その声は媚薬.2

江上蒼羽

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未来の為に【裏】④

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「とまぁ自分語りは置いといて……私の意見なんて参考にならないよ。彼女本人に結婚の意志があるかどうか直接聞けば?」

「それはそうなんだけど……」


聞くに聞けないから相談してるというのに。

頭を抱える俺を見て、愛実が「めんどくさー…」と呟く。


「昔っから気弱過ぎんのよアンタは。どうせ俺なんかと結婚なんて~…って卑屈になってんでしょ?ダッサ、馬鹿みたい」

「…………」


愛実の言葉に耳が痛くなる。

従姉妹とはいえ、ほとんど兄妹みたいに育ってきた。

俺の性格を熟知しているからこそのキツいお灸がじりじりと心を焼いていく。


「少なくとも、タツがこの人ならって思ってるって事は、彼女とはいい付き合い出来てる訳でしょ?自信持ちなよ」


俺が「…………でもさ…」と口を挟もうとするのをすかさず愛実が「でもじゃない」と遮る。


「今のタツは昔のアンタと違ってまぁまぁいい男になってるよ。大事な事だから二度言う。もっと自信持っていい」

「あ……ありがとう…」


愛実の勢いに圧されてたじろぎながら礼を言うと彼女は「きも……頬染めてんな」と笑った。


「とはいえ、仮に彼女に結婚願望があったとしてもタイミングがあったりするよね」

「タイミング……?」

「ほら、仕事で大きなプロジェクトに携わってて結婚どころじゃない~とか。てかさ、タツの彼女って何の仕事してんの?」

「あー……派遣で工事勤務だけど……ウチの下請けというか…」


愛実と話しながら、そういえば……と思い付く。

もし瑞希が俺と結婚してくれるのであれば、彼女には仕事を辞めて俺の地元こちらに来て貰わないといけない。
  

「瑞希は仕事続けたいのかな……?」


ぽつりと呟いた疑問に愛実が「本人に聞きなよ」と苦笑する。



「彼女が仕事続けるにしても、女性は出産と子育てで一時的に働けない時期がある事も考えて、経済力を見せ付けてから結婚を申し込んだ方が良いと思う。これはあくまでも私見だけど」

「なるほど」


素直に頷く俺を見て笑った後、愛実がしおらしく言う。


「あんま役に立たなくてごめん」


そんな姿を珍しく思いながら首を左右に振る。


「いや、凄く勉強になった。ありがとう」


愛実に相談して良かったと思う。

少しだけ吹っ切れたというか、気持ちが楽になった感じ。

そんな俺の心境を見透かしているように愛実が笑いながら言う。


「相談っていうよりかは、背中を押して欲しかったんでしょ?」


愛実は幼い頃からずっと俺の近くにいた唯一の異性だ。

俺のうじっとした性質を熟知してる彼女が大丈夫だと言ってくれたら、きっと大丈夫なんじゃないかってどこかで思ってる自分がいる。


「タツなら大丈夫じゃない?多分。頑張って」

「………そこは大丈夫って言い切ってよ。多分……とかやめてよ…」

「はは、彼女と上手くいくよう祈っとくよ」


取り敢えず、従姉妹のお陰でほんのちょっぴり自信がついた。

 
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