その声は媚薬.2

江上蒼羽

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未来の為に【裏】①side:竜生

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「今日はありがと。じゃあまたね」

「こっちこそありがとう。また連絡するよ」


車を降りて手を振る瑞希に手を振り返して車を発進させる。

デートの後、瑞希を送って自分の地元まで運転する帰り道。

オレンジから暗い色へと変わっていく空の様子も相俟って、暗く沈んだ気持ちになる。

社会人で互いに仕事がある身で、遠距離という程離れてないものの、平日の仕事帰りに気軽に会いに行けない距離感は遠距離恋愛に匹敵するものがある。

毎日電話で声を聞けているけど(彼女に声を聞かせる為にほぼ俺が喋ってるようなもの)、やはり寂しい。

せめて近くに住んでくれていたら……それか俺が引っ越すのもありか………いやいや、それじゃあ仕事を辞めなければならないし……


……等と考えては、今の会社は環境がいいから辞めたくないんだよなぁ……の結論に達する。

もう少し彼女と一緒にいる時間が欲しいと願うのは俺の我が儘か。

彼女は俺と会えなくても、俺の声さえあればいいんだろうけど。

景色が単調な高速道路を走行中、ずっと頭の中がモヤモヤし通しだった。





「久世くんて、彼女といずれ結婚するの?」


休憩時間中、休みは何してた?的な話題から、何気なく上條さんに聞かれた。


「結婚か……」

「付き合ってまだそんなに長くはないだろうけど、年齢的にさー」


本当は俺に然程興味もないだろうに、上條さんは話題を探して提供してくれる。

女っ気のなかった陰キャの中の陰キャな俺みたいな奴に彼女が出来て面白がっているのかもしれないが。


「今すぐには考えてないけど、出来たらいいですね」

「ははっ、そーなの。彼女の方から匂わされたりしないわけ?」

「んー……」


少し考えてから「ないですね」なんて苦笑してみせると、上條さんは「だろうねぇ」と意味ありげに笑う。


「家庭的なタイプじゃなさげだもんね、彼女」


上條さんの言葉に「あー確かに」と同調したものの引っ掛かりを感じた。


「あれ………上條さん、俺の彼女と面識ありましたっけ……?」


上條さんには彼女の名前が“ミズキ”である事以外教えてなかった筈だ。

不思議に思っている俺に彼は大袈裟に「あぁー…」と頭を抱えてみせる。
 

「ごめんごめん、俺の経験上“ミズキ”って名前のコって変に冷めてるコが多くてさー……完全なる偏見。だから久世くんの彼女もそうかなって思ってさ………気を悪くしないで」

「は、はぁ……」


気を悪くしないでと言われても、名前だけで彼女の人格を一括りにされたら内心面白くない。


「俺の彼女は一見クールですが、優しくて思いやりがあるので、上條さんのそれには当てはまらないです」


ムキにならないよう落ち着いた口調を意識しながら反論すると、上條さんは一瞬ムッとしたような顔をしてから言う。


「ハッ、惚気るねぇ」 


たっぷりの嫌味が込められているのを感じる。

尊敬する先輩の機嫌を損ねたくないけど、大切な彼女を侮辱される謂れはない。


「まぁでも本当の事なんで」

「ハイハイ、ごちそーさん」


俺の相手に飽きたらしい上條さんは「さーて、仕事しよっと」と独り言を言いながら自分のデスクへと戻って行った。    

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