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side:透也―12
しおりを挟む少しの間が空いた後、恐る恐るといった具合に彼女が手を重ねてきた。
探るように力を込め、肉付きのいい手を強く握る。
「…………すみません、少しだけこのまま…」
「…………」
アルコールが入っているからか、温かいを通り越して熱い。
久し振りに握る女性の手は、柔らかくて滑らかで、心安らぐ心地好さを感じさせてくれた。
「………ぷにぷにっすね」
「あ、はは………贅肉たっぷりですみません…」
子供が出来る前は、友梨とよくこんな風に手を繋いでいた。
友梨の手は子供の手みたいに小さくて、痛がらないよう、握る力加減に気を付けていたもんだ。
今じゃ手を握るどころか、触れる事すら出来ない。
「久し振りだな……」
不意に彼女が呟いた。
「男の人と手を繋いだの、何年振りだろう………ふふっ、擽ったい」
照れたように………だけど、どこか嬉しそうに言うもんだから、そろそろ離そうかと思っていたのをやめて、もう少し延長してみる事にした。
「浅倉さんの手、顔に似合わずゴツいですね。職人の手って感じ…」
「そっすか?はは……この仕事を始める前は繊細で綺麗な手をしてたんすけどね」
「あはは、自分で言いますか?………でも、安定感があって落ち着きます。私の好きな手です」
自分のコンプレックスになりつつあった手を褒められ図に乗った俺は、ただ握っていただけの手を一度緩め、彼女の指と指の間に自分の指を滑り込ませた。
「………流石にこれは……恥ずかしいですね…」
所謂、恋人繋ぎの形状になった手に激しく戸惑う彼女に構わず、強く握り締める。
ほんの軽い気持ちだった。
友梨とよくしていた行為を再現してみたかっただけ。
女性の体温の高さと柔らかさを、思い出してみたかっただけだ。
なのに……
「……何やってんすかね、俺等」
なんて自嘲してみたものの、一度味わった心地好さを手離すのが惜しくなったらしい。
少しの間のつもりが手を離そうと思えないし、出来なくなった。
「…………何か悪い事してるみたい…」
僅かに聞き取れる声で彼女が呟いた。
「ドキドキします」
「…………」
「………って、私だけか。あはは、すみません、変な事言って……酔っ払い過ぎました!盛りのついたおばさんなんて気持ち悪いだけですよね。本当すみません、今の忘れて下さい!」
取り繕うように明るく言った彼女は、焦ったように手を離そうとする。
それを阻止するように強く握り直してから、駄目元で言ってみる。
「…………何なら、もっと悪い事しますか?」
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