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売名同盟②
しおりを挟む「日にちや時間等の詳しいやり取りは、LINEでしましょうか」
「あ、はい……」
お互いの連絡先を交換し、忍足さんの名前が友達に追加されたのを確認した所で、間宮への連絡を終えたらしい川瀬さんが入室してきた。
「話はついた……感じ?」
私と忍足さんを交互に見る川瀬さん。
忍足さんがにっこり微笑む。
「えぇ、協力して頂ける事になりました」
「森川の事だから、ごねたんじゃないですか?」
川瀬さんが私をチラリと一瞥する。
「…………」
彼女の言う通り、ごねただけでなく、涙まで流してしまった私は、決まり悪くなり俯いた。
「仕方がないですよ。事が事なので」
「この子、頑固だから………すみません」
「いえ」
川瀬さんと忍足さんのやり取りをどこか他人事のように見守りながら、再び箸を取った。
売名同盟の締結を主とした黒い会食を終えると、時間差で店を出る形で忍足さんと別れた。
店の前で川瀬さんが呼んでくれたタクシーに乗り、自宅アパートまで向かう。
アルコールを摂取しておきながら、あまり気持ち良く酔えていないのは、会食の内容の所為だろうか。
ただの楽しい飲みだったら良かったのに。
「はぁ……」
酒臭い溜め息を繰り返し吐き出す。
手元には、別れ際に川瀬さんから手渡された資料の束。
それの端を摘まんでは離して、ペラペラと音を立てる様をぼんやり眺める。
「お姉さん、テレビに出てた人じゃない?ほら、何だっけ……あんこうだったか、かんぱちだったか……」
ルームミラー越しにタクシーの運ちゃんに話し掛けられ、返答に困って頬をひくつかせる。
「一時期ウチの娘が填まってたんだよ。最近見ないけど引退したの?ん?」
ズケズケと失礼な言葉を浴びせてくる運ちゃんに「人違いです」とだけ返して、それきり黙って窓の外を眺めた。
自宅アパートに着いてすぐ、だらしなくベッドに寝そべり、川瀬さんから委ねられた資料に目を通す。
資料といっても、重要機密書類というような大袈裟なものではなく、ただの雑誌。
発行年数は、古くても過去2、3年程前までの比較的新しいものばかり。
ティーン向けのファッション誌、映画情報誌、番組ガイド誌等、種類は様々。
見るべきページには付箋で目印が付けられている。
『これで忍足さんの事を勉強しておきなさい』
川瀬さんからの指令を受け、面倒臭さを感じつつ……
売名を成功させるには、まず敵を知る事から……と、自分に言い聞かせながら付箋のページを開く。
………敵というのはおかしな例えか。
付箋が貼られたページには、小さいながらも忍足さんの事が書かれた記事が掲載されている。
誌面で出演作の事を熱く語っていたり、インタビューに答えていたり……
カメラ目線で柔らかく微笑む写真に混ざって、オフショットも載せられていたりもした。
無邪気に猫と戯れる塩顔イケメンの写真を見ながら思う。
私、この人と付き合っている振りをするんだな……と。
途端に、気恥ずかしさと重圧が入り交じった複雑な感情に支配される。
私で大丈夫なのだろうか…?
他にも女芸人は居るだろうし、何も私でなくても良いんじゃない?
「はぁ………」
止めどなく零れ出る溜め息を食い返しながら、食い入るように与えられた雑誌を読み漁る。
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