53 / 87
【53】
しおりを挟む【羽鳥 凪 さま
厳正なる選考の結果、今回は採用を見合わせていただく結果となりました。】
郵送で届いた文書を眺めて、一つ大きな溜め息を吐いた。
先日受けた、食品メーカーの面接の結果は不採用。
「なーに湿気た顔してんのよぉ!まだ2社目でしょ?」
肩を落とす私を見かねて、佐伯さんが明るく言った。
「凪ちゃんはまだまだ若いんだから大丈夫よ!さっさと頭切り替えて次行きなさい、次!」
「………ですよね」
現在、就職活動真っ只中。
今の仕事も悪くはないけど、いつまでも親の庇護の下にいるのもなんだし……
辛い過去によって精神がボロボロになっても、自分の足できちんと立っている帯刀さんを見て触発されたのもある。
私も自分の足で自分の人生をしっかり歩きたい。
「ちょっとお給料は安いけど、この仕事でも良いんじゃないの?凪ちゃんがいなくなったら寂しいわ…」
お茶のおかわりを注ぎながら嬉しい事を言ってくれる佐伯さん。
私だって、佐伯さんとこうして仕事の合間にお茶を飲めなくなるのは寂しい。
けど、若い今しか出来ない事があるのも確か。
「帯ちゃんと結婚して養って貰えば良いじゃない?扶養内のパートで働くとか…」
「いやいや……付き合い始めて間もないので、結婚の話はまだ先だと思います」
佐伯さんは気が早い事を言うけど、現段階では結婚のけの字も出ていない。
「んまっ!!私にあんな激しいラブシーンを見せつけといて付き合って間もないですって?!最近の若者はやる事が過激ねぇ」
呆れと怒りが混在した口調で言われ、思わず「す、すみません…」と背中を丸めた。
「凪ちゃんの就職活動について帯ちゃんは何て言ってるの?」
「んー……特には…でも応援はしてくれています」
帯刀さんは、私の就職活動についてこれといって口出ししない。
寧ろ、凪ちゃんの好きな事をしなよ、と肯定的。
佐伯さんは「あらそう……」と言った後、すぐに名案だとばかりに言う。
「やっぱり結婚しちゃいなさいよ!あなた達いい歳なんだから」
「いや、それは私だけで決められる事じゃないんで…」
佐伯さんは簡単に言うけども。
私はこの先も帯刀さんと一緒に居たいと思っている。
付き合い始めて間もないけど、彼と結婚出来たら………と願っている。
でも、その前に立ち塞がる壁がある。
「彼の方はどう思っているか分からないし………まだ親に彼の存在を隠しているような状態ですから…」
父という………やたらと大きくて分厚くて頑丈な壁を乗り越える事は困難を極めそうな気がする。
佐伯さんとのお茶を終えて、業務を再開する。
不採用結果を受けて、心がへし折れそうになっている状態の私は、端か見たらやる気がないように見えるかもしれない。
「…………落ち込むなぁ…」
不意に飛び出した独り言。
無意識に口をついて出て来たが為、周りに聞かれてしまって焦った。
通り掛かった人達の怪訝そうな視線を浴びながら、さも私じゃありません、と素知らぬ振り。
佐伯さんの言う通り、頭を切り替えなければならないけど、これが何気に難しい。
結構、後々まで引き摺るタイプの私には特に。
「………はぁ…」
何度目かの溜め息を吐いて、俯きがちだった顔を上げた時、少し離れた所からニコニコ愛想良く手を振る彼が目に入った。
「凪ちゃん、一緒にサボろ?」
私が駆け寄ったと同時に悪い提案をする帯刀さん。
「………今休憩明けたばっか」
「良いじゃん、ちょっとくらい」
遠回しに断ったものの、彼はお構い無しらしい。
腕を掴まれ、強引に引っ張られる。
「息抜きも必要だよねぇ~」
「だから、さっきまで息抜きしてたって…」
「いいのいいの」
いいのって、勝手に……
帯刀さんは、基本我が道を行くタイプなのかもしれない。
10
お気に入りに追加
309
あなたにおすすめの小説
ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編
タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。
私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが……
予定にはなかった大問題が起こってしまった。
本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。
15分あれば読めると思います。
この作品の続編あります♪
『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』
極道に大切に飼われた、お姫様
真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。
溺愛なんてされるものではありません
彩里 咲華
恋愛
社長御曹司と噂されている超絶イケメン
平国 蓮
×
干物系女子と化している蓮の話相手
赤崎 美織
部署は違うが同じ会社で働いている二人。会社では接点がなく会うことはほとんどない。しかし偶然だけど美織と蓮は同じマンションの隣同士に住んでいた。蓮に誘われて二人は一緒にご飯を食べながら話をするようになり、蓮からある意外な悩み相談をされる。 顔良し、性格良し、誰からも慕われるそんな完璧男子の蓮の悩みとは……!?
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
【完結】つぎの色をさがして
蒼村 咲
恋愛
【あらすじ】
主人公・黒田友里は上司兼恋人の谷元亮介から、浮気相手の妊娠を理由に突然別れを告げられる。そしてその浮気相手はなんと同じ職場の後輩社員だった。だが友里の受難はこれでは終わらなかった──…
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる