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クッキングタイムside:瑞希
しおりを挟むキッチンに立つ私を見て、母がすっとんきょうな声を挙げた。
それを聞いた父が何事かと慌てて駆け寄ってくる。
「み、瑞希……アンタが料理なんて、どういう風の吹き回し?」
恐る恐るといった具合に確認してくる母の隣で父がずれた老眼鏡を持ち上げた。
私はIHの上で香ばしい匂いを放つフライパンを見詰めたまま答える。
「………別に。少し気が向いただけ」
思えば料理らしい料理を作るのは初めてかもしれない。
カップラーメンやレトルトを温める程度はお手の物だけれど、レシピを見ながらのキチンとした料理は今までした事なかった。
学生時代の調理実習を除いて。
「んと、味付けは……」
スマホでレシピを確認しながら作るのは野菜炒め。
いきなり煮物だとか揚げ物みたいなハードルが高い物に手は出さず、初歩的な料理をチョイスした。
基本は大事だと思うし。
それともシンプルな料理程難しかったりするのだろうか?
出来上がった料理を一口食べて箸を置く。
「まぁ………それなりかな」
レシピを見ながらの調理だから、不味く仕上がる筈はない。
達成感を味わいながら、一人黙々と食事をしている様を父母が恐る恐る眺めている。
次はちょっと凝った物を作ってみようかな……なんて思いながらスマホの画面をスクロールしていると、横から箸が伸びてきた。
その箸の主は父。
ササッと肉とキャベツを摘まんだかと思えば、勢い良くそれを頬張った。
行儀悪く人の食べ掛けを横取りした父は、味わうように目を閉じ、うんうんと頷く。
「うん、85点。みーちゃん、美味しいよ。黒コショウのパンチが効いてるね」
「…………点数要らないんだけど」
ムッとしつつも、思いの外高得点で悪い気はしない。
その様子を見て母も父を真似て摘まみ食いをする。
「ちょっと……」
「んー……悪くないけど、火が入り過ぎじゃない?キャベツがべちゃついてる。炒め物はもうちょいシャキッと仕上げたい所ね」
「は?」
「お母さん的には55点。野菜の切り方が雑。火の通りを均一にする為にも大きさを揃えないと。て事で、芸術点マイナスで総合46点」
「…………」
勝手に品評されてカチンときた。
それ以上に中途半端な点数がムカついた。
「…………あぁそう、分かりました。次はお母様から高得点を頂けるよう頑張ります」
「ふふふ、向上心は料理上手への近道。お母さんの舌を唸らせる料理を作ってみせて頂戴。精々頑張りなさいね」
「……………腹立つわ」
母からの煽りを受けて闘志に火がついた私は、その日を境に料理にとことん打ち込むようになった。
お陰で同棲を開始する頃にはレパートリーが随分と増え、竜生に絶賛される程腕を上げられたから、一応母には感謝している。
当分根に持つだろうけど。
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