花の終わりはいつですか?

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
22 / 37

side:妙香―12

しおりを挟む



私の進行方向と浅倉さんの目的地は同じ方角らしく、何となく並んで歩く事になった。

足元がふらついた酔っ払いの私とは違って、浅倉さんは軽快な足取り。


「浅倉さんは奥さん想いなんですね」

「………別に。普通じゃないですか?」

「いやいや、優しいですよ。ウチの旦那なんか、子供が生まれたばっかの時、不慣れな育児でヘトヘトな私を夜中に平気で迎えに呼び出してましたけどね」

「へぇ……その旦那さんは今日迎えに来てくれないんですか?」

「ん、まぁ………彼は女が夜飲みに出る事を良しとしない人だから……」


自虐的に言う私と、浅倉さんが微かに笑い声を漏らす。


「亭主関白ってやつですか……今時流行んないっすよ、そんなの」


つられて私も笑う。


「本当に。人間そうそう変わるもんじゃないから、もう諦めてますけどね」


火照った頬を心地好い風がそっと撫でた。


「っ、と……」

「大丈夫っすか?」


膝がガクッと折れた所を浅倉さんに支えられる。

私みたいなぼってり体型のおばさんを簡単に支えられるなんて、細い体の割には力があるらしい。

男性とこんな風に密着するのはかなり久し振りとあって、不覚にもドキッとしてしまった。


「……だ、大丈夫です。重たかったですよね、すみません。ありがとうございます」


すぐに体勢を立て直し、彼から離れる。


「そんなんで帰れるんすか?送ってきますよ」


感情の読み取れない声色と表情に躊躇いながらも少し考えてから遠慮がちに言う。


「じゃあ………お言葉に甘えさせて貰います」

「………パーキング、すぐそこなんで」



浅倉さんの車は人気のファミリーカーだった。

当然のように後部座席に乗ろうとした所を、彼に止められる。


「後ろ、チャイルドシートと仕事道具乗っかってるんで助手席にお願いします」


窓ガラス越しに、チャイルドシートと無造作に積まれた荷物が確認出来た。


「あ、あぁ………そうですね」


奥さんに悪いような気がして敢えて助手席を外したのだけれど、どのみち疚しい事はないから遠慮する必要なんてなかった。


「失礼します。お願いします」


恐る恐る、助手席に乗せて貰う。


「方面教えて下さい」


運転席に乗り込んだ浅倉さんがエンジンをかけた。


「北区の方です」

「なんだ……通り道ですよ。ナビお願いしますね」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...