59 / 81
未来の為に②
しおりを挟む不意にバッグの中から着信音が聞こえてきた。
携帯を取り出すと画面には“久世 竜生”の文字が表示されている。
通話を選んで端末を耳に当てる。
「もしもし」
『もしもし、お疲れ様』
相変わらずの彼の美声は、今の弱っている私の心に沁みる。
萎れていた心が一気にひったひたにまでに潤った。
「ん、竜生もお疲れ様」
『はは、もうヘロヘロ……けど、あと2日耐えれば休みだから頑張る』
弱々しく言いつつも、彼はどこか嬉しそうだ。
『週末は瑞希と会えるからね』
「あ、そだね」
そういえば会う約束をしていたっけ。
『3週間ぶりかな?』
「だね」
『毎日電話で声聞いてるけど、やっぱり顔見ないとね』
弾んだ声から彼の表情を察してほんのり笑みを浮かべつつ、さりげない感じで切り出す。
「私、無職になってしまったよ」
竜生は『え?』と声を挙げた後、少しの間を置いて『………どういう事?』と聞き返してきた。
「派遣切り?っていうの?それ」
『派遣、切り……』
彼はきっとスマホを耳に当てたままポカンとしているだろう。
「だから次の仕事が決まるまで当面節約したいんだ。悪いけど竜生の部屋でお家デートでいいかな?」
本当は週末のデートを凄く楽しみにしていた。
竜生に会えるのは3週間ぶりだし、二人で行きたい所もあった。
ショッピングしたり、映画を観たり、美味しい物を食べたり……想像を膨らませてた。
だけど、無職の状況じゃ楽しめるか分からない。
「勝手で悪いけど」
竜生は暫く間を置いてから『あ、うん……そういう事情なら』と明るく言った。
通話を終えてから携帯の画面に表示された時計を見て少し驚いた。
いつの間にやら陽が落ちていて、辺りは暗い。
派遣会社の事務所を後にしたのはお昼過ぎだったから、かれこれ半日近くはこの公園に滞在している事になる。
下手したら不審者じゃん、と自虐的に思うと同時に笑みも零れた。
「そういえばお腹空いたな」
親に打ち明けるのは気が引けるな……なんて考えながら街灯が照らす歩道を重い足取りで歩く。
コンビニにでも寄ろうか、それとも吉牛でもテイクアウトして帰ろうかと少し悩んでから
「節約しなきゃだった」
金額は小さくとも、塵も積もれば何とやら。
今後の見通しが立つまでは倹約を意識して生きようと、空腹を訴える胃の辺りを撫でながら決意した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
21
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる