上 下
75 / 87

おまけエピソード5―② side:青柳

しおりを挟む


「………こんな事なら、あの時の彼女の誘いを受けるべきだった」


俺の嘆きに彼は「……誘い?」と食い付く。


「キミにフラれたと思い込んで自棄になった彼女からホテルに誘われたんだよ」


少し得意気に語ると、さっきまで余裕そうに笑っていた彼の顔が曇った。


「きつく抱いて欲しいと懇願されてね…」

「………へぇ…」


小生意気な男に微力ながらも精神的ダメージを与える事が出来た事が嬉しくてほくそ笑む。


「あまりにふしだらな要求に驚いて断ってしまったけど、今となれば彼女が望んだ通りにしてやれば良かった」

「…………そいつは知らなかったなぁ」

「そしたら今頃は俺が彼女の隣に居れたのに」


悔やんだ所で過去はやり直せない。



チラリと見やると、彼は何かを思案するかのように黙り込んでいた。

その表情の固さに勝った気になった。


………のは、ほんの一時で


「まぁ……自棄になる程俺の事が好きだったって話でしょ?要するに。可愛い奴だな、凪は」

「…………」


彼のポジティブさに驚くと同時に呆れ返った。


「褒められた行動じゃないからお仕置きは必須だけど。お仕置きっつっても凪にとってはご褒美になっちゃうかもなぁ」


わざと卑猥な行為を連想させる言い回しをして、したり顔を披露する彼に強い嫉妬を覚えた。

奥歯がギリギリと音を立てる。


「あ、羨ましい?もしかして」

「…………さっさと捨てられちまえ」


安い挑発にまんまと乗せられる俺を嘲笑うかのように彼が言う。


「あはは、本当にガキだねぇ」


ガキみたいな奴にガキだなんて言われたくない。


「格好良い青柳さんの事だから、どうせ格好付けて痩せ我慢しただけでしょ?」

「………悪かったな」

「好きな子の前で格好つけたい気持ちは分かるけど………残念、惜しい事したねぇ」

「…………」


屈辱を感じて、八つ当たるように短くなった煙草を灰皿に強く押し付けた。

それから自分を落ち着かせる為に2本目を口に含む。


「…………彼女は元気?」


精一杯平静を装いながら聞くと、彼は意地悪く「聞いてどうすんの?」と。


「青柳さんが気にする事じゃないでしょ?」


ムッとしながら「いいだろ、そのくらい聞いたって」と返せば、彼がまた声を立てて笑う。


「本当に凪の事、好きだったんだねぇ」

「………茶化さないでくれ」


いちいち腹の立つ男だ。

こんな奴を選んだ彼女は、きっと男を見る目がないんだと思う。

一月程前から、社内で彼女の姿を見掛けなくなった。

佐伯さんに尋ねた所、別の企業に就職が決まり、退職したとの事。

現在は、彼女の代わりに年配の女性が佐伯さんの相方を務めている。


「凪は元気にやってるよ。いち早く新しい環境に慣れようと奮闘してる」

「そう……それは良かった。けど、この会社内でもう彼女の姿を見る事が出来ないなんて寂しいものだな」

「確かにねぇ。ま、青柳さんにとってはその方がいいでしょ?早く忘れられるから」

「…………いちいち嫌な奴だな」

「はは、そんなに褒めないでよ」


どんなに嫌味を言おうが、彼にはちっとも効果がない。

奴の方が上手だという事か。

悔しくて腹立たしくて、どうしようもない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編

タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。 私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが…… 予定にはなかった大問題が起こってしまった。 本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。 15分あれば読めると思います。 この作品の続編あります♪ 『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』

極道に大切に飼われた、お姫様

真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。

溺愛なんてされるものではありません

彩里 咲華
恋愛
社長御曹司と噂されている超絶イケメン 平国 蓮 × 干物系女子と化している蓮の話相手 赤崎 美織 部署は違うが同じ会社で働いている二人。会社では接点がなく会うことはほとんどない。しかし偶然だけど美織と蓮は同じマンションの隣同士に住んでいた。蓮に誘われて二人は一緒にご飯を食べながら話をするようになり、蓮からある意外な悩み相談をされる。 顔良し、性格良し、誰からも慕われるそんな完璧男子の蓮の悩みとは……!?

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

【完結】つぎの色をさがして

蒼村 咲
恋愛
【あらすじ】 主人公・黒田友里は上司兼恋人の谷元亮介から、浮気相手の妊娠を理由に突然別れを告げられる。そしてその浮気相手はなんと同じ職場の後輩社員だった。だが友里の受難はこれでは終わらなかった──…

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

処理中です...