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side:妙香―13
しおりを挟む浅倉さんの運転は少し乱暴で荒っぽい。
私じゃなくて家族を乗せていたら、安全運転なのかもしれないけれど。
「………吐きそうになったら言って下さいね。路肩に停めるんで」
「ありがとうございます。今のところ大丈夫です」
もう少し穏やかな運転をしてくれたら、100%大丈夫と答えられる。
「………こんな時くらい、旦那さんに頼っても良いんじゃないですか?」
ハンドルを操作しながら浅倉さんが言う。
「そもそも奥さんが野郎ばっかりの中で飲んでるの、心配じゃないんですかね」
思わず声を出して笑ってしまった。
「心配?しないしない。あの人がそんなのする訳ない」
「………そんなもんですかね」
「私の事なんかどうでもいいんと思っているんじゃないかな。もうね、私の事一切女として見てくれないんですよ、彼は。私に触りもしないし、興味もない」
うっかり口を滑らせて余計な事を言ってしまい、会話がプツンと途切れる。
嫌な沈黙が続いた後、浅倉さんが言いにくそうに「……ウチと一緒っすね」と切り出す。
「俺も嫁さんから男として見て貰えてないんすよ」
「え……」
ここでまた重い沈黙が車内を包む。
心地好い酔いが一気に冷めた。
ウインカーの音がやけに大きく感じる。
どう反応して良いのか分からず困っていると、それを察したらしい浅倉さんが笑いを交えて言う。
「嫁さんに触ると怒られちゃうんすよねぇ」
無愛想な浅倉さんが笑っている光景は、何だか新鮮だ。
きっと、無理して笑っているのだろう。
「子供が出来てから冷たくなったんすよ」
「お子さん、まだ小さいんですよね?だから余裕がないだけですよ、きっと」
後部座席のチャイルドシートを見やりながら言うと、浅倉さんは「はは……」と力なく笑った。
「……だとしても、他所に女を作っていいなんて普通言いませんよ」
浅倉さんはわざとらしく明るく言ってから、寂しげに呟く。
「はぁ?って思いましたね」
ショッキングな発言に気の利いた返しが出来ないでいる私に構わず、彼は続ける。
「………子供さえ出来れば、俺はもう用済みなんすよ。男として見てくれないというか………男でいちゃ駄目らしいっすわ」
夫の立場、妻の立場……と、立場が違えど、自分とほとんど同じ状況の浅倉さんに共感せずにはいられない。
夫に妻として、母親としての役割を求められはしても、女としては必要とされない。
それ所か、見向きもされない。
ただ、虚しいばかりだ。
「お気持ち……分かるような気がします」
そっと呟いた言葉に、浅倉さんは微かに息を漏らした。
「お互いに、寂しい人生っすね…」
私は静かに頷いた。
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