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side:妙香―4
しおりを挟む「パートに出たい?何の為に?」
晩酌に付き合いながらそれとなく切り出した話題に、夫の目が丸くなった。
「働きに出なきゃいけない程家計は苦しくないだろ?」
「まぁ………そうなんだけどね…」
予想通りの返答に苦笑し、夫の向かい側に腰掛ける。
「ちょっとした気晴らし程度に外に出てみたくて」
「そうは言っても、ずっと専業でいてブランクあるだろ。そんな人間を雇ってくれる所なんかろくにないと思うけど」
サラリと正論を吐いた口に水割りを流し込む夫。
「まぁ、反対はしないけどさ」
どうせ無理だろ……と言いたげに鼻で笑って、肴を頬張った。
夫からの了承を得て、翌日からハローワークへと出掛けた。
運転免許以外はこれといって資格はない。
ブランクがあっても出来る仕事で、子供がいない時間帯だけ働ける仕事といったら限られている。
土日出のサービス業は無理、専門的な仕事は無理、交代勤務は無理……
不況の中、しかも限られた条件を掲げての就職活動はとてもとても難しい。
ましてや、子持ちというなら尚の事。
「もしも、お子様が具合が悪くなった時とか……急に休まれたりすると、会社的に非常に困るんですよ。その辺りはどうでしょうか?」
「あ………えっと、その……」
「………そうですか……残念ですが、今回は―――…」
子供に罪はない。
想定外の事を予測出来なかった私が悪い。
何度面接を受けても、ブランクより子供について問われる。
「お子さん、まだ小さいんですね………大丈夫ですか?学校や幼稚園の行事とか……頻繁に休まれるとちょっとね…」
「そう、ですよね……」
“もしも”を考えていなかったが為に、就職活動は予想以上に難航した。
「スーパーの品出し……は、早朝かぁ…」
求人情報誌を眺めては溜め息を吐く。
「清掃の仕事なら……って、夜間だし」
履歴書を5枚書いて、5枚返却された。
これで駄目なら働くのは諦めよう……と、6枚目の履歴書を書き上げ、封筒に入れる。
夫の言う通り、ブランクのある子持ち主婦が活躍できる場は少ないのだろう。
ましてや、子供が急病時に対応出来ない人間は余計に。
知世のアドバイスを全て鵜呑みにするつもりはないけれど、自分を変える為に何かしら行動したい。
夫に輝いている私を見せたい………なんて格好付けてみたけれど…
思いばかりが先走るのみで、残念ながら結果はついて来ていない。
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