その声は媚薬.2

江上蒼羽

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未来の為に【裏】⑤

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次瑞希に会った時に勇気を出して結婚の話題を出して反応を見るつもりでいた矢先、彼女から失業した旨を知らされた。

昨今の不景気で、瑞希が働く工場の一部の規模を縮小するというは小耳に挟んでいたけど、まさか瑞希が切られるなんて想定していなかった。

規模が縮小されるのは瑞希がいる製造ラインとは全く異なる部署だというのに、派遣だという理由でスッパリ切られたようだ。

正規社員とパート社員を守る為なら致し方ないとはいえ、何ともやるせない。

電話で声を聞いた感じではあまりダメージはないようだけど、本当は落ち込んでいるのかもしれない。

彼女の事を気にかけながらも、不謹慎な事にこれはベストなタイミングだと思ってしまった。

退職して無職の今なら瑞希を俺の元に呼べる。

瑞希が自分の地元を離れたがらない可能性もあるけど、この機会を逃さずにはいられない。



善は急げとは良くいったもので、週末のお泊まりデートの予定を急遽変更し、サプライズで温泉旅行を企画してみた。

気軽に泊まれないような格式高い宿を予約し、現地でのプランを入念に考えた。

瑞希の心身をリフレッシュさせてあげたいのと、愛実がアドバイスしてくれたように経済力を見せ付けて安心感を与え、結婚までスムーズに持って行く為。

少々姑息なような気がするけど、瑞希を労いたい気持ちの方が勝っているからそこまで不純な行いではないと思いたい。



金銭的な面を気にして始めは乗り気でなかった瑞希だったけど、旅の意図を話したら渋々納得してくれた様子で、徐々に笑顔が増えていった。

温かい湯に浸かり、一緒に美味しいものを食べて笑い合えるのは何とも幸せな事だろう。

連れてきて良かったと彼女の笑顔を見て思う。

その勢いで将来についての話を切り出してみた所



「そもそも結婚したいと思わないし」



はっきり言われ、頭が真っ白になった。

いや、当然すんなり話が進むと思っていなかったけど、こうもサラッと言われるとショックがでかい。

ならば……と結婚を前提とした同棲を申し出てみると、彼女は拍子抜けしたみたいに目を丸くさせる。


「竜生って私と結婚したいんだ……」


彼女はそんなつもりなかったのかもしれないけど、笑いを含んだ感じが何と無く小馬鹿にされているような気がしてショックだった。

彼女との将来を夢見て色々と思考を巡らせていたのが馬鹿みたいだ。

所詮は俺の独り善がりだったという事か。

  
  
「結婚を考えていなければ、瑞希はどういうつもりで俺と付き合ってるの?」


怒りなのか、悲しみなのか自分でも分からない感情で声が震える。


「……瑞希の本心をはっきり聞かせて欲しい」


瑞希は元カノ達とは違う、違ってて欲しいと祈るように彼女の目を真っ直ぐに見据える。  

彼女は少しだけ押し黙った後、ゆっくりと口を開いた。  

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