恋も知らぬ番に愛を注ぐ

月咲やまな

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【第一章】初めての経験

【第六話】ヘンゼルとグレーテル⑤(十六夜・談)

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 ぐぽぐぽとイヤラシイ音が耳を犯す。口内いっぱいに苦みと蜂蜜の甘い味が混じり合い、ハデス様の剛直を不思議な味にさせている。眦からは涙がボロボロととめどなく零れ落ち、息苦しさと吐き気とで苦しくってしょうがない。だけど後頭部を彼の手で押さえられているせいでこの苦しさから逃げ出す事は不可能だ。口内を支配している異物が大き過ぎるせいで口の端が今にも切れそうで痛いし、飲み込めぬ唾液がダラダラと溢れ出てしまってみっともない顔になっているに違いない。
「上手だね」と私の頭をハデス様が優しい手付きで撫でてくれる。こんな強姦にも等しい、喉までもを使った口淫を強要されている状況にも関わらず嬉しくなったのはきっと、この身の本来の持ち主である“グレーテル”のせいだろう。

 そして——
 こんな事をしている私達の側には今、首から上の消え去った魔女の遺体が転がっている。

 二人の淫猥な声に気が付き、とうとう外に出て来たのだが、目撃されたと同時にあっさりとハデス様に仕留められてしまったのだ。

 そんな遺体の隣。
 血を分けた兄妹でもある子供が二人でこんな事をしている場合なんかじゃないのはわかっている。なのに興奮を隠せぬ瞳でハデス様が私を見下ろしてくるせいで、下っ腹の奥がきゅんきゅんと疼いてしょうがない。彼の与えてくれる快楽を知ってしまった体は貪欲にソレを求め、また胎に貰えるのなら何だってすると訴えているみたいだ。お菓子のおかげで腹が満たされ、魔女の問題は瞬時に解決し、じゃあ続きを…… といった所なのだろうか。

 こうも快楽に弱いのは今の私が“人間”だから、なんだろう。
 そうだ、そうに決まっている。

 そうでも思わないと、自我が保てないくらい、今にも心が折れそうだ。
 ハデス様と私は番関係ではあるが、白い結婚の様な期間があまりにも長過ぎた。だからか、戸惑いを抱える気持ちが頭の片隅で膝を抱えて項垂れている。完全に“グレーテル”の“記憶”と“意識”のせいで隅へと追いやられていて、本来の自分が豆粒みたいだ。

「一度ココにも出すね。いいだろう?」

 許可を求めているが、こちらの返事を聞く気は今回も無いだろう。両手で頭を掴まれ、勃起した剛直で口内を激しく犯され続け、律動のたびにいやらしい水音がたつ。彼の動きに合わせて拙いながらも舌を動かすと、嬉しそうにハデス様の体が震え、喜悦の色を持った声で「で、出るっ」と言った。と同時に熱い熱い白濁液が口の中にごぼっと溢れ返る。
 軽く前のめりになり、ハデス様が熱い吐息をこぼした。そして彼が周囲を見渡すと、森の中はもうすっかり夜の帳が下りていた。

「もう外は暗い。そろそろ家の中に移動しようか」

 ずっと私の後頭部を押さえていた手を、やっと離す。ゆっくりと口の中から興奮の収まった雄を引き抜いてくれ、私は虚ろな瞳をしたまま熱い吐息をはぁとこぼした。口内を満たす愛液と唾液、そしてどろりとした白濁液を無理矢理腹の中に呑み込み、素直に頷く。
「…… 偉いね。よく出来ました」
 衣服を簡単に整え、チョコビスケットの上にペタンと座っていた私にハデス様が手を差し出す。

 あぁ…… 。
 お菓子と白濁液、互いの愛液などで小汚い体を早く綺麗にしたい。

 同じ事を彼も考えていたのか、「続きは体を綺麗にでもしながらにしようか」なんて言われ、ボッと顔が真っ赤に染まった。

 み、水場でも?

 “グレーテル”の側面が期待に胸を膨らませてドキドキと心臓が大騒ぎしている。こんなにも気持ちいい事をもっと沢山してくれるのかと思うと、密口からまたとろりと愛液が滲み出た気が。
 元来の私はその事に戸惑いながらも、真っ平らな胸元を腕で隠し、彼の手を取った。
「ありがとう、お兄ちゃん」
 子供っぽいはにかんだ笑顔を向けると、ハデス様も優しく微笑みを返してくれる。彼だって色々な物で汚れているのに、佳麗さが全然損なわれていないせいで、胸の高鳴りは静まらなかった。


       ◇


 一息つき、お菓子で作られた天井を見上げながらちょっと冷静に考えてみる。
 今のこの状況は『家の中に招かれて魔女からご馳走を頂く。だが一転して悪い魔女と化した彼女のせいで、ヘンゼルは家畜小屋に監禁。グレーテルは奴隷に、そして魔女の食材にされる』という過程がすっぽ抜けているが、もしかすると『魔女の宝物を奪い、家に戻って父と三人で暮らす』の一歩手前くらいの位置にあたるのだろうか。継母は確かもう既に森の中で死亡しているはずだから、二人で家に戻っても今までと同じ様な目に遭う心配は無いと思うのだが…… “ヘンゼル”はどう考えているのだろうか。

 お菓子の家の中にあった風呂場で体を綺麗にし合い、その場でまた貪り合うみたいに交合して、そのせいで疲れた体をふかふかのベッドに横になりながら癒していく。すぐ隣には“ヘンゼル”になっているハデス様も横になっていて、赤子を寝かしつけようとするみたいに体をぽんぽんっと優しく叩いてくれている。
「…… ねぇ、お兄ちゃん」
「なんだい?」
 さっきまで、何度も何度も何度も、しとどに濡れる蜜壺を体に合わぬサイズの剛直で味わい尽くしていた者とは思えぬ、稚い顔で返事をしてくれた。本当に同一人物なのだろうか?と思う程の幼さだ。

「…… この後って、どうするの?お家に帰るの?」

 あまりに過激な刺激の連続に驚き、しゅんっと元々の自我が隅っこの方でほぼ鳴りを潜め続けているせいで、私は子供っぽい口調のまま問い掛けた。
「んー。もう、此処がボクらの家でいいんじゃないかな。父さんなら一人でも生きていけるしね」
「でも…… お父さん寂しいんじゃないかな」
 父が私達を大事に思ってくれている事は間違い無い。ただ、気が弱いせいで妻には逆らえなかっただけで。
「でも、グレーテル」と言い、ハデス様は私の体の上に覆いかぶさって両腕で自身の体を支え、真正面からじっと瞳を覗き込んできた。

「あの家に帰ったら、もうボクらは抱き合ったり出来なくなるよ?それでもいいの?」

 首を傾げる仕草が愛らしい。そのせいなのか、腹の奥がキュンッと疼く。『嫌だ、もっとお兄ちゃんと一緒になりたいのに』だなんて思うグレーテル自分がいて、私は大きく頭を横に振った。
「だけど、お家に帰らないと元の世界には戻れないんじゃないの?」
「あぁ、そもそもボクらの場合はその適応外だから、気にしなくていいよ。好きなだけこの世界を生き抜いてもいいし、今すぐにだって現実世界に戻れるから大丈夫。だけど、この世界でこのまま、将来的には子供を産み育ててから戻るってのもアリかもしれないね」

「ダ、ダメです!あくまでも私達は休暇中なんですから」

 大きな声でそう言いながらハデス様の胸をぐっと押す。やっと自分らしい対応が出来て、ほっと胸を撫で下ろした。
「そう、休暇中だ。だからもっと、たーくさん愛し合おうよ」
 ハデス様は挨拶みたいなキスを私の肌のあちこちにしだし、幸せそうな笑い声が自然と口から溢れ出た。最初は小鳥の啄みみたいでくすぐったかったのだが、下腹部にごりっと硬いモノを擦り付けられ、一気に空気が変わる。そっと顔を見上げると、既にハデス様の瞳は熱を帯び始め、止められそうにない事を察した。息も荒い。もうすぐにでも挿れたいのだとイヤでもわかってしまう。
 そして、それを喜ぶ“グレーテル”。
 兄恋しですっかり快楽堕ちした少女の体はすぐに受け入れ準備を始めたのか、細い太ももに愛液が伝い落ちた。


 ——多分、このまま私達は愛欲の沼に堕ちていったのだと…… 思う。だが、良いのか悪いのか、記憶はそこで途切れた。
 快楽漬けになったせいで頭の中が真っ白になり、馬鹿になるくらいに気持ち良かった事だけは残念ながら覚えているが、他の記憶が見事に抜け落ちている。あのまま、妹の“グレーテル”として童話の世界でどのくらいの時間を生きたのか、結局あの兄妹はどうなったのか——

 答えを訊くのが怖くって、私はその疑問にそっと蓋をしたのだった。
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