恋も知らぬ番に愛を注ぐ

月咲やまな

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【第一章】初めての経験

【第四話】ヘンゼルとグレーテル③(十六夜・談)

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 残念な事に、散々着古した服の布という物は子供の力でも容易く引き裂く事が出来るらしい。そのせいで真っ平らな胸が冷たい空気に晒され、ひやりと無情に肌を撫でていく。咄嗟に素肌を腕で隠そうとしたが、ヘンゼルの方が動きが早く、とんっと体を押されてしまった。軽い力だったのに、空腹が加算されたひ弱なこの体は容易く後ろに倒れていき、背中がスポンジケーキの中に沈んでいく。後ろ髪や耳、うなじは生クリームや蜂蜜にまみれ、スライスされた苺や飴が肩に落ち、甘ったるい匂いが全身を包んだ。

「お菓子で体をデコレーションしたみたいになったね。ホント、お前は可愛いなぁ」

 ずるずるっとゆっくり体が下へとへたり込み、小道を飾るチョコビスケットの上にペタンと座る。ゆるりとした動きでヘンゼルを仰ぎ見ると、彼は恍惚とした表情をしながら私の方へ両手を伸ばしてきた。

「あぁ、ボクのグレーテル…… やっと、安全な場所で二人っきりになれたね」

 両手で私の頬を包み、お菓子で汚れる肌のあちこちを丹念に舐めてくる。何が起きているのか理解が追いつかない。こんな話だっただろうか?『ヘンゼルとグレーテル』は。いや…… 絶対に、絶対に違う。

 修正せねば、正しい流れに。

「…… ちょ、あのね…… お兄ちゃん?」
「なんだい?グレーテル」
 返事はしてくれたが、離れてはくれない。ぺろぺろと人の肌を舐め続け、こちらの話を聞く気があるのかも怪しい。
「お、お菓子なら、沢山後ろにあるよ?そっちを食べた方が…… い、いいんじゃ、ないかな」
「何故?グレーテルの体の方がずっと甘くて美味しいのに?」
 段々と肌の上を滑る舌が、下に下にと降りていく。頬、顎のライン、首筋、鎖骨…… 。ここまではまだ戯れの範囲に収められたが、大きく口を開けて胸の先に近づいて来た動きだけは、流石に許容出来なかった。

「——ぃやっ!」

 ヘンゼルの肩をぐっと押し、離れた隙に逃げよう。そう思って腕を突き出したのだが、目算がかなり甘く、私の手はヘンゼルを頬近くをかすってしまった。コレではまるで自分から抱きつこうとしたみたいなポーズだ。
「ちが!」
 一旦腕を引き戻し、顔色を青くしながら、やり直すみたいにヘンゼルの胸をぐっと押す。

「やめて、お兄ちゃん!」

 懇願しながら彼の顔を間近に見ると、嬉しそうな瞳のヘンゼルと目が合った。燃える様な兄の瞳は夕日よりも赤く、鋭い輪郭を飾る長いまつ毛は凛々しさを持つ。汚れていた頬は私が偶然手で拭ってしまったみたいで多少綺麗になっていて、さっきまでは隠れていた肌の上に、とある特徴が露わになっていた。
「…… 黒子?」
 子供が持つには惜しいと思う程の眼力ある瞳の左下に二つ、特徴的な黒子が並んでいる。横並びのそれを私が見間違える訳がない。とてもよく見慣れた配置だ。

「ハデス…… 様?」 

 きょとんとした声でそう呟くと、ヘンゼルはニタリと笑って「やっと気が付いたのかい?」と言った。幼子の声のままだが、間違いない。兄の“ヘンゼル”の中身は、ハデス様だ。

「ずっとずっと、一番傍に居て沢山愛してあげていたのに、つれないなぁ」

 残念そうな声と共に彼は私の前に跪き、普段よりも圧倒的に小さな手でそっと太ももを撫で上げる。ずっと“ヘンゼル”だと思っていた登場人物の中身がハデス様なのだとわかっても、彼の行動に対して罪悪感の方が上回ってしまい、私は再び彼の体をぐっと押した。
「ハ、ハデス様…… いけまん。この二人は兄妹ですから」
「そうだね、ボクらは兄妹だ。…… でも、だから何?」
 仄暗い闇を孕んだ瞳と口元が弧を描く。
 太ももを撫でていた手は更に奥へと進み、肌着の上から指の背で秘部をすっと撫で上げた。くすぐったさのせいで体が少し跳ねる。冷たい汗が内腿を伝ったが、彼が手を除ける気配は無かった。

「確かに、この行為は禁忌かもしれないね。今のボクらは“兄妹”であり、ここは“外”で、二人ともまだ“子供”。…… ダメな理由のオンパレードだ」

「そうです」
 わかってくれた、と安堵の息をついたのも束の間。
「——で?だから、何?」
 心底問題点がわからないみたいな顔で首を傾げられてしまい、気持ちが焦る。
「ですから…… 」

 物語の順番通り森に捨てられ、お菓子の家を見付け、二人でそれを食べた。
 お次は魔女に見付かる番だ。

 その様に伝えようとしたのだが、生クリームが体温のせいで溶けたのか、肌の上をつつっと滑り落ち始めてしまう。溶けたクリームは胸の辺りまで垂れ落ちてきて、その様子をハデス様が見逃すはずが無かった。

「あぁ…… ボクのグレーテル愛し子。何て淫猥で可愛くって美麗で素敵なんだ。こんなにも幼い体であろうがボクを容易く堕とすなんて、とんだ小悪魔だね」

 ゾクゾクと体を震わせ、ハデス様が自身の唇をぺろりと舐める。今の彼は衰弱しかけた少年なのに、その姿こそが淫猥そのもので、私など到底足元に及びませんと平伏したくなった。
「今綺麗にしてあげるね」と言い、口を大きく開けるとハデス様は真っ赤に熟れた舌を小出しにしながら、私の真っ平らな胸の方へ顔を近づけてきた。またも私は回避を試みたが間に合わず、熱い舌が無遠慮に幼い乳嘴を喰む。垂れ落ちた生クリームを舐め取りながら舌先で転がされ、「んあっ」と変な声が口からまろび出た。無駄に長く生きてはきたが自分のこんな声など初めて聞いた。
 驚きに目を見開いていると「ボクの愛し子」や「可愛い」を連呼し、ハデス様が恍惚とした笑みを浮かべた。

 主人の喜びは自分の喜びである。
 …… だが、コレは流石に限界ラインを超えた行動だ。

「だ、ダメです…… ハデス、さまぁ」

 拒否する言葉を口にしているはずなのに、甘い色合いのせいで誘っているみたいだ。『嫌よ嫌よも好きのうち』を体現してどうする。こんな声、本音では嫌ではないと受け止められてしまいそうだ。

「もっと?いいよ、好きなだけ舐めてあげるね」

 案の定ハデス様は都合よく言葉を受け取り、乳嘴をちゅうと少し強めに吸い上げた。左手では隣の胸を優しく撫で回し、空いている手をスカートの中へと差し入れる。肌着の上から優しい手つきで秘部を軽く揉まれたが、ただすくぐったいだけだった。
「ちが、います…… ハ、ハデス様…… ま、魔女が、魔女が来てしまいます、から」
 首を横に振ったが、力が上手く入らない。
「あぁ、そういえばそうだったね。でも…… いつ誰に見られるかわからないと思うと、ゾクゾクしないかい?」
「み…… ら?」

 こんな痴態を、人様に?

 考えただけで血の気が引いた。
「ダメです!本当に、こんな——」
 肌着をずらされ、ぬぷりと細い指先が狭隘な秘裂を割り開く。喉の奥でヒュッと音が鳴ったが不思議と痛みは無かった。
「あぁ…… 心地いい。ずっと、ずっとずっとずっとこの奥に触れたいと思っていたんだ。想像よりもずっと柔らかいね。熱くって、ぬるついていて、沢山触って欲しいって言うみたいにひくひくしてるよ」
「ぃやぁ」
 駄々っ子みたいに首を振ってみても、ハデス様の動きは止まらない。膣壁をゆっくり撫で、肩で息をしている。頬は赤く染まり、子供のものとは思えない扇情的な彼の表情が私を煽り立てる。ダメだと頭ではわかっているのに腰が浮き、少しだけハデス様の動きを手助けしてしまった。
 より深くまで指が奥に入り込み、先端が子宮口をつつく。何に触れたのかわかったのか、彼は優しい動きでソコを撫でつつ、親指の腹で小さな肉芽をクリッと擦った。ビクッと激しく全身が跳ね、目の前に火花が散る。知りたくなかった快楽が波紋みたいに体中へ広がっていき、気持ちよ過ぎて脳がどろりと溶けてしまいそうだ。
「あ、あぁ…… ぁっ」
 瞳が虚ろになり視点が合わない。だらしなく開きっぱなしになっている口の端から唾液がこぼれ落ちたが拭う気力も湧いてこない。

 間違っている。こんな行為は、絶対に認められないものだ。

 身の内に存在する“本来の自分”が冷静に指摘しているが、同居している“グレーテル”の意識が『大好きなお兄ちゃんが嬉しそうで、私も嬉しい』と喜びの声をあげている。『逆らっちゃいけない。お兄ちゃんのする事は全て正しい』と訴えているのだが——

 そんなのはただの刷り込みだ。

 両親を頼れない幼心が逃げ場として兄を頼っているだけである。ブラザーコンプレックスの枠を超え、崇拝の域に達しているみたいだ。そのせいか、まともに動かない脳では“グレーテル”の意識が前面に出てしまう。
「お、お兄ちゃんの…… 指、気持ちぃ」
 自分からハデス様の首に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。ハデス様の体まで私みたいにお菓子だらけにしてしまったがどうでもいい。胸の先が彼の着ている服で擦れ、甘い吐息が口から溢れた。
「…… ふふっ」
 嬉しそうにハデス様が笑う。ただそれだけでビクッと激しく体が跳ね、私の意識が真っ白に染まった。
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