物語の始まりは…

江上蒼羽

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コンテストを理由に引退を先送りにしたのは、百田に振り向いて貰う為の時間稼ぎだったんじゃないだろうか。

アイブロウ先輩、いじらしいを通り越して、かなり重たいタイプかもしれない。


「部室で二人っきりになって、変な気持ちになったりしなかったんすか?」


俺の馬鹿げた質問に百田は鼻で笑いながら「まさか」と一蹴する。


「黛の事は一生徒としか見ていない」


これ、アイブロウ先輩が聞いたら即泣いちゃうだろうな……なんて思った。


「ホントに?可愛いーとか手ぇ出したいとか思ってんじゃないの?」


ふざけて言った俺の言葉で、車内の空気が一瞬にして冷える。


「………お前は俺を淫行教師にしたいのか?」


普段の低い声が、更に低い。


「別にそういうつもりじゃねっすけど」

「なら、どういうつもりなんだよ」


低い声で、尚且つ1音1音を丁寧に発するようなゆったりとした口調から、百田が静かにキレているのが分かる。

敢えて落ち着いた口調で話す事で、自分を抑え込んでるんだと思う。


「お前が今言ってる事は、俺に社会的に死ねと言ってるようなもんだぞ」

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