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おまけエピソード5―② side:青柳
しおりを挟む「………こんな事なら、あの時の彼女の誘いを受けるべきだった」
俺の嘆きに彼は「……誘い?」と食い付く。
「キミにフラれたと思い込んで自棄になった彼女からホテルに誘われたんだよ」
少し得意気に語ると、さっきまで余裕そうに笑っていた彼の顔が曇った。
「きつく抱いて欲しいと懇願されてね…」
「………へぇ…」
小生意気な男に微力ながらも精神的ダメージを与える事が出来た事が嬉しくてほくそ笑む。
「あまりにふしだらな要求に驚いて断ってしまったけど、今となれば彼女が望んだ通りにしてやれば良かった」
「…………そいつは知らなかったなぁ」
「そしたら今頃は俺が彼女の隣に居れたのに」
悔やんだ所で過去はやり直せない。
チラリと見やると、彼は何かを思案するかのように黙り込んでいた。
その表情の固さに勝った気になった。
………のは、ほんの一時で
「まぁ……自棄になる程俺の事が好きだったって話でしょ?要するに。可愛い奴だな、凪は」
「…………」
彼のポジティブさに驚くと同時に呆れ返った。
「褒められた行動じゃないからお仕置きは必須だけど。お仕置きっつっても凪にとってはご褒美になっちゃうかもなぁ」
わざと卑猥な行為を連想させる言い回しをして、したり顔を披露する彼に強い嫉妬を覚えた。
奥歯がギリギリと音を立てる。
「あ、羨ましい?もしかして」
「…………さっさと捨てられちまえ」
安い挑発にまんまと乗せられる俺を嘲笑うかのように彼が言う。
「あはは、本当にガキだねぇ」
ガキみたいな奴にガキだなんて言われたくない。
「格好良い青柳さんの事だから、どうせ格好付けて痩せ我慢しただけでしょ?」
「………悪かったな」
「好きな子の前で格好つけたい気持ちは分かるけど………残念、惜しい事したねぇ」
「…………」
屈辱を感じて、八つ当たるように短くなった煙草を灰皿に強く押し付けた。
それから自分を落ち着かせる為に2本目を口に含む。
「…………彼女は元気?」
精一杯平静を装いながら聞くと、彼は意地悪く「聞いてどうすんの?」と。
「青柳さんが気にする事じゃないでしょ?」
ムッとしながら「いいだろ、そのくらい聞いたって」と返せば、彼がまた声を立てて笑う。
「本当に凪の事、好きだったんだねぇ」
「………茶化さないでくれ」
いちいち腹の立つ男だ。
こんな奴を選んだ彼女は、きっと男を見る目がないんだと思う。
一月程前から、社内で彼女の姿を見掛けなくなった。
佐伯さんに尋ねた所、別の企業に就職が決まり、退職したとの事。
現在は、彼女の代わりに年配の女性が佐伯さんの相方を務めている。
「凪は元気にやってるよ。いち早く新しい環境に慣れようと奮闘してる」
「そう……それは良かった。けど、この会社内でもう彼女の姿を見る事が出来ないなんて寂しいものだな」
「確かにねぇ。ま、青柳さんにとってはその方がいいでしょ?早く忘れられるから」
「…………いちいち嫌な奴だな」
「はは、そんなに褒めないでよ」
どんなに嫌味を言おうが、彼にはちっとも効果がない。
奴の方が上手だという事か。
悔しくて腹立たしくて、どうしようもない。
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