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おまけエピソード6―③
しおりを挟む「あーあー……なーにやってんの」
踞って爪先を押さえる私の代わりに、遼くんが落ちた缶を拾い上げる。
「大丈夫ですか?お客様」
近くで品出しをしていた店員が慌てて駆け寄って来た。
「あ………っと、缶のラベル破れちゃってる……すみません、買い取ります」
「申し訳ございません、ありがとうございます」
遼くんと店員のやり取りの横で、懸命に痛みに耐える。
人工の革がクッションになって、多少衝撃は軽減出来たけど爪先は痛い、地味に痛い。
「凪ちゃん、大丈夫?んもう、おドジなんだからぁ」
誰のせいだ、誰の………と言いたげに遼くんを睨み付ける。
「……遼くんがびっくりさせるから…」
「えぇ?そんなに驚く?」
「驚くよ!冗談でもびっくりするじゃん!」
遼くんは不思議そうに首を傾げる。
「冗談じゃないのに?」
「じょ、冗談じゃないって………本気なの?」
痛みが去ってから、ゆっくりと立ち上がる。
体重を掛けると、まだちょっと痛む。
「本気だけど?」
遼くんは笑顔で言うけど、俄には信じられない。
「だからって、こんな所で……」
言う台詞じゃないと思う、絶対。
ロマンチックに海とか、夜景を見ながらとかなら分かる。
けど、ここはスーパーの缶詰売り場。
店員もお客さんも沢山居るし、賑やかだし、何より近くの精肉コーナーから「にくにくにっく~」なんてコミカルな歌が流れてきてる。
そんな場面で「結婚しよっか?」って……
気に入らない。
ロマンチックさの欠片のないプロポーズに不満を抱かずにはいられなくて。
女としては、やっぱりそれなりのシチュエーションを期待するもの。
男性としても、女性を喜ばせる為に、凝ったシチュエーションを用意するもんだと思う。
恐らくスーパーでプロポーズする男性なんて遼くんくらいだ。
お肉のBGMの中プロポーズされる私みたいな女性もそうそういるもんじゃないだろう。
遼くんって、ちょっと………どころか、かなりズレてる?
だからといって、図々しくもう一度やり直して欲しいとは言えない。
「………早く買い物済ませちゃおう」
精一杯の反抗として、プロポーズの返事をしないまま買い物を続行した。
レジでの精算を済ませ、スーパーを後にした。
母から頼まれた物が意外とあって、ビニール袋二つ分になった。
スーパーを出て少し歩いた所で遼くんが空を見上げて言う。
「あれ……雪降ってきたねぇ」
それに合わせて私も空を見上げる。
薄暗く淀んだ空から白い雪がハラハラと舞い落ちてきていた。
粒は小さくて細かい。
「本当だ……」
吐く息が白い。
「寒いから早く帰ろ」
そう言ったのに……
何故か遼くんは家の方角とは違う道へと進んで行く。
「えっ、遼くん?そっちじゃないよ?」
戸惑いながら後を追う。
「ねぇ、凪ちゃん、回り道してこーよ」
「ちょっ……遼くん?」
私が言った事ちゃんと聞いてた?
ムッとしつつ、仕方なく彼について行く。
遼くんは、いつだってマイペースだ。
風はないけど、空気が冷たい。
雪が降っていても積もる前に消えてしまう雪だから傘がなくても平気だけど…
「回り道なんかしないで早く帰ろうよ」
片手を塞ぐ荷物の煩わしさもあって、早く家に帰ろうと提案する。
すると、遼くんが空いてる方の手で私の手を強く引っ張る。
「……黙ってついて来なよ」
遼くんが珍しく怒ったような口調で言うもんだから、私は何も言えなくなった。
ただ彼に引っ張られるままに歩く。
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