売名恋愛

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
87 / 137

売名後の売名?⑧

しおりを挟む


「………森川……派手にやらかしてくれたわね…」


口元に笑みを浮かべつつも、どこか呆れにも似たような声色で言う川瀬さん。

彼女の手には、今日発売の週刊誌が握られている。


「………す、すみません」


怒りはしていないながらも、機嫌はあまりよろしくない川瀬さんを前に、私は萎縮しまくっていた。


「別にあんたを責めてはないの。恋愛ご法度のアイドルとは立場が違うし、自由に恋愛して貰って構わないけど……こう、短期間の間で……ねぇ?」

「い、いや、彼とはそんなんじゃないですから!」


弁解する私に、彼女は盛大に溜め息を吐いてみせる。


「私は分かってるけど、世間がどう見るかよ」


川瀬さんの手中にある週刊誌の見出しに大きく記された【また売名か?!ドッキリか?!】の文字。

太く大きなゴシック体で、他の記事より一際目立っている。


「先日、世間を賑わせた女芸人に新たなスキャンダル発覚。まんぼうライダー森川が、とある居酒屋で密会していた相手は、若手俳優、芹沢 流希(25)。前回の偽装交際のお相手、忍足 慧史とは違ったタイプのイケメンだ…」


川瀬さんが週刊誌の記事を声を大にして読み始めた。


「ドッキリでの心の傷を癒して貰っていたのか……それとも、次なる売名作戦を練っていたのか……定かではないが、二人は終始見詰め合い、微笑み合っていた」

「いや、その表現はちょっと違うような……」

「終電を無くして居酒屋を後にした二人は、そのまま寄り添うようにホテルのある方角へと消えて行っーーー…」


川瀬さんが記事の全文を読み終える前に「でっち上げです!!」と、立ち上がる。


「デタラメも良い所ですから!ホテルなんて行ってません!」


終電がなくなるまで飲んだのは間違いない。

でも、その後は現地解散し、各々タクシーで帰宅したのだ。

ホテルなんて有り得ない。

私と芹沢さんの記事を書いた週刊誌は、誇張表現やガセ、ゴシップが多い事で有名だ。

けれども、どんなに滅茶苦茶な記事でも、真に受ける人は少なくない。

ましてや、ホテルの方角へ……とぼかされてはいるものの、ホテルと明記されている時点で、大幅なイメージダウンの可能性がある。

いずれ引退する身としては、イメージダウンなんてどうでも良いっちゃ良いような気もするのだけれど、やはり世間からの印象は良いに越した事ない。


「参ったなぁ……」


頭を抱える私に、川瀬さんが言う。


「ただの飲み友達かもしれないけど、男と二人で……なんて、かなり軽率だったわね」

「………すみません」


テーブルに突っ伏して落ち込む私に、川瀬さんが追い討ちを掛けるように言う。


「もしかして……本当に売名に利用されたんじゃないの?」


それに対して「そんな事ないです!」と、すかさず反論する。


「芹沢さんは、そんな人じゃないです!仲間思いの男気溢れる人なんですから!」


芹沢さんを庇いながらも、実は利用されたんじゃ……と、不安になる。

芹沢さんに限ってそんな事はないだろうけれど、心の片隅で疑いを持っている自分がいる。

思えば、嫌な人間になったものだ。

人を疑う癖がついて、善人な人でさえ、悪人に見えてしまう時があるなんて。


「そもそも、こんな無名の俳優と、いつ、どこで知り合ったの?」


川瀬さんの言葉に、引っ掛かりを感じた。


「えっ………やだ、川瀬さん、彼は忍足さんの俳優仲間ですよ?忍足さんと彼の舞台を観に行った時に知り合って……」


忽ち、川瀬さんの眉間に皺が寄る。


「忍足さんと?それ……いつの話よ?」

「え………」


川瀬さんの様子がおかしい。


「えっと……確か、忍足さんの携帯が壊れたとかいう日で…」

「…………あぁ、あの日…」

「二人で舞台を観に行って、その後、舞台関係者と飲みに………あれもドッキリの一部だったんでしょう?」

「………」


何やら、考え込む川瀬さん。

その様子に不安を感じていると、事務所内が慌ただしくなった。

どうやら、来客があったらしい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

【完結】研究一筋令嬢の朝

彩華(あやはな)
恋愛
研究二徹夜明けすぐに出席した、王立学園高等科、研究科卒業式後のダンスパーティ。そこで、婚約者である第二王子に呼び出された私こと、アイリ・マクアリス。婚約破棄?!いじめ?隣の女性は誰?なんでキラキラの室長までもが来るの?・・・もう、どうでもいい!!私は早く帰って寝たいの、寝たいのよ!!室長、後は任せます!! ☆初投稿になります。よろしくお願いします。三人目線の三部作になります。

処理中です...