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怠さが残った朝に…③
しおりを挟む再度冷蔵庫の扉を開ける。
取り敢えず卵だけはあるから焼くか茹でるかしようと手に取った。
「ふふ……昨日のグダグタトロトロの甘えたな久世さんとはすっかり別人ですね」
「?!」
卵が手の中から滑り落ち、グシャッと嫌な音を立てた。
足先に滑りのある感触が当たる。
「…………夢じゃなかったの…?」
どうやら俺が見ていた夢は夢じゃなかったらしい。
全身に高速で熱が回る。
「………き、消えたい…」
今すぐこの場から消え去りたくて堪らない。
「何やってるんですか………まだ本調子じゃないなら寝てればいいのに」
笑いを含ませて言った瑞希がティッシュ箱を持って俺の足元で散っている卵の残骸を処理しに駆け寄ってきた。
「勿体ない」
「あああ!お、俺が自分でやるから!」
すかさず瑞希から箱を奪うと結構な範囲に散らばった白身をかき集める。
ぬるぬるに手こずっている俺に瑞希が言う。
「昨日みたいに素直に甘えればいいのに。久世さんの事嫌いになったりしないから」
ふふっ……と愉しそうに笑う彼女とは裏腹に、恥ずかしさで全身から力が抜ける俺。
「熱ぶり返しました?耳まで真っ赤です」
「っあ、違っ……見ないで!」
ふにゃふにゃになりながら悶える俺を見て瑞希が笑う。
「塩をかけられたナメクジみたいな動きですね」
昨晩のやり取りを思い出して恥ずかしいのとナメクジに例えられたのが情けないのとでまた具合が悪くなりそうだった。
そんな俺の代わりに瑞希が卵の処理を終わらせる。
そして手を洗いながら言う。
「もし次具合が悪くなったりしたら、従姉妹の方じゃなくてすぐに私を頼ってくださいね。出来る限り早く駆け付けますから」
「え………」
濡れた手を傍に掛かっているタオルで拭いた瑞希は、未だに踞った状態の俺に合わせてしゃがむ。
「弱々で甘えんぼな久世さんを他の人に見られたくないというか………」
瑞希と視線がしっかりと絡む。
「竜生の彼女は私だから、それを差し置いて他の誰かを頼って欲しくない………のが素直な気持ちだったりする」
「み、ずき……」
初の名前呼びに感動していると、彼女はボソッと言う。
「……柄にもなく嫉妬しちゃった」
照れ臭そうにはにかんで笑う彼女の貴重な姿を目にして、孤独に耐えながら熱に唸って辛い思いしたくせに、たまに風邪を引くのも悪くないかな………なんて馬鹿な事を考えたりした。
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