花の終わりはいつですか?

江上蒼羽

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side:妙香―7

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事務員として働き始めて2週間が経った。

始めは右も左も分からず……それこそ電話対応すらままならなかった状態から、ほんの少しだけ要領を得たような気がする。

出勤は午前9時半、1時間の休憩を挟んで退勤は午後2時半。

子供の帰宅に合わせて帰る事が出来るから、子供達が寂しがる事もない。

仕事内容は、主に見積書の作成、データ入力、材料の発注……等。

たまに現場の写真を撮りに社用車で出掛けたりもする。

あと、元請け業者が打ち合わせに来たりするから、お茶出しも。

常務曰く、給料日のある月末は特に忙しいらしい。

心しておくよう命じられた。


私が出勤する頃には従業員達は皆現場に出払っていて、彼等が帰って来る前に退勤するから殆ど顔を合わせない。

たまにある現場が半日とか、天候の関係で中止になった場合の時にお会いする程度。

だから会社内の人間関係や彼等の人となり、立ち位置等は全く見えてこないし、介入する事もない。

年配の社員は会えば私に世間話を含めて声を掛けてくれるけど、若い社員達は結構無関心。

「お疲れ様です」程度しか口を利かなかったりする。


社長や専務は割りと高齢にも拘わらず、まだまだ現役で現場に出ているらしく、基本は会社を取り仕切る社長婦人である常務と事務所で二人きり。

常務は気分屋で、機嫌の良い時はとても優しい。

逆にそうでない時は氷のように冷たく、温度差が激しい。

未だそのギャップに慣れない。



『こんな会社、やめといた方がいいですよ』



私に忠告してきた若い社員の内の一人である浅倉さんからは、どうも疎まれているように感じる。

一見すると親切にも思えるけど、遠回しに辞めろと言われたような気がして、あまりいい気分じゃない。

悪い人じゃないんだろうけど、何だかモヤモヤする。

今後もあまり関わる事もないだろうから、気にしない方が賢明か。




「ふぅ………」


パソコンの画面の見過ぎで疲れた目を休ませるように目蓋を下ろした。

凝り固まった肩を解すように腕を回す。


「水川さん」


不意に名前を呼ばれ、声のした方へと顔を向けると、常務がにこやかに微笑みながら茶色い封筒を差し出していた。

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