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side:妙香―17
しおりを挟む仕事帰りに出産祝いとちょっとしたお茶菓子を持って知世の自宅へと向かう。
まだ退院したばかりだから落ち着いたらで良いと言ったのだけれど、知世の強引な誘いに負けて会いに行く事に。
「いらっしゃーい。入って入ってー」
出産で多少疲れが見えるものの、相も変わらず知世はキレイだ。
「ありがと。ごめんね産後で大変な時に」
「いいのいいの。私が誘ったんだから」
「あとこれ出産祝い」
「ありがとーすっごい嬉しい!」
知世の案内でリビングに通される。
リビングの片隅にはベビーベッドがあり、そこには新生児が眠っていた。
「か、可愛い……」
感動のあまり漏れ出た感想に知世が「懐かしいサイズでしょー」と笑う。
「後で抱っこしてみて。今お茶淹れるね」
「産後で骨盤グラグラなんだからあんまり無理しないで。何も構わなくていいから」
「大丈夫だよ、これくらい。それに三人目となるとどのみちゆっくりもしていられないし」
「あー……だよね。ありがと」
荷物を脇においてダイニングテーブルについた。
「わっ……これ、パティスリー瀬野のカヌレ!丁度食べたかったんだよね」
「知世それ好きだもんね。美味しいよね。一緒に食べたくてつい買っちゃった」
「さっすが分かってるー」
鼻唄混じりにお茶の用意をする知世の嬉しそうな横顔を眺めながら、働き始めて良かったなと思う。
専業主婦の時は、慶事事や友達とのランチの度に旦那にお窺いを立てないといけなくて……
それもすんなりとはいかず、必ずといっていいほどお小言を言われてた。
働き出した今は自分で稼いだお金から出しているから文句を言われる事はない。
「今日は子供達は大丈夫なの?」
知世がハーブティーの入ったカップを私の前に置いた。
その隣にカヌレを盛り付けた皿が置かれる。
「今日は母親にお願いした。あ、でも旦那がうるさいから……早めに帰る」
「そーなんだ……残念。せっかくゆっくり話出来るかと思ったのに」
「ごめん、また今度ゆっくりランチ行こうよ」
「だね」
私の向かい側に座った知世はカップに口をつける。
それに倣って私もカップを手に取った。
口の中にスッキリとした甘さと風味が拡がる。
「おいしい……」
「でしょ?最近のお気に入り」
フフッと得意気に微笑んだ後、知世が唐突に切り出してくる。
「もしかして……何かあった?」
その言葉の意図が掴めず「え?」と聞き返すと、知世が意味ありげに口角を引き上げる。
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