花の終わりはいつですか?

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
32 / 37

side:妙香―17

しおりを挟む


仕事帰りに出産祝いとちょっとしたお茶菓子を持って知世の自宅へと向かう。

まだ退院したばかりだから落ち着いたらで良いと言ったのだけれど、知世の強引な誘いに負けて会いに行く事に。


「いらっしゃーい。入って入ってー」


出産で多少疲れが見えるものの、相も変わらず知世はキレイだ。


「ありがと。ごめんね産後で大変な時に」

「いいのいいの。私が誘ったんだから」

「あとこれ出産祝い」

「ありがとーすっごい嬉しい!」


知世の案内でリビングに通される。

リビングの片隅にはベビーベッドがあり、そこには新生児が眠っていた。
 

「か、可愛い……」


感動のあまり漏れ出た感想に知世が「懐かしいサイズでしょー」と笑う。


「後で抱っこしてみて。今お茶淹れるね」

「産後で骨盤グラグラなんだからあんまり無理しないで。何も構わなくていいから」

「大丈夫だよ、これくらい。それに三人目となるとどのみちゆっくりもしていられないし」

「あー……だよね。ありがと」 


荷物を脇においてダイニングテーブルについた。


「わっ……これ、パティスリー瀬野のカヌレ!丁度食べたかったんだよね」

「知世それ好きだもんね。美味しいよね。一緒に食べたくてつい買っちゃった」

「さっすが分かってるー」


鼻唄混じりにお茶の用意をする知世の嬉しそうな横顔を眺めながら、働き始めて良かったなと思う。

専業主婦の時は、慶事事や友達とのランチの度に旦那にお窺いを立てないといけなくて……

それもすんなりとはいかず、必ずといっていいほどお小言を言われてた。

働き出した今は自分で稼いだお金から出しているから文句を言われる事はない。


「今日は子供達は大丈夫なの?」


知世がハーブティーの入ったカップを私の前に置いた。

その隣にカヌレを盛り付けた皿が置かれる。


「今日は母親にお願いした。あ、でも旦那がうるさいから……早めに帰る」

「そーなんだ……残念。せっかくゆっくり話出来るかと思ったのに」

「ごめん、また今度ゆっくりランチ行こうよ」

「だね」


私の向かい側に座った知世はカップに口をつける。

それに倣って私もカップを手に取った。

口の中にスッキリとした甘さと風味が拡がる。


「おいしい……」

「でしょ?最近のお気に入り」


フフッと得意気に微笑んだ後、知世が唐突に切り出してくる。


「もしかして……何かあった?」


その言葉の意図が掴めず「え?」と聞き返すと、知世が意味ありげに口角を引き上げる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...