その声は媚薬.2

江上蒼羽

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面会拒否、とな……?①side:瑞希

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久世さんからLINEが来た。




“ごめん風邪っぽい”

“明日会う約束キャンセルで”

“治ったら埋め合わせちゃんとするから”




とな。


どうやら彼は風邪を引いてしまったらしい。

すかさず“大丈夫?”と返信し、すぐに既読が付いた。



“ちょっと熱あるけど寝ていれば治ると思う”



またすぐに“熱どれくらい?”と打ち返したけれど、既読が付いたのみで、それに対しての返事はなかった。



「風邪かぁ……」



彼の体調が気になる所だが、生憎お昼の休憩が終わる3分前で仕方なく携帯をバッグに仕舞い、ロッカーに鍵をかけた。


現場に向かって早足での移動中、島津さんから「何かあったんですか?」と鋭い指摘が入る。

それに「どうして?」と答えると、彼女は自らの眉間を指差しながら言う。


「伊原さん、眉間にすっごい深~い皺。普段クールな伊原さんらしくない感じですよ」


ハッとして、すぐに表情を和らげる。


「何か心配事でもあるんですか?」

「…………」


聞かれて一瞬悩んだものの、別に隠したり誤魔化したりする理由もないので、正直に事情を話してみる事にした。


「どうも風邪を引いたみたい……彼氏が」


と、丁度ここで午後の作業開始のチャイムが鳴った。

それが鳴り終わるのを待ってから、島津さんが口を開く。


「ほへー彼氏さんが。で、状態は?」

「んー……熱があるっぽいのは分かるんだけど、どのくらいあるのかまでは……」


分からないと付け加える前に島津さんが口を挟む。


「彼女らしくお見舞いに行きましょう!行くべきです!」


何故か島津さんの目が輝いている。


「いや、寝てれば治るって言うしそっとしておこうと思ってるんだけど……」

「いやいやいや!そこは彼氏さんが強がってるだけですよ!きっと今頃熱に魘されながら伊原さんの名前呼んでる筈です!」

「あはは、大袈裟な。LINE打てる余裕あったし、大した事ないって」

「伊原さんは彼氏さんが心配じゃないんですか?!」


島津さんの圧が怖い。


「そりゃあ心配だけど……」

「心配だけど?」

「私が行った所で彼の熱が下がる訳じゃないだろうし、お見舞いに行く必要性を感じないなぁ」

「伊原さん!!」


島津さんがあまりにも大きな声を出したものだから、周囲の人が一斉にこちらに視線を集める。

居心地の悪さを感じる私と違って、島津さんは周りの目など気になっていないようでやたらと血走った目を見開き、私に掴み掛かる勢いのまま訴える。


「伊原さんがクール過ぎて彼氏さんが不憫でなりません!伊原さんがそんなだから甘えるに甘えられなくて、きっと彼氏さん寂しい思いをしてる筈です!」

「…………そ、そうかな……?」

「そうです!!」


お互いにマスクをしていて良かった。

もし今島津さんがマスクをしていなかったら、彼女の唾が沢山顔に掛かっていたと思う。

それくらい彼女の勢いは激しく、距離が近い。


「伊原さんは、弱ってる時にパートナーから甲斐甲斐しくお世話されたら嬉しくないんですか?私だったら愛を感じて安心しますよ」

「うーん……」


正直な所、私は自分が弱っている所を誰かに見られたくない。

その辺は人其々だと思う。

久世さんはどうか知らないけれど。

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