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side:透也―14
しおりを挟む「それじゃ行ってきます。お昼は作り置きテキトーに食べて」
「うん、行ってらっしゃい。楽しんで」
寂しいという本音を隠して、玄関で友梨と大和を見送った。
玄関ドアの閉まる音が冷たく感じる。
「一人か……」
溜め息混じりに呟きながらリビングへと向かい、ソファーに体を預けた。
日頃テレビは大和の為に教育テレビや、サブスクで子供向けのアニメを観るのにしか使っていない。
だから今日は俺が独占出来るのだが、生憎休日のテレビはつまらない。
何度かザッピングを繰り返した後、すぐに電源をオフにした。
携帯を手にして友人達のインスタを辿る。
独身組は趣味を、俺と同じく既婚組は家族との幸せをアピールしている。
趣味のバイクは、子供が生まれるから危険な物に乗らないで欲しいとの友梨からの要望で泣く泣く手離した。
家族との幸せエピソードもない俺には、インスタに上げるようなネタはない。
ただ登録しただけで、合間合間に友人や知り合いの投稿を眺めるのみ。
どいつもこいつも充実アピールばかりで、眺めていると鼻につくし、虚しい気持ちに拍車がかかる。
なのにどうしても見てしまう矛盾。
不意に網戸にした窓から爽やかな風が入り、頬を撫でた。
窓の方へと視線をやると、まるで水彩絵の具を塗ったかのような真っ青な空が拡がっている。
「良いお天気ですねぇ……」
溜め息と共に独り言を吐き出す。
こんな日は家族三人で出掛けたかった。
大和を公園に連れて行きたかった。
趣味をやめ、煙草も頑張ってやめた。
酒もほどほどにしている。
本当は乗りたいカッコいい外車を諦めて、家族が増えても大丈夫なようにワンボックスカーを購入した。
次は友梨が欲しいとせがむマイホームを購入する為にどれだけ体がキツくても毎日必死で働いてる。
これら全て家族三人での生活の為だ。
世間一般では男として当たり前の事かもしれないし、恩を着せるつもりはない。
だけど今の生活に疑問を持ってしまう。
俺って俗に言う“ATM”ってやつなんじゃないかって。
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