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日常ストーリー

9話 放置プレイ

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朝食にパンをかじりながらスマホで今日の天気を確認する。見事なまでの晴天、折りたたみ傘は家に置いていってもよさそうだ。薄切りにしたパリジャンにジャムをつけるために尾餅は一度スマホを置いた。キッチンに寝ぼけ眼の鎖原が「おはよぉ~」とやってきて尾餅にぎゅっと抱きつく。まだ眠たげな目をゴシゴシとこすってあくびをしたかと思えばその口のまま「あ!?」と大声をあげた。

「僕の限定パリジャン!なんでここに!?」
「えっ限定!?」
「人気のパン屋さんで一日十本しか焼かないやつ!すぐに売り切れちゃうんだよ!昨日はたまたま並んだら買えて……え、一人で勝手に食べちゃうなんて酷い!一緒に食べたかったのに!」
「そ、それはすまん!知らなくて……!」
「……尾餅くん、こっちに来なさい」
「……はい……」

先ほど起きてきたばかりの寝室へ逆戻りをするように鎖原についていく。尾餅がパリジャンを食べてしまったというよりは二人で食べなかったことに怒っているようであるが、普段可愛い鎖原がここまで底冷えした声を出すということはきっとずっと食べたくてようやく買えたパリジャンだったのだろう。悪いことをしたのはこちら側なのでどんな罰も甘んじて受け入れようという気持ちではあるが怖いものは怖い。鎖原は尾餅をベッドに座らせると目隠しを取り出して「異論はないね?」と静かな声で聞いてきた。「ないです……」と答える尾餅の視界が真っ暗になる。「腕、後ろに回して」という指示も入ったので大人しくその通りにすると手首にカチャンと手錠をかけられた。おそらく普段から使っているファー付きの手錠で痛くはないが拘束されたことで一気に緊張感が高まる。下半身からズボンとパンツが引き抜かれて尾餅は今の自分の格好がさぞかし恥ずかしいことになっているだろうと予測する。こんな時だというのにペニスはしっかりと反応していて暗闇の中でどんな刺激がやってくるのだろうと期待にその身を膨らませていた。するとパチン、という音と共にペニスに何かがはめられる。少し重たくなったペニスが前へと倒れる、何を装着させられたのだろうか。ローションをまとった鎖原の指がぬりゅぬりゅとアナルをまさぐってくる。つぽつぽと指を出し入れされて尾餅は「あ♡あ♡あ゛ん♡」と場違いにも嬉しそうに喘いでしまう。何度か指で慣らされたアナルにも何かが挿入された。サイズはそれほど大きくないが異物としてしっかり違和感がある。この何かの正体を鎖原に聞こうと尾餅が口を開けた瞬間、ペニスと尻の装置が勢いよく振動を始めた。驚いた尾餅が「ひぎぃッ!?♡」と切羽詰まった声を出す。

「なっ、なに、なにこれ、鎖原ぁ゛ッ♡ブルブルしてる、チンポくすぐったい♡し、尻のやつ、前立腺に当たって腹に響く!♡やだっ、やだ、鎖原、これ取ってぇ゛♡」
「安心して、ただのローターだから。僕もう一回パン屋さん行ってくるから、パリジャン買ってこれたら朝ご飯にしよう?それまで尾餅くん放置プレイの刑ね。言っておくけど立ち上がったりしちゃダメだから。じゃあ行ってきます」
「ま、待って、鎖原、鎖原ぁ♡すまなかった、俺も一緒に行く♡お金出すから、一緒に連れてってくれ♡ずっとこのままやだ、暗いの怖い♡あ~っ♡あ~っ♡鎖原ぁ~♡ごめんなさいぃ゛~っ♡」
「危ない危ない、その声を聞くとつい許しそうになっちゃうよ……」

もう一度「行ってきます」という声が聞こえて部屋のドアが閉まる音がする。本当に一人で置いていかれてしまったのだろうか。無機質な振動音と自分の喘ぎ声だけが聞こえる部屋の中でも諦めずに鎖原の名前を呼び続ける。今は気持ちよくなるよりも鎖原に謝罪をすることが最優先なのに、みっともなく快感に身をよじることがやめられない。パタタタッ、と尾餅のペニスから精液が飛んだ。

「これっ、振動強い!♡チンポのやつちょうど裏筋に当たって腰がビクビクってなるぅ♡一番弱いところにつけられてる、弱点振動責めに晒されてお仕置きされてる♡ダメだ、ブルブルされるとチンポ弱くなってダメッ♡しゃ、射精したから止めて、止めてっ!♡ずっとブルブルは、潮吹きしちゃうから、ダメなのにぃ゛……!♡っあぁあああ゛ッ!♡」

背を丸めながらビクビクと痙攣した尾餅がプシャアアア……♡と情けなくも舌を突き出した表情で潮を吹いた。目隠しの奥で瞳がぐるりと上を向く、真っ暗なはずの視界がバチバチと跳ねて光ったように思える。今すぐにローターを止めてもらわなければまたすぐに潮を吹いてしまうというのに、それを許してくれる鎖原は一人で外出してしまってこの部屋にはいない。その気になれば手錠を腕力で壊して追いかけることが出来る尾餅だが、ここでそんな愚策をとるほど馬鹿ではない。大人しく快感にその身を晒して一人気持ちよくなっていましたと、ぐちゃぐちゃにとろけた状態で鎖原を迎えるのが正解なのだろう。その時に鎖原が許してくれるかどうかは尾餅の乱れっぷりにかかっているようにさえ思えた。尻の中のローターが急所を的確に責め立ててきて、横になった状態で腹を丸めてヒクンヒクンと身体を震わせる。腹の奥に気持ちいい塊がどんどん大きく育ってきて、限界までパンパンに膨らんだ実をローターの振動で潰されると頭がおかしくなりそうなほどの快感が尾餅の体内にブワッと広がっていくのだ。目隠しが涙で濡れてしまって目元が重たく感じる。頬を伝う汗が口の中に入ってしまいしょっぱかった。

「は、反省しましだッ♡鎖原、鎖原♡これからは一緒にご飯食べます、ちゃんと鎖原のこと起こしてから一緒に朝食の準備しまずッ♡一人で勝手なことして怒らせてしまってごめんなさい゛♡だから俺だけ勝手に気持ちよくなるのは、嫌ぁ゛……!♡鎖原に見てもらってる状態で気持ちよくなりたい、こんなに、こんなにドロドロなのに……!♡帰ってきてください、俺のことを見捨てないでくれぇ゛ッ♡」

黙って快感に耐えていると頭がどうにかなってしまいそうで、孤独感を紛らわせる意味でも鎖原の名前を呼んで許しを請う。すると急に腹の奥がくすぐったくなって、あ、と思うと同時にペニスからチョボチョボとおしっこを漏らしてしまった。視界が消えた代わりに鋭くなった嗅覚へと届いたアンモニア臭に尾餅はより一層泣きたくなる。おしっこが止まらない、振動を受けすぎて膀胱がおかしくなってしまったのだろうか。腹に力を込めてもそれを我慢することが出来ず、尾餅は諦めて尿まみれのベッドの上で身体を小さく縮こめた。するとその時視界がかすかに明るくなって、部屋のドアが開く気配がした。

「やっぱりなかったよ~、また運のいい時に買えるといいな……ただいま、尾餅くん?あれ、お漏らししてる?」
「く、鎖原ぁ~……!♡ごめんなさいごめんなさい、もう勝手にお前の食べないから許じでぇ~……!♡も、もうやだ、一人でイッて一人で漏らして、こんな惨めな姿晒したくない゛♡もうイキたくないんだよぉ゛、イクならお前とのセックスでイキたいのに゛、ローターが気持ちよくって我慢出来ないぃ゛~……!♡」
「ずっと謝ってたの?喉痛めちゃうよ、お仕置き終わりにしようね」

目隠しを外された先では鎖原が心配そうな顔で尾餅のことを見つめていた。ペニスと尻のローターを外してもらう時にもう一度イッてしまったが、汚れた手にも鎖原は怒らず「ドロドロだねぇ」と笑う。尾餅はそんな鎖原のことをドキドキしながら見つめ返した。「ごめん……」と再び謝罪をすると鎖原は困ったように「ううん」と首を振る。

「僕の方こそやりすぎちゃった、尾餅くんのことだから気持ちよくなってる時もずっと反省してたんでしょ?ごめんね、パンなんていつでも買いに行けるのに、寝起きの楽しみにしてたからついカッとなって……」
「うう゛~、鎖原が謝ることない、俺が悪い゛~……」

ぎゅうぎゅうと仲直りのハグをして顔のあちこちにキスをする二人の関係はすっかりいつも通りに戻っていた。ずび、と鼻をすすった尾餅が「よし……」とよろける足で立ち上がる。鎖原の方を見てようやくニコ、とまだ若干泣きの残る顔で笑った。

「作るか、パリジャン」
「えっ作れるの?なんか発酵とかさせるんでしょ?難しくない?」
「家でパン作りデート、悪くないだろ?」
「めっちゃいい~!」

そうして出来上がったパリジャンがパン屋レベルで美味しかったため、今度は鎖原が尾餅に対して頭を下げる番となった。「また作ってくれる……?」と子犬のような目で聞いた鎖原に「もう俺を一人にしないなら」と返した尾餅の暖かな雰囲気の間には焼きたてのパンの香りが漂っていた。
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