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【羽鳥 凪 さま


厳正なる選考の結果、今回は採用を見合わせていただく結果となりました。】






郵送で届いた文書を眺めて、一つ大きな溜め息を吐いた。

先日受けた、食品メーカーの面接の結果は不採用。


「なーに湿気た顔してんのよぉ!まだ2社目でしょ?」


肩を落とす私を見かねて、佐伯さんが明るく言った。


「凪ちゃんはまだまだ若いんだから大丈夫よ!さっさと頭切り替えて次行きなさい、次!」

「………ですよね」


現在、就職活動真っ只中。

今の仕事も悪くはないけど、いつまでも親の庇護の下にいるのもなんだし……

辛い過去によって精神がボロボロになっても、自分の足できちんと立っている帯刀さんを見て触発されたのもある。

私も自分の足で自分の人生をしっかり歩きたい。


「ちょっとお給料は安いけど、この仕事でも良いんじゃないの?凪ちゃんがいなくなったら寂しいわ…」


お茶のおかわりを注ぎながら嬉しい事を言ってくれる佐伯さん。

私だって、佐伯さんとこうして仕事の合間にお茶を飲めなくなるのは寂しい。

けど、若い今しか出来ない事があるのも確か。


「帯ちゃんと結婚して養って貰えば良いじゃない?扶養内のパートで働くとか…」

「いやいや……付き合い始めて間もないので、結婚の話はまだ先だと思います」


佐伯さんは気が早い事を言うけど、現段階では結婚のけの字も出ていない。


「んまっ!!私にあんな激しいラブシーンを見せつけといて付き合って間もないですって?!最近の若者はやる事が過激ねぇ」


呆れと怒りが混在した口調で言われ、思わず「す、すみません…」と背中を丸めた。


「凪ちゃんの就職活動について帯ちゃんは何て言ってるの?」

「んー……特には…でも応援はしてくれています」


帯刀さんは、私の就職活動についてこれといって口出ししない。

寧ろ、凪ちゃんの好きな事をしなよ、と肯定的。

佐伯さんは「あらそう……」と言った後、すぐに名案だとばかりに言う。


「やっぱり結婚しちゃいなさいよ!あなた達いい歳なんだから」

「いや、それは私だけで決められる事じゃないんで…」


佐伯さんは簡単に言うけども。

私はこの先も帯刀さんと一緒に居たいと思っている。

付き合い始めて間もないけど、彼と結婚出来たら………と願っている。

でも、その前に立ち塞がる壁がある。


「彼の方はどう思っているか分からないし………まだ親に彼の存在を隠しているような状態ですから…」


父という………やたらと大きくて分厚くて頑丈な壁を乗り越える事は困難を極めそうな気がする。



佐伯さんとのお茶を終えて、業務を再開する。

不採用結果を受けて、心がへし折れそうになっている状態の私は、端か見たらやる気がないように見えるかもしれない。


「…………落ち込むなぁ…」


不意に飛び出した独り言。

無意識に口をついて出て来たが為、周りに聞かれてしまって焦った。

通り掛かった人達の怪訝そうな視線を浴びながら、さも私じゃありません、と素知らぬ振り。

佐伯さんの言う通り、頭を切り替えなければならないけど、これが何気に難しい。

結構、後々まで引き摺るタイプの私には特に。


「………はぁ…」


何度目かの溜め息を吐いて、俯きがちだった顔を上げた時、少し離れた所からニコニコ愛想良く手を振る彼が目に入った。


「凪ちゃん、一緒にサボろ?」


私が駆け寄ったと同時に悪い提案をする帯刀さん。


「………今休憩明けたばっか」

「良いじゃん、ちょっとくらい」


遠回しに断ったものの、彼はお構い無しらしい。

腕を掴まれ、強引に引っ張られる。


「息抜きも必要だよねぇ~」

「だから、さっきまで息抜きしてたって…」

「いいのいいの」


いいのって、勝手に……

帯刀さんは、基本我が道を行くタイプなのかもしれない。
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