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《29》
しおりを挟む初めてのプラネタリウムにドキドキと胸を躍らせながら、先を歩く親跡さんに続く。
広い館内に高い天井に気を取られていると急に立ち止まった親跡さんの背中にぶつかってしまった。
「っと、ごめんなさい…」
慌てて親跡さんのシャツにファンデが付着していないか確認。
大丈夫そうなのを確かめてホッとしたのも束の間、親跡さんが気まずそうな表情で振り返る。
「……どうかしました?」
「………すみません…」
謝る彼を不思議に思いながらその先を見ると、大きなソファーベッドのようなシートがあった。
「知人からチケットを譲って貰ったはいいけれど、よく調べもせず…」
「このベッドみたいなやつに二人で座るんですか?」
「………みたいです」
前にテレビのお出掛け特集で見た事がある。
所謂カップルシートという物で、恋人同士が寄り添い合いながら星を見るにはうってつけのシートらしい。
二人の距離が縮まるとか何とか……
映画館みたいな感じを想像していた身としては、いきなりこれはちょっとハードが高い気がする。
付き合いが深い者同士ならともかく、付き合ってすらいない状況でこれは流石に……と思っていると、親跡さんは「参ったな…」と頭を掻く。
「席を替えて貰えないか受付に相談してみます」
私の心情を察して席の交換を試みようと親跡さんが踵を返すと同時に照明が落とされた。
どうやら上映開始時間が迫っているようだ。
「あ、私は大丈夫ですよ。時間もないみたいだし」
「ですが……」
食い下がる親跡さんに再度「大丈夫です」と笑顔を向ける。
「せっかくなので楽しみましょう」
先程の彼の言葉を拝借。
尚も躊躇う親跡さんに構わず、率先してシートに腰を降ろす。
「靴は脱いだ方がいいみたいですね」
独り言みたく言いながら靴を脱いで横になった。
何だかこのまま寝てしまいそうだな…と思っていると、シートが大きく沈む。
薄暗い中でも照れた表情を隠せないでいる親跡さんと視線が絡んだ。
「思っていた以上に……」
「ち、近いですね…」
密着とまではいかないものの、かなり距離が近い。
お互いの息遣いが聞こえる程に。
下手すると、爆速の心音もバレているかもしれない。
「っと、すみません…」
「あ、大丈夫です」
お互いの肘がぶつかる。
間に肘掛けでもあればこの距離の近さは気にならないのだろうけれど、カップルの為にあるようなシートにそんな野暮な物はない。
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