう。

 いやいや。
 服を剥かれ、ソファーの上で下着姿にさせられているのに、馬鹿なの?私は!

 心の中で己を叱咤し、不満全開の顔をハデス君に向ける。なのに彼はそんな私を見ても頬を染めてごくりと唾を飲み込み、「そんな顔して煽んないでよ…… すぐにでもシたいの我慢してるんだから」と興奮気味に言うだけだった。

「…… ハデス君は、私を…… どうしたい、の?」

 認識を改めなきゃ。彼はもう子供なんかじゃないんだ。
 雄と化した体格差もある男性を前にして、私に出来る事なんか限られている。だからって何も妙案なんか浮かばず、今は兎に角ハデス君の真意を探る事にした。だからって状況が好転するとも思えないが、少なくともどうして私がこんな目に遭っているのかくらいは理解出来るだろう。

「え?こんな姿にされているのに、まだわかんないの?…… ヤバ。それって初心過ぎて、逆にめちゃくちゃに抱き倒したくなってくるんだけど。全部の孔を犯し尽くして、後先何にも考えずに孕ませたくなるくらいに興奮してきた」

 はぁはぁと息を荒げ、普段の彼なら到底口にしそうにない言葉をつらつらと言い放つ。
 上半身を起こし、着痩せしていただけだった筋肉質な体に汗を滲ませ、ハデス君は穿いているズボンのベルトを外して前側を緩めた。パンツ越しであろうがわかる程に怒張するモノが視界に入り、不覚にも目が離せなくなる。自分が“アウローラ”だった時に散々見てきたモノのはずなのに、今は戦闘体制にあるというだけで全くの別モノみたいだ。
 声が出ず、でも抵抗する事も出来ない。何をされる寸前であるか心底理解しているからこそ適切な対応が浮かばない。
 ハデス君がしたい事は決して“気心の知れたお隣さん”、もしくは“年下の幼馴染”を相手にする行為じゃないって頭ではわかっているのに、この先に待つ快楽を知っている心はどうしたって続きを求めてしまう。そんな心と呼応するみたいに秘裂はとろりと濡れてすっかり熟れに熟れ、下っ腹の奥は熱を欲してきゅんきゅんと疼きっぱなしだ。こんな状態じゃ肉芽をちょっと擦られただけで達してしまう気がする。

 だけど、体が既にそんな状態になっているなんて、絶対に悟られたくはない。

 私が彼を純真無垢だと思い込んでいたみたいに、彼もまた私の事を初心な存在だと思っているに違いないのだから。
「ま、待って!」と強めに言い、逞しい胸板をぐっと押す。手のひらで感じ取れる彼の体温は燃えているみたいに熱く、心臓はこのまま壊れてしまいそうなくらいに跳ねていた。

「嫌じゃないの?わ、私には他に…… 大切なヒトがいるって、さっき言ったよね?そのヒトとは二度と逢えないのは確かだけど、だからって他に想うヒトがいる女を抱いて、た、楽しいの?」

 声が震えたが、この状況への恐怖からじゃない。彼から伝わってくる欲のせいで、自分もまた完全に発情状態にあるせいだ。
『ここで流されたら浮気じゃないか』
『でも…… もう“ハデス様”は遠い存在だ。禊を立てる意味はあるの?』
『捨てられたとしても、私は“ハデス様”の番だ。最後まであのお方を裏切る事など許されるはずがない』
『いやいや。声も、姿形も同じ相手なら…… 何をしても許されるのでは?』
 天使と悪魔が葛藤し、言い争っている幻聴が耳奥で響く。

「楽しくない、なんてあり得ないよ。十六夜さんを抱けるならそれで充分だし。だからボクを通して、たっぷりと“ハデス様”って奴を想っていてくれていいよ。ボクはその想いすらも丸ごと喰い尽くして、そんな奴の所まで届かない様にしてあげるから」

 私の手を掴み、手の平に口付けをしてくる。
「あぁ。だけど、今回は“ハデス様”って奴が相手だから許してあげるけど、もし更に別の奴に気持ちが移った時も同じ様に許してもらえるとは思わないでね?“ハデス様”がボクと同じ様な声で、顔で、容姿も似てるって話だからギリギリ我慢出来るなってだけの話しなんだから」
 どこまでも深い闇を抱えた彼の瞳が弧を描く。純真さの欠片も感じられぬ欲深い瞳なのに、ぎゅっと胸の奥を掴まれた気がした。
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