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本編
【第19話】家族への挨拶③
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「それで?三人で何を話したんだい?」
「ほとんど婚約の報告だよ。式には是非来て欲しいとか、そんな。何とか気さくに話しかけたつもりではいるんだが、終始硬直してて顔面蒼白だったから…… どんな印象子だとかは何とも言えないがな」
「表向き、対人恐怖症らしいからね。しょうがないかもしれないよ、それは」
「突っ込みどころ満載な対人恐怖症だな。まぁ、んでもアレだ。俺がお前の学生時代からの友人でもあるって話だけは、簡単に釣られてくれたな」
「…… え!?」
ドクンッと、少し心臓が跳ねた気がする。
「すんげぇ嫌そうな顔しながら真剣に俺の話を最後まで聞いてくれたよ。お前、相当嫌われてるな」
「い、嫌そうだったのに、話は最後までしたんだ」
根性あるな、武士!
「『それで?』だ『何をしていたんですか?』だって突っ込んで訊いてきたからな、止めるに止めれなかったんだよ」
「へぇ…… そう、なのか」
自然と顔がニヤけてしまい、僕は咄嗟に口元を隠した。
「しかし、学生時代の話なんて、俺に訊かないで、直接お前に訊けばいいのにな」
「そ、それは無理だよ!僕等は…… 面識がほとんど無いんだしね」
「…… 今更嘘言えよ。あの家、新品の家具ばっかで超浮いてたぞ?しかも全部お前等カミーリャ家が好みそうな物ばっかりだったし。雪乃が居間に入った瞬間『お洒落』だ『綺麗』だと喜んで、それに対してあの子は苦笑いしかしてなかったから、絶対にあの子のチョイスじゃない。雪乃は気が付いていなかったが、あれは明らかに可笑し過ぎるって」
「そんなに変だったかな…… 」
美的センスには結構自信があったので、少しヘコんだ。
「変なんじゃなくて、あの年齢のああいった普通の家に住んでる子が、海外の高級お取り寄せ品みたいな家具を買えるかアホ!ってんだよ」
「——なるほど!それは盲点だったよ!!」
僕は膝を軽く叩くと、納得顔で隣に座る武士の方を見た。
「で?雪乃の話じゃないのに随分と喰いついてきたが、あの子はお前の何なんだ?」
膝に右手で頬杖をつきながら、武士が僕の方へ顔を向ける。興味津々といった眼差しが刺さって痛い。
「あ、あれ?そうだったかい?な、何って、べつに…… 」
続く言葉が出ない。どう誤魔化そうが、武士を気を逸らせるとは思えない。
「無関係、雪乃の親友——そういった言葉は通用しないぞ。まぁ、ぶっちゃけ俺に話さないといけない理由もないんだが、もしお前があの子が好きだって言うんだったら、正直凄く安心できる」
「それは、僕が雪乃の事を愛しているからかい?」
「…… お前が馬鹿じゃない事は知ってる。家族愛以上の好意じゃなく、一線を越える気もない事は信じてる。もっとも、本心ではその線を超えたくとも雪乃が受け入れるわけがないんだが…… でも確証は欲しいだろ?お前とは、義兄弟になるんだから」
「雪乃の事を一生愛し続けるって、僕は妹が生まれた日に決めたんだ。それを変える気はないし、変えたくない。それに…… 正直僕にもよく分からないんだ。僕にって、芙弓が、どういった存在なのか」
「好きなんじゃないのか?」
「他人に対して湧く、そういった感情がどういうものなのか僕にはよく分からないんだよ。雪乃以外は愛さない、僕が一生守るって決めてずっと生きてきたから。だけど…… ずっと心のどこかで芙弓の事が気になっていた。『あの子は今、何処に居るんだろう?』『あの人形は本当に君が作ったのかい?』ってね」
「あの人形?あぁ、雪乃が大事そうにしてるお前の模造品か」
「…… はい?」
思いも寄らぬ言葉に、一瞬思考が停止した。
「金髪の蒼い目をしたリアルな人形の事だろう?芙弓ちゃんだったかが造ったとかってヤツ」
「そう。それだけど、今…… 君、『僕の模造』って言った?」
「誰がどう見てもアレはお前だろ。昔、アルバムを二人で見て、次に会った時にはその人形を彼女がくれたんだって、前に雪乃が話してたし」
「ど、どうして処女作が僕なんだい?」
「アホか、俺が知る訳ないだろ、それこそ本人に訊けよ。まぁ、あらかたお前が初恋の相手とかだったんじゃねぇか?って、あぁー慣れない話続きで胸焼けしそうだ」
無造作に髪をかき上げ、武士がぼやくように言った。
「あはは…… 僕もだよ」
僕がそう答えた時「武士さん!両親が帰って来ましたよ、今ここに来ますから」と、雪乃が少し緊張した顔付きで、客間のドアを勢いよく開けながら言った。
「あ、兄さんも帰ってたの?」
僕と目が合った瞬間、雪乃の眉間に少しシワがよった。
「…… 雪乃が、僕を呼んだよね?」
妹の冷たい視線に、背筋にゾクッとしたものが走る。名前に相応しい冷たさが気持ち良い。
「予定が合えばって思って一応したメールだったから、今日は来ないと思っていたの。兄さんここ最近、異常に忙しくしていたし」
「そりゃぁ、これからの長期休暇の為だったからね!数年ぶりの長い休みを是非雪乃と——」
両手を妹の方へと広げ、ちょっとふざけた声を出す。でも、隣に座る武士の視線が刺さるように痛く、半分本気の冗談はすぐに止めた。
軽く咳払いをし「向こうの席に移ろうか」と、客間の中央に置かれた大きな来客用のテーブルセットを武士に向かって指差す。
「あぁ」と短い返事の武士。
軽く頷き、武士はスクッとソファーから立ち上がると、着慣れないスーツを少し整え、軍隊行進でもしているかのような足取りで移動し始めた。
「緊張しているな」
僕と雪乃は同時にそう感じていた様で、互いの目を見ながら軽く笑顔になった。久しぶりに雪乃と自然に笑い合えた気がして、心の中が晴れやかな気分になっていく。
妹は好きだ、他の誰よりも——僕が一番に雪乃を愛していると断言できる。
なのに、その妹と親友が結婚する為に、僕等の両親に挨拶に来ているという今の状況を、僕は驚く程穏やかな気持ちで迎える事が出来そうだ。自分が深く信頼出来る相手との婚姻だからなのか、もっと別の心境の変化が僕の中にあったからなのかは——正直よく分からない。
「ほとんど婚約の報告だよ。式には是非来て欲しいとか、そんな。何とか気さくに話しかけたつもりではいるんだが、終始硬直してて顔面蒼白だったから…… どんな印象子だとかは何とも言えないがな」
「表向き、対人恐怖症らしいからね。しょうがないかもしれないよ、それは」
「突っ込みどころ満載な対人恐怖症だな。まぁ、んでもアレだ。俺がお前の学生時代からの友人でもあるって話だけは、簡単に釣られてくれたな」
「…… え!?」
ドクンッと、少し心臓が跳ねた気がする。
「すんげぇ嫌そうな顔しながら真剣に俺の話を最後まで聞いてくれたよ。お前、相当嫌われてるな」
「い、嫌そうだったのに、話は最後までしたんだ」
根性あるな、武士!
「『それで?』だ『何をしていたんですか?』だって突っ込んで訊いてきたからな、止めるに止めれなかったんだよ」
「へぇ…… そう、なのか」
自然と顔がニヤけてしまい、僕は咄嗟に口元を隠した。
「しかし、学生時代の話なんて、俺に訊かないで、直接お前に訊けばいいのにな」
「そ、それは無理だよ!僕等は…… 面識がほとんど無いんだしね」
「…… 今更嘘言えよ。あの家、新品の家具ばっかで超浮いてたぞ?しかも全部お前等カミーリャ家が好みそうな物ばっかりだったし。雪乃が居間に入った瞬間『お洒落』だ『綺麗』だと喜んで、それに対してあの子は苦笑いしかしてなかったから、絶対にあの子のチョイスじゃない。雪乃は気が付いていなかったが、あれは明らかに可笑し過ぎるって」
「そんなに変だったかな…… 」
美的センスには結構自信があったので、少しヘコんだ。
「変なんじゃなくて、あの年齢のああいった普通の家に住んでる子が、海外の高級お取り寄せ品みたいな家具を買えるかアホ!ってんだよ」
「——なるほど!それは盲点だったよ!!」
僕は膝を軽く叩くと、納得顔で隣に座る武士の方を見た。
「で?雪乃の話じゃないのに随分と喰いついてきたが、あの子はお前の何なんだ?」
膝に右手で頬杖をつきながら、武士が僕の方へ顔を向ける。興味津々といった眼差しが刺さって痛い。
「あ、あれ?そうだったかい?な、何って、べつに…… 」
続く言葉が出ない。どう誤魔化そうが、武士を気を逸らせるとは思えない。
「無関係、雪乃の親友——そういった言葉は通用しないぞ。まぁ、ぶっちゃけ俺に話さないといけない理由もないんだが、もしお前があの子が好きだって言うんだったら、正直凄く安心できる」
「それは、僕が雪乃の事を愛しているからかい?」
「…… お前が馬鹿じゃない事は知ってる。家族愛以上の好意じゃなく、一線を越える気もない事は信じてる。もっとも、本心ではその線を超えたくとも雪乃が受け入れるわけがないんだが…… でも確証は欲しいだろ?お前とは、義兄弟になるんだから」
「雪乃の事を一生愛し続けるって、僕は妹が生まれた日に決めたんだ。それを変える気はないし、変えたくない。それに…… 正直僕にもよく分からないんだ。僕にって、芙弓が、どういった存在なのか」
「好きなんじゃないのか?」
「他人に対して湧く、そういった感情がどういうものなのか僕にはよく分からないんだよ。雪乃以外は愛さない、僕が一生守るって決めてずっと生きてきたから。だけど…… ずっと心のどこかで芙弓の事が気になっていた。『あの子は今、何処に居るんだろう?』『あの人形は本当に君が作ったのかい?』ってね」
「あの人形?あぁ、雪乃が大事そうにしてるお前の模造品か」
「…… はい?」
思いも寄らぬ言葉に、一瞬思考が停止した。
「金髪の蒼い目をしたリアルな人形の事だろう?芙弓ちゃんだったかが造ったとかってヤツ」
「そう。それだけど、今…… 君、『僕の模造』って言った?」
「誰がどう見てもアレはお前だろ。昔、アルバムを二人で見て、次に会った時にはその人形を彼女がくれたんだって、前に雪乃が話してたし」
「ど、どうして処女作が僕なんだい?」
「アホか、俺が知る訳ないだろ、それこそ本人に訊けよ。まぁ、あらかたお前が初恋の相手とかだったんじゃねぇか?って、あぁー慣れない話続きで胸焼けしそうだ」
無造作に髪をかき上げ、武士がぼやくように言った。
「あはは…… 僕もだよ」
僕がそう答えた時「武士さん!両親が帰って来ましたよ、今ここに来ますから」と、雪乃が少し緊張した顔付きで、客間のドアを勢いよく開けながら言った。
「あ、兄さんも帰ってたの?」
僕と目が合った瞬間、雪乃の眉間に少しシワがよった。
「…… 雪乃が、僕を呼んだよね?」
妹の冷たい視線に、背筋にゾクッとしたものが走る。名前に相応しい冷たさが気持ち良い。
「予定が合えばって思って一応したメールだったから、今日は来ないと思っていたの。兄さんここ最近、異常に忙しくしていたし」
「そりゃぁ、これからの長期休暇の為だったからね!数年ぶりの長い休みを是非雪乃と——」
両手を妹の方へと広げ、ちょっとふざけた声を出す。でも、隣に座る武士の視線が刺さるように痛く、半分本気の冗談はすぐに止めた。
軽く咳払いをし「向こうの席に移ろうか」と、客間の中央に置かれた大きな来客用のテーブルセットを武士に向かって指差す。
「あぁ」と短い返事の武士。
軽く頷き、武士はスクッとソファーから立ち上がると、着慣れないスーツを少し整え、軍隊行進でもしているかのような足取りで移動し始めた。
「緊張しているな」
僕と雪乃は同時にそう感じていた様で、互いの目を見ながら軽く笑顔になった。久しぶりに雪乃と自然に笑い合えた気がして、心の中が晴れやかな気分になっていく。
妹は好きだ、他の誰よりも——僕が一番に雪乃を愛していると断言できる。
なのに、その妹と親友が結婚する為に、僕等の両親に挨拶に来ているという今の状況を、僕は驚く程穏やかな気持ちで迎える事が出来そうだ。自分が深く信頼出来る相手との婚姻だからなのか、もっと別の心境の変化が僕の中にあったからなのかは——正直よく分からない。
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