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side:妙香―2
しおりを挟む「ご主人……浮気してるんじゃない?」
深刻そうに眉をひそめて言った友人の知世。
口に含んでいたコーヒーを吹き出しそうになるのを堪える。
「だってそうでしょ?女盛り、花盛りの妻に見向きもしないなんて………きっと若い女に入れ込んでるんだよ」
「…………そうかな?」
少し温くなったコーヒーが入ったカップをそっとソーサーに戻す。
「あんな不器用な人が浮気なんて出来ないと思うけど。そんな度胸も甲斐性もないだろうし」
夫は超が付く位の真面目で不器用な人間だ。
そんな人に浮気なんて器用な真似なんて出来る筈がない。
万が一浮気したとしても、すぐにボロを出し、自白しそうなタイプだ。
「普段は仕事が終わったら真っ直ぐ帰って来てくれるし、休みの日は家族サービスしてくれる。特に怪しい行動もないし……浮気は………うん、まずないよ」
「断言しちゃって」
オレンジジュースで軽く喉を潤した知世が「それなら……」と続ける。
「ご主人はどこで発散してるの?」
彼女の問いに「さぁ…」と苦笑しながら、溜め息混じりに囁く。
「こっちが聞きたい位だよ」
いっその事女の影でもあれば良いのに……なんて、妻として有り得ない事を一瞬だけ思った。
顔も知らないような他所の若い女に現を抜かしているのなら、まだ救いようがある。
変に闘志を燃やして戦闘体勢に入る事が出来るし。
なのに、発散すべき所が何もないのに全く見向きもされないこの状況が悲し過ぎる。
「………私が結婚前の体型を維持してれば、まだどうにかなったのかもね」
二人目を産んで戻らなくなったお腹を擦りながら寂しげに呟くと、知世がすかさず「そんな事ないって」とフォローを入れてくれる。
「ふくよかな体型は、かわいい子供を命懸けで産んだ勲章だよ」
「………でも、子供を産んでもスタイルを維持している人は沢山居るよ」
二人も三人も子供を産んでいながらスタイルの良い母親は、辺りを見渡せばいくらでもいる。
そういうのを見てるから余計に夫は私が霞んで見えるのだろう。
「少しエクササイズして体を引き締めてみたら?」
「これでも多少は体を動かしてるんだけど……」
「なら、もう少しハードにしてみたら?」
「そうしたら続かなくなりそうで…」
我ながら言い訳がましい。
「下着をセクシーなものにしてみるのも手じゃない?仕草や話し方も女っぽさを意識してみるとか…」
知世のアドバイスに思わず吹き出しまった。
「そういえばセクシーな下着なんて持ってないな、私。未だにマタニティショーツを愛用してるし」
今度は知世が吹き出す。
「やだ、色気無さ過ぎ」
「だって楽なんだよ?お腹をすっぽり包んでくれるし」
大笑いしながら知世が「こりゃ駄目だ」と嘆いた。
「夫婦のスキンシップはいくつになっても必要なものだよ。愛に満ちたセックスは体と心の栄養剤で、夫婦仲の潤滑油だと思う」
「………そうだよね、知世に言われると説得力がある」
もうすぐ臨月に入る知世の迫り出たお腹を見ながら嫌味っぽく言う。
「会う度いつもの知世の肌艶が良いのを羨ましく思ってたよ。いつまでも若々しいし表情も明るくて……」
「そう?ふふ……ありがと」
知世と野暮ったい私は同い年。
でもそれを知って、どれだけの人が信じてくれるだろうか。
そもそも私自身がその事実を信じられないのだけれど。
「綺麗なママだよ、知世は。その上、もうすぐ三人目が産まれる………夫婦仲が良い証拠よね」
知世が嬉しそうに目を細める。
「そんなにおだてられたら擽ったいじゃない。でもおだてられても奢らないから」
薄いながらも丁寧に施されたメイク。
ネイルが塗られているのかと思わせる程ピカピカに輝く磨かれた爪。
いかにもマタニティというゆったり服ではなく、フェミニンなワンピースに袖を通している上、髪も緩く巻かれている。
知世は、妊婦なのに頭の先から足の爪先という細部まで一切手を抜いていない。
それに比べて私は……
「はぁ………落ち込む」
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