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【38】
しおりを挟む百田の横顔は相変わらず涼しげで、憎たらしさを覚えるくらいだ。
「センセーさ、とっくにアイブロウ先輩の気持ちに気付いてるんでしょ?」
柄にもなく百田が吹き出す。
「アイブロウ先輩って……黛の事だよな?随分とユニークなアダ名を付けたもんだ」
「もうセンセってば、真面目な話してんだけど~」
話の論点をずらす百田に仄かに苛立ちながらも、まだ気持ちの余裕はある。
「アイブロウ先輩、百田センセに一生懸命アピールしてんじゃん。痛々しいくらいにさ」
百田は「少し寒いか……」と独り言を言いながら車内の空調をいじる。
「ちょっとはさ、その想いに応えてあげたら?」
吹き出し口から出てくる暖かい空気を浴びながら言うと、百田は黙り込む。
「可哀想じゃん?」
数秒の沈黙の後、百田がゆっくりと口を開く。
「文芸部なんて、さっさと廃部にすれば良かったんだよ」
呟きに近い小さな声がエンジン音に混ざって届いた。
「今時、小説なんてネットでいくらでも投稿出来るだろ?家でも出来るような活動を、コンテストに応募したいという熱意に圧されて、部としての存続を許可した教務主任を恨んでるよ」
俺は一度、アイブロウ先輩に小説を書くなんて家でも出来るじゃん?みたいに言った事がある。
その時の先輩は、家じゃ誘惑が多いとか集中出来ないとか理由付けてたけど……
わざわざ家でも出来る事を部活と称してまで行っているのは、百田を一人占めする時間を得る為だったんだろうな。
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