物語の始まりは…

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
36 / 57

【36】

しおりを挟む




久々にハードな運動をして疲れた体を引き摺って向かったのは、職員専用の駐車場。

高級車からボロい軽まで、車種は様々だ。

車通勤なのは知っていても、残念ながらヤツの愛車までは特定出来ていない。

噂じゃ厳ついランクルに乗ってるとか。


さっき体育館からの帰りついでに職員室を覗いたら、まだヤツはいて、丁度帰り支度をしているようだった。

そろそろ来る頃だろうか?

職員玄関に近い辺りでスマホ片手に待っていると、背後から声がした。


「清原か?こんな所で何やってるんだ?」


待ってましたとばかりにスマホをポケットに仕舞う。


「百田センセ、送ってって」


語尾にハートマークを付けて可愛くおねだり。

百田はわざとらしく溜め息を吐いてみせた。


「清原、お前は自転車通学だろ?」


呆れたように言って百田は俺の前をすり抜けて行く。


「チャリのカギ見当たらなくて」

「よく探せ。それか徒歩で帰りなさい」


足早に歩く百田の後を追う。


「えー久々にバスケ部に顔出したら、ハードな運動させられちゃってぇ。もう歩けなーい」


間延びした甘ったれた声で言うと、百田の足が止まった。

ヤツは大きく溜め息を吐くと、ゆっくり振り返る。


「……ったく。今日だけだからな」

しおりを挟む

処理中です...