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おまけエピソード6―①
しおりを挟む12月も半ばに差し掛かった頃…
「許さんっ!!」
リビングで父の怒号が響く。
「あぁ……また始まった…」
キッチンに立つ母が嘆く横で、私も同じ事を思っていた。
紅茶の入ったカップとお茶菓子をトレーでリビングの方まで運ぶと、父が鬼の形相で遼くんを睨み付けていた。
「貴様、自分が何を言っているのか分かってるのか?!」
また出た、貴様……と、小さく溜め息を吐き出す。
「俺は断じて許さんぞ」
「………お父さん、遼くん、お茶をどうぞ」
テーブルにカップとお茶菓子を置くと、父は遼くんに対する威圧感たっぷりの声からガラリと声質を変え「凪、ありがとなぁ」と、猫なで声で言った。
差があり過ぎて笑える。
「我が家はなぁ、クリスマスは毎年家族で過ごすと決まってるんだ!それを貴様は……」
すっかり髪が後退した額に青筋を浮き上げて言うのがそれか……と、父の発言に脱力させられた。
「年末ならともかく、クリスマスイブですよ?恋人同士の大事なイベントじゃないですか」
「あぁん?いつからクリスマスイブは男女の為のイベントになったんだ?」
「あはは、そんなの俺が知る訳ないじゃないですか」
父に怒鳴られようが貴様と罵られようが、遼くんは相変わらずの笑顔だ。
全然余裕そう。
どうやら、クリスマスイブについての話をしていたらしい。
我が家は昔から、クリスマスは家族で過ごす事になっていて、イタリアンのお店を経営する次兄のお店から料理とケーキを取り寄せ、家族水入らずの時間を過ごす決まりになっている。
………というか、父が勝手に決めた事なんだけど。
だから今まで生きてきた中で、彼氏とイブの夜を過ごした事は一度もなくて。
好きな人とロマンチックな夜を過ごす事にずっと憧れていた。
今年こそは大好きな人と……なんて思っていたんだけど……
「とにかく許さん!今年も例年通り、家族で過ごす!」
こんな調子じゃ多分今年も無理そう。
遼くんと美味しいディナーを食べて、イルミネーションで煌めく街中を手を繋いで歩きたかった。
遼くんと二人でネットやタウン情報誌でお店を下調べして、二人で過ごす初めてのイブを指折り数えて待っていたのに。
「イブの夜に、凪ちゃんにミニスカサンタコスチューム着てベッドで待ってて貰おうと思ってたのになぁ…」
「え………」
にっこにこ顔でとんでも発言をする遼くんに、そんな事を全く聞いてなかった私は唖然。
「なっ………?!貴様という奴はっ!!俺の愛くるしい娘にそんなハレンチな真似をっ?!」
「あっはは、だから貴様じゃなくて帯刀ですって。いい加減人の名前は覚えましょうよ。まだお若いんだから、物忘れをする年齢じゃないでしょう?」
父の顔が憤怒で歪む。
「こ、この俺を舐めくさりやがって!」
「ははっ、舐めるを通り越して噛ってます、なんつって」
「何だとーっ!!」
「まぁまぁ、そんなに興奮しないで下さいよ。血圧上がりますよ?お義父さん」
「誰がお義父さんだっ!お義父さんなんて呼ぶんじゃねぇ!!」
「えぇ?じゃあパピィですか?」
「この野郎!いちいち小癪なっ!!」
初めこそ、父と遼くんのやり取りをハラハラ冷や冷やしながら見守っていた。
けど最近はもう慣れたせいか、またやってる……と軽く流せるようになった。
だって、父と激しく舌戦を繰り広げている遼くんが凄く楽しそうなんだもの。
「とにかくイブの夜は凪を貴様なんぞに渡さん!一人寂しくコンビニの安いチキンでも噛ってろ!」
「えぇ?そんな酷い事言わないで下さいよ、パピィ」
「こんの野郎っ!!」
父は父で、怒りはしているけど、心なしか生き生きしているようにも思える。
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