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面会拒否、とな……?⑥
しおりを挟む「………久世さん、その声……」
「…………ご”め”ん”」
喉を焼かれたんじゃないかって程のガビガビの声に驚いて久世さんの方を見ると、目に涙をいっぱい溜めて震えている彼と目が合う。
涙は今にも零れ落ちてしまいそうだ。
気まずそうに私から目を逸らした久世さんは布団を握り締めながら言う。
「こ”ん”な”み”っ”と”も”な”い”こ”え”き”か”せ”た”く”な”く”て”……」
「久世さん……」
普段の美声が嘘のように嗄れている。
それ以上に非常に喋りづらそうだ。
「久世さん喉痛いなら無理に声出さないで。余計に傷めちゃうよ」
「け”ど”」
バッグから仕事用に使っているミニサイズのノートとペンを取り出し、彼に差し出す。
「筆談。これに言いたい事書いて」
「…………」
素直に受け取った彼の頬は濡れていた。
普段から気弱な彼の更に弱々しい姿に、不謹慎ながらキュンとさせられる。
うっかり「可愛い……」と言いそうになるのを懸命に堪えながらペン先を走らせる彼の手元をぼんやり見ていると、スッとノートが差し出される。
ノートには
“熱は酷い時より多少落ち着いたけどノドが全然良くならない”
“日頃からノドに気を配っていたのに悔しい”
と書かれていた。
「そっか……喉、酷く痛む?」
私の問いに、彼は首を左右に振る。
そしてまたノートに何かを書き出した。
“痛みはもうないけど、引っ掛かる感じが残ってる”
“このまま治らなかったらどうしよう”
「だっ……」
“大丈夫だよ”と言いかけて口をつぐむ。
無責任な言葉のチョイスだと気付いたから。
誰よりも自分の声を大切にしている彼だから、今の現状は精神的にかなりきている筈だ。
声が元に戻る保証もない。
だから“大丈夫”なんて言葉は、今はただの気休めにしかならない。
「とにかく今は静養第一です。横になりましょう」
久世さんからノートとペンを回収して、彼に横になるよう促す。
「布団しっかり掛けて」
「………み”……ず”き”」
「ん?」
すがるように私を見上げる久世さん。
「お”れ”の”こ”と”き”ら”い”に”な”ら”な”い”で”……」
懇願する久世さんの目から涙が溢れる様を見て、ゾクゾクしている私がいる。
どうやら自分の中にサディスティックな一面が存在しているらしい。
あまりにも彼が愛くるしいものだから、いたずらしたい欲に駆られる。
それを必死に堪えながら久世さんの手を握る。
「寝付くまで手握ってましょうか?」
普通の状態の彼だったら「子供扱いしないで」なんて言って拒否していたかもしれない。
けれど、熱で弱っている彼は手を払いのける気力はないらしい。
「ん………お”ね”が”い”……」
熱と汗で湿った手に微かに力が込められた。
潤んだ目と息も絶え絶えで。
よれて首回りが伸びたシャツからチラ見える鎖骨に、緩く開かれた口元という無防備な姿に密かにゴクリと生唾を飲み込んだ。
「…………久世さん、早く元気になってくださいね」
その時は私の気が済むまで相手になって貰うつもりだ。
私の邪な思考を知るよしもない久世さんは、素直に頷いて安心したように眠りについた。
部屋には時計の秒針の音と、久世さんの寝息が響く。
「………可愛過ぎて、滅茶苦茶にしてやりたい…」
所謂生殺しってやつを味わいながらも、久世さんの体調が早く戻るよう願う。
「久世さん……ガビ声もエロくて良い…」
久世さんが完全に眠りに落ちてからも、私は彼の汗ばんだ手を離さなかった。
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