花の終わりはいつですか?

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
11 / 37

side:透也―5

しおりを挟む



「忙しそうな所悪いんですが………常務は?」


常務の所在を問うと、水川さんは「あぁ…」と声を挙げる。


「常務なら、少し前に出掛けました。行き先までは分かりませんが…」

「…………そうですか」


どこに行ったんだよ、クソババア………と言いたい所をぐっと抑える。


「ですが、30分ほどで戻ると仰っていましたから、直にいらっしゃると思います。何か言付けですか?」

「………いや、今日の仕事終わったんで、次の指示を仰ごうと思って……ちょっくら電話掛けてみますわ」


ズボンのポケットから携帯を取り出し、常務の携帯に着信を入れる。


ところが

呼び出し始めた途端、事務所の片隅で鳴り出す着信音。


「………チッ」


すぐに呼び出しを止めた。

用があってこちらから電話を掛けても、常務は大抵出ない。

理由は、基本的に携帯を持ち歩かない人間だから。

こっちが忙しい時にはしつこい位電話してくるくせに。


「もうすぐ帰ってくると思いますから…」


苛立つ俺を案じてか、水川さんが宥めるように言った。


「…………そうっすね」



携帯をそっとポケットに仕舞った。

いつもの事ながら、常務には呆れる。



次の指示を仰ごうにも、常務が居ないのでは仕方がない。

事務所の壁に備え付けられた大きなホワイトボードの前に立つ。

そこには1週間分の施工内容が記され、現場作業員の振り当てがなされている。

本日の割り振り箇所から自分の名が記されたマグネットを取り、この場所から一番近い現場の所へ貼り付けた。

流石に自分の担当の現場が終わったからといって、2時に帰宅は許されない。

手が空いたら、他の現場の手伝いに回るのがこの会社の暗黙のルール。

気が進まないが、遊んでいる訳にはいかない。


「………俺、専務達の現場の手伝い行ってきますわ。常務に伝えといて下さい」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...