花の終わりはいつですか?

江上蒼羽

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side:透也―6

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事務所を出ようとドアノブに手を掛けた時「あの…」と、呼び止められる。


「………何すか?」


不機嫌そうに返した俺に、水川さんが恐る恐るといった具合に口を開く。


「先程荷物を受け取ったんですが、どこに運べばいいか分かりますか?」


言いながら、彼女は近くの壁に立て掛けてある大きな段ボールを指差した。


「テレビ……みたいなんですけど」

「……………テレビっすか…」


またもやイラッとした。

同時に“またかよ……”と感想を抱く。

段ボールには、55型4Kテレビと表示されている。

貼り付けられた伝票には【株式会社末次フェンス】と会社の名前が書かれていた



苛立ちを抑える為に、一度深く息を吐いた。

それから水川さんに向かって言う。


「それ、そのまんまでいいと思いますよ」


水川さんは「そうですか…」と、不思議そうな顔をしている。


「いつもの事なんで。社長夫婦が会社名義で自分達の娘一家の為に、家電やら車やら買うんすよ」

「え………そういうの有りなんですか?」


驚いたように目を見開く水川さんに教えてやる。


「有りなんすよ、この会社では。ま、要するに税金対策ってやつ」

「へぇ……」

「汗水垂らして働く方は堪ったもんじゃないですけどね」


自分で言ってて悲しくなった。


「入社間もない人にこんな事言うのもアレですけど…」


折角だから……と、憂さ晴らしも兼ねて水川さんに会社の実態を教えてやる事にした。


「こんな会社、やめといた方がいいですよ」


俺からしてみれば親切のつもりが、彼女の表情が暗く曇る。


「常務がアットホームな会社だと仰っていましたが……?」

「あぁ……よくある謳い文句につられた感じなんですね。騙されましたね」

「えぇ……?」

「アットホームを謳う企業は地雷っすよ。というかこの会社、家族経営なんで色々となぁなぁになってるんすわ。働くの馬鹿らしくなって来ますよ」


実際、俺だって馬鹿らしくてやってられない。

でも家族の為にはしがみつくしかないから、文句を言いながらも仕方なく働いてるだけ。

本当はさっさと辞めたい。

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