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side:妙香―1
しおりを挟む思えば、夫が私を求めて来なくなってから、もう3年は経った。
新婚当時は毎晩のように求めて来ていたのに。
子供を産み、それなりに年齢を重ねた。
太く逞しい二の腕に弛んだウエスト周り。
背中には厚い肉が付いて、顎は立派に二重。
努力を怠った結果なのか、結婚前は実年齢より若く見られた外見は見事に年相応になった。
最近は目元の小皺と法令線が目立つ。
夫が私に見向きもしなくなったのは、きっとこの所為。
自分で言うのもなんだけど、我が家は他人が羨む理想的な家族像だと思う。
真面目で優しい夫とかわいい子供達。
夫は三流企業に勤めていながらも、一生懸命働いて家族を立派に養ってくれている。
家事は手出ししないものの、子供達の面倒はよく見てくれる。
良く出来た夫だ。
小学2年生のヤンチャな長男に、生意気盛りでおしゃまな年中児の長女。
少々賑やか過ぎるのが玉に瑕だったりするけれど、私としては理想通りの笑いの絶えない楽しい家庭を築けている。
思い描いていた生活で、不満はない。
夫婦生活が全くない以外は。
元々私はそういった事に淡白な方だった。
大体いつも求めてくるのは夫の方で、私はそれに仕方なく付き合う程度。
だから別になくても………なんて思っていたのに、30を過ぎた頃から体が妙に疼くようになった。
夫に抱いて欲しいと強く願うようになった。
なのに、夫は私を抱こうとしない。
触れようともして来ない。
悶々とした夜を過ごすのに堪り兼ねて、ある夜夫を誘ってみた。
「………ねぇ、したいんだけど…」
恥を忍んでの申し出に、夫は薄く笑みを浮かべて「何を馬鹿な事を……」と一蹴した。
「妙香はもう子供達の母親であり、家族。悪いけど今更女として見れないよ」
言葉に詰まる私に構わず、夫は「それにさ……」と続ける。
「30過ぎた女が盛ってるの、ちょっと気持ち悪い」
この残酷な一言に愕然とした私は、一晩中涙を流した。
夫はもう私を女として見ていない……
その事実を知った時、私の女としてのプライドが大きな音を立てて崩れていくのを感じた。
私は夫の妻であり、子供達の母親。
でもその前に一人の人間であり、一人の女でもある。
それを否定されたら、私の存在意義が分からなくなる。
今後の長い人生、ただ妻として家庭を仕切る役目や子供の母親としての役目しか与えられないのはかなり寂しい。
それとも、それが女の幸せだとでもいうのだろうか?
こんなにも満たされていないというのに。
それでも私は幸せだと思い込むようにした。
暗示をかけるように何度も自分に言い聞かせた。
私は人並みの幸せの中に居るんだ、恵まれた環境に身を置いているんだ……と自分の心に嘘を吐き続けた。
最初はそれでもどうにか誤魔化せていたけれど、段々と惨めになるだけで、虚しさにまた涙する。
まるでいい加減に作ったハリボテ。
外見は立派なのに、中身は安っぽい。
ふとした瞬間に、心に吹き荒ぶ風ですぐに倒れ、あっさり鮮やかに崩れる。
そんなハリボテと同じく思える程、私の心は繕いだらけ。
惨めな気持ちを持て余す日々は、限界がすぐそこまで来ていた。
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