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side:妙香―12
しおりを挟む私の進行方向と浅倉さんの目的地は同じ方角らしく、何となく並んで歩く事になった。
足元がふらついた酔っ払いの私とは違って、浅倉さんは軽快な足取り。
「浅倉さんは奥さん想いなんですね」
「………別に。普通じゃないですか?」
「いやいや、優しいですよ。ウチの旦那なんか、子供が生まれたばっかの時、不慣れな育児でヘトヘトな私を夜中に平気で迎えに呼び出してましたけどね」
「へぇ……その旦那さんは今日迎えに来てくれないんですか?」
「ん、まぁ………彼は女が夜飲みに出る事を良しとしない人だから……」
自虐的に言う私と、浅倉さんが微かに笑い声を漏らす。
「亭主関白ってやつですか……今時流行んないっすよ、そんなの」
つられて私も笑う。
「本当に。人間そうそう変わるもんじゃないから、もう諦めてますけどね」
火照った頬を心地好い風がそっと撫でた。
「っ、と……」
「大丈夫っすか?」
膝がガクッと折れた所を浅倉さんに支えられる。
私みたいなぼってり体型のおばさんを簡単に支えられるなんて、細い体の割には力があるらしい。
男性とこんな風に密着するのはかなり久し振りとあって、不覚にもドキッとしてしまった。
「……だ、大丈夫です。重たかったですよね、すみません。ありがとうございます」
すぐに体勢を立て直し、彼から離れる。
「そんなんで帰れるんすか?送ってきますよ」
感情の読み取れない声色と表情に躊躇いながらも少し考えてから遠慮がちに言う。
「じゃあ………お言葉に甘えさせて貰います」
「………パーキング、すぐそこなんで」
浅倉さんの車は人気のファミリーカーだった。
当然のように後部座席に乗ろうとした所を、彼に止められる。
「後ろ、チャイルドシートと仕事道具乗っかってるんで助手席にお願いします」
窓ガラス越しに、チャイルドシートと無造作に積まれた荷物が確認出来た。
「あ、あぁ………そうですね」
奥さんに悪いような気がして敢えて助手席を外したのだけれど、どのみち疚しい事はないから遠慮する必要なんてなかった。
「失礼します。お願いします」
恐る恐る、助手席に乗せて貰う。
「方面教えて下さい」
運転席に乗り込んだ浅倉さんがエンジンをかけた。
「北区の方です」
「なんだ……通り道ですよ。ナビお願いしますね」
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