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side:透也―8
しおりを挟む仕上げの段階まできた所で、材料が微妙に足りない事に気が付いた。
「………チッ、余分に用意しとけよ」
前日に材料を準備したのは先輩。
本人には直接言えないもんだから、小声で不満を漏らしながら道具に八つ当たる。
「ちょっくら、会社に砂利取り行ってきます」
気怠そうにユンボの足回りに付いた泥を擦り落としている角山さんに行き先を告げると、彼は了承の合図に片手を軽く挙げた。
軽トラに乗り込んで、時計を見る。
この現場から会社までは片道15分で、往復すると実質30分のロスだ。
「ったく………この時間が無駄なんだよ」
一人苦々しげに呟きながら、エンジンを掛けた。
会社に着いて、砂利を必要な分だけ軽トラの荷台に積んだ。
「………ふぅ…」
重い砂利の積み込みで痛んだ腰を伸ばしていると「お疲れ様です」と声を掛けられた。
振り向くと、小太りの事務員が笑顔で立っていた。
「………あぁ、お疲れ様です。今帰りですか?」
「はい、帰りがけに丁度姿が見えたので、お声掛けしようと思いまして」
「別に……そこまで気を遣わないでいいですよ」
素っ気なく返しながら、ふと気付く。
「何か………雰囲気変わりましたね」
小太りの事務員が前に比べて小綺麗になっている。
真っ黒で白髪がチラホラ見受けられたボサボサの頭が綺麗にカラーリングされて、うなじが見える長さで揃えられている上、これまでなかった艶まである。
それだけじゃない。
野暮ったいだけだった服装も、シンプルだけど清潔感のあるブラウスとフレアスカートに変わっている。
「何かあったんですか?」
恐る恐る尋ねると、彼女は恥ずかしそうにはにかみながら答える。
「いやね、常務からそれなりの身なりを……と言われたので……」
「へぇ……」
「何だか自分でも恥ずかしいんです。こんな格好………似合ってないですよね…?」
自信のなさを醸し出して自虐的に言う彼女に、思わず「そんな事ないですよ」と言ってしまった。
「女性らしくていいんじゃないですか?良く似合ってますよ」
正直、前よりはマシだという程度。
「あ、ははっ……無理して褒めなくていいですよ」
ぎこちなく笑う彼女の頬が赤く染まった。
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