売名恋愛

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
19 / 137

計画始動①

しおりを挟む


11月某日


遂に、計画始動の日を迎えた。

天気は晴れ。

気温は…………寒いから、多分低い。


「…………よっし」


果ての見えない空の青を瞳に映しながら気合いを入れる。


メイクは、派手過ぎず薄過ぎず……

透明感と清潔感を重視し、ややナチュラルめに。

前日の夜緊張で眠れなかった為に出来てしまった目の下のクマは、コンシーラーで必死に隠した。

一番困ったのが服装。

24年間生きてきて、異性とデートする機会なんて一切合切なかった私は、何を着れば良いのかさっぱり分からず……

クローゼットの中の手持ち服を部屋一面に拡げて絶望感を抱き、よく行くお店に乗り込んだ。


ヤラセの交際とはいえ、隣を歩く忍足さんに恥をかかせられない。

薄手のショート丈コートを羽織り、中はピンクのニット。

ボトムはショートパンツにして寒さ対策に厚手のタイツを穿いた。

足元は、歩き易いようにスニーカー。

店員さんに全身コーディネートして貰い、全購入。

財布にはかなりの痛手を負ったけれど、計画さえ上手くいけば回復………下手すると、それ以上の収穫を得られる事を考えれば前向きならざる得ない。

携帯で時間を確認しながら、待ち合わせ場所まで移動する。


「ねっ、あれって………まんぼうライダーの消えた方じゃない?」

「うっそ!久し振りに見た!」


擦れ違い様、嘲笑う声に耳を覆いたくなった。


「死んだって噂されてたけど、まだ生きてたんだー」

「ばーか、それデマに決まってんじゃん」


浴びる、好奇に満ちた無数の視線。

嫌だなぁ………と思いながら、電車を乗り継ぐ。




【当日は、まんぼうライダー森川のトレードマークであるお団子ヘアで来て下さい】



忍足さんからLINEを通しての指示。

服装の件についての細かい指示は無かったものの、ヘアスタイルの指定はあった。

自称、お笑い芸人の一般人と化してから、トレードマークのお団子ヘアを封印していた。

目立たないように、気付かれないように。

地に落ちた自分の姿を人に知られたくなかったから。

でも、今日は敢えて目立つように髪を頭の天辺で丸めた。

お陰で注目と心無い言葉を浴びる羽目になったのだけれど。




約束の時間の五分前、指定された待ち合わせ場所に到着。

周囲には、同じく待ち合わせと思われる人達がわんさか。

忍足さんが来ているかは、パッと見ではちょっと分からない。

仕方なく、携帯を取り出してLINEを送る。




【着きました】



すぐに既読がついた。




【看板の下辺りに居ます】



忍足さんからの返信を受け取り、人並みを掻き分け、忍足さんの姿を探して進む。

と、手摺に凭れながら俯きがちに携帯を弄る忍足さんの姿を確認。


「おっ、はようございます」


緊張から声が上擦った。

忍足さんは、携帯をパンツのポケットに仕舞ってから顔を上げる。


「おはよ」


塩顔イケメンが放つ優しい微笑み付きの甘い声にクラッときたけれど、ここで倒れる訳にはいかない。

これからこのイケメンとデートするのだから、待ち合わせの段階で息を切らしていては先が思いやられる。


「す、すみません、お待たせしちゃって……」

「ん?気にしないで。俺が早く来ただけだから」


言いながら、忍足さんは当たり前のように私の手を取る。


「うぎゃおっ!!」


突然加わった他人の熱に咄嗟に悲鳴が飛び出した。

当然、忍足さんは「えっ?」となる訳で…


「何?その反応は…」


可笑しそうに目を細める忍足さんに対し、私は口をパクパクさせて直立不動。

忍足さんの大きな手が私の手を優しく包んでいる。

もう、それだけで私の頭の中はパニック状態。


「………っ、て…」

「ん?」

「てててっ、手……なんか繋ぐんですか?!」


恐らく熟れたてイチゴのように赤面しているであろう、私の顔。

緊張から驚き、驚きから戸惑いへと忙しく変化する心に、自分自身が追い付いていない。

忍足さんは、私の焦りっぷりに吹き出すのを堪える素振りを見せてから言う。


「当たり前でしょ?付き合ってるんだから」

「っ、?!」


パニック真っ最中の私の耳元に忍足さんの唇が寄せられた。


「………見られてる。堂々として」


低く甘い声でそっと耳打ちされ、猫背がかった背筋が真っ直ぐに伸びた。

その背中に、四方八方から集まった視線が突き刺さる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

私はお世話係じゃありません!

椿蛍
恋愛
幼い頃から、私、島田桜帆(しまださほ)は倉永夏向(くらながかなた)の面倒をみてきた。 幼馴染みの夏向は気づくと、天才と呼ばれ、ハッカーとしての腕を買われて時任(ときとう)グループの副社長になっていた! けれど、日常生活能力は成長していなかった。 放って置くと干からびて、ミイラになっちゃうんじゃない?ってくらいに何もできない。 きっと神様は人としての能力値の振り方を間違えたに違いない。 幼馴染みとして、そんな夏向の面倒を見てきたけど、夏向を好きだという会社の秘書の女の子が現れた。 もうお世話係はおしまいよね? ★視点切り替えあります。 ★R-18には※R-18をつけます。 ★飛ばして読むことも可能です。 ★時任シリーズ第2弾

処理中です...