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売名延長案③
しおりを挟む「………リミットが近いなら、尚更気持ちを伝えるべきなんじゃないの?」
間宮が捲し立てるように早口で言う。
「偽装の交際期間が終われば、何の関係もなくなる。連絡も来なくなるし、二人っきりで会う事もなくなる………そうなる前に何か手を打っとこうよ!」
「…………」
間宮の言う通り、約束の期日がやって来れば、自然と関係は消滅する。
そうなる前に、何かしら爪痕を残しておけたら良いとは思うけれど……
「………無理、だよ…」
どうしても、一歩踏み出す勇気が湧いてこない。
「告白なんて、私には出来ない……」
拒絶されたら……そう思うと、怖くて言えない。
「怖い………自信ないよ…」
「………森川…」
項垂れる私の背にそっと手を添える間宮。
彼女は丸まった私の背を優しく擦る。
「森川……あんたは、番組の企画で痩せて可愛く生まれ変わった。あれだけ努力出来た人間が、戦わずして簡単に諦めるの?」
「…………」
答えに詰まる私に、間宮は続ける。
「敵前逃亡して、あの時、やっぱ気持ち伝えとけば良かった~って、後悔しない?後で泣いたりしない?」
「………」
奥歯を強く噛み締める。
「森川……よっぽどのドMでない限り、誰だって傷付くのは嫌だよ?」
「…………」
「だけどさ、ここで踏み出さなければ、なーんにも変わらない。経験値を得られなければ、この先恋をしても愛を育むまで発展する事もない………それで良い?」
「………」
握り締めた拳に、割り箸が強く食い込む。
「一生を不毛の片想いばかりで終わらせる?寂しくない?そんなの」
「………」
「あぁ……それとも、大好きな覆面ライダーを心の恋人にして生きてく……とか?」
間宮は私を焚き付けようとしているのだろう。
それは、良く分かっている。
けれども、無鉄砲さとがむしゃらさが不足している私は、やっぱり……
「………100%の保証がない限り、告白なんか出来ない…」
臆病者の殻を破れそうもない。
そんな私を前に、間宮が怒りとも呆れとも取れる盛大な溜め息を吐き出していた。
忍足さんと会う約束をした水曜日になっても、間宮の怒りを孕んだ溜め息が耳に残ったまま。
彼女の前向きな性質上、果てしなく後ろ向きな私の性格が許せないのだろう。
間宮に何と言われようと、生まれついてのネガティブな性質は変えられない。
長年この性格でやって来たのだから、容易くポジティブ人間に変われる訳もない。
記憶喪失とかで、頭がまっさらにならない限りは。
例えるなら、陰と陽の私と間宮。
よく解散せずにコンビを続けて来れたものだと思う。
お互いを尊重し、理解し合っているつもりでも、相容れない部分は少なからずある。
ましてや、今回の件では、特にそれが顕著だった。
間宮が私を思ってくれているのは本当に良く分かる。
けれど、それに答えられない私がいる訳で……
間宮の期待に答えられない情けない自分に腹立ちを感じながらも、だからといって、何の解決策も代替策も見出だせていない。
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